ナタリー PowerPush - サカナクション

未来派ニューカマーが生み出す文学的ダンスロックの新しい地平

サカナクションがニューアルバム「シンシロ」を完成させた。彼らの新たな一面を見せつけた先行シングル「セントレイ」を含む11トラックは、どこを切っても高品質な仕上がり。ダンスロックからフォークトロニカまで幅広く広がる音世界の中で、切ない歌詞とメロディが心にしっかりと届いてくる。

ナタリーでは2009年の音楽シーンを牽引するであろう彼らに取材を敢行。ボーカル/ギターを担当するバンドの司令塔、山口一郎に話を聞いた。

取材・文/大山卓也

 
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料理を作ってるみたいでした

——アルバム完成おめでとうございます。制作を振り返ってみていかがですか?

今回は東京に引っ越してきて初めてのレコーディングだったし、制作方法を大きく変えたりして、自分たちにまだ伸びしろがあるというのを実感しています。このアルバムを作って、今後バンドとしてやっていくべき方向がやっと見えたというか。

——その方向というのは?

今までぼくらはいわゆるJ-POPシーンとは少し離れたところにいた気がするんですけど、これからはもっとそこに軸足を置いて自分たちをちゃんと表現していきたいと思って。

——なるほど。制作方法を大きく変えたというのはどういうことですか?

今までのアルバムは、ぼくが原曲を作って、スタジオでぼくがメンバーにイメージを伝えてセッションしながら形にしていくっていうやり方で制作していたんです。でも今回新しく、ぼくが原曲を作って、メンバー1人1人とマンツーマンでその曲を担当してやっていくっていう方式にしてみたんですね。例えばぼくと岩寺(G)が作ったデモを他のメンバーが客観的に聴いてアレンジしたり。そうすることによって、その楽曲へのアプローチの仕方やアレンジの組み立て方を俯瞰で見られるようになった。これは大きかったです。

——珍しいやり方ですよね。

けっこう冒険でしたけどね。でも、ぼくはバンドにとって一番大切なのは自分たちを客観視することだと思ってるんです。パソコンの前に座って1人で作り続けていると、間奏が長いか短いかさえもわからなくなってくる。自分の世界に入っちゃうんですよね。それは制作においては非常に重要なことだけど、それだけじゃダメだと思うんです。

——具体的にはどんな手順で進めていったんですか?

原曲を渡して、曲のイメージを伝えて、あとは一緒に作っていきましたね。

——共同作業で?

はい、だいたいぼくの部屋に集まってみんなで作業しているんで、途中経過を聴かせてもらいながら「もっとこうしたらいいんじゃない?」とか相談して。ある程度まとまったら「じゃあこれ今度スタジオで合わせるから聴いといて」って他のメンバーに投げる。他のメンバーは「うわ、こんな曲になったんだ」「これどうしよう」「ここのドラムは変えていいの?」とか「ここは変えていいけど、こっちは残したい」とか。そういう細かいニュアンスを伝え合いながら作り込んでいく感じでした。

——それ、ちょっと楽しそうですね。

面白いですよ。なんかね、料理作ってるみたいで。または幼稚園児の砂遊びの延長というか。みんなでゲラゲラ笑いながら、楽しみながらやってましたからね。

——いいですねえ。

あと誰かの作業が手間取っていたらみんなで手伝ってあげたりして。そういう作業を端から見ていてみんなの性格がさらにわかってくるところもあったり。あ、草刈(B)は姉御肌なんだとか。岩寺はマイペースだなあとか。

——なんだか山口さんが先生で、みんなが生徒みたいな感じですね。

いや、むしろ会社っぽかったかも(笑)。今回レコーディングが終わってから1人1人面談したんですよ(笑)。

——すごい(笑)。

1時間おきにメンバー1人ずつうちに来て「今回こういう方法でやったけどどうだった?」みたいな。「メリットとデメリット言ってみて」みたいな。

——バンドのことを相当シビアに考えてないとできないですよね、それ。

で、それで意見吸い上げてから、全体ミーティングで「次どういう風にやろうか」みたいな話をして。

——ものすごく会社っぽい。

そうですね(笑)。

第1期サカナクションは完成です

——アルバム制作を通してメンバーそれぞれの主張や個性がはっきり見えて、よりバンドらしいバンドになってきた印象があるんですが。

はい、健全なバンドになった感じがします。女性がいるっていうのが大きいですね。男同士だったら胸ぐらつかみ合って「なんでわかんねーんだコラ!」って言えるけど、女の子までそれはできないし、露骨に言うと泣いちゃうし、かと思ったら変なところで気が強いし、みたいな(笑)。それがなんだか今回の制作ではいい方向に転んだ気がしますけど。

——女性観が変わった?

少なくともバンド観は変わりましたね。自分自身も成長してると思うし。

——じゃあこのアルバムでサカナクションの新しい扉が開いた感じですかね。

はい、第1期サカナクション完成、といったところですかね。

サカナクション

山口一郎(Vo,G)が高校時代の同級生、岩寺基晴(G)と2人でサカナクションを結成。札幌を中心に2005年よりライブ活動を開始。江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)の3人が2006年春までに正式なメンバーとして加入し、現在の5人編成となる。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集めた彼らは、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出演。地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。そして2007年5月にBabeStarレーベルより待望の初アルバム「GO TO THE FUTURE」をリリース。2008年1月には2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表する。その後、初の全国ツアー(8カ所8公演)を行い、同年夏には新人最多となる8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。

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