さかいゆう|国内外の敏腕と作り出す新たなポップミュージック

自分がいい音楽だって思うプレイをしようよ

──ニューヨークで録音した「Brooklyn Sky」「I'm A Sin Loving Man」には日本を代表するトランぺッターの黒田卓也さんが参加してます。彼と出会ったきっかけは?

8年くらい前にジャズバーでたまたま知り合って、何回かジャムったりしましたね。僕のキャリアにはジャムでつながった人がけっこういるんですよ。卓也は関西弁の声がデカいおもろい兄ちゃんだなってイメージで、トランペットもあの性格のまんま。音で卓也だってわかるんですよね。音楽と自分との間にフィルターがないのがすごいなと思います。バンドは卓也のチョイス。曲をみんなでじっくり聴いて、「自分がいい音楽だって思うプレイをしようよ」って曖昧なディレクションのもとにやりました。卓也のアルバムでは絶対にないような、でも卓也がガッツリ来たみたいな音楽になればいいなと思っていたので。

──黒田さんと一緒にやってる曲の感じって、それこそマイルスカフェとかでやってたセッションのサウンドとも近いんじゃないですか? 例えばディアンジェロやRHファクターとか。

ロイ・ハーグローヴのサウンドですよね。卓也はロイを参考にしているところがあると思うんです。彼はロイに似ているって散々言われてきているんだろうけど、もうそこは乗り越えてて、それを彼に言うと「むしろ光栄だ」って。でも、彼の音楽はロイが絶対にやらないようなタッチなんですよ。そこのソウルはアメリカのソウルじゃなくて、自分のソウル。「俺の話を聞け」みたいなノリで入ってくるから、いい意味でケミストリーが起こってて。音楽は卓也一色になるけど、バランスは失わないっていうか、それができるのはすごいミュージシャンだって思いますよね。ジャズとかそういう枠を超えて、彼にしかできない音楽をやってる。

──ちなみに黒田さんとの曲では、ホセ・ジェイムズのバンドのピアニストでもある大林武司さんが参加してますが、さかいさんも鍵盤奏者なのになぜ彼を呼んだんですか?

僕が弾くと完全に自分のサウンドになっちゃうなと思って。自分とは違うハーモニーとかも欲しかったんです。武司は絶対に僕が思い付かないハーモニーを鳴らしてくれるから、そういうドキドキ感も欲しかったんですよね。武司は「『Stella By Starlight』とかを弾いて」って頼むと、僕の鑑賞用に音源を送ってくれたりするんですよ。

一番好きなギタリストとの共演

──あと、気になるのは「Magic Waltz」「桜の闇のシナトラ」に参加した世界的ジャズギタリストのジョン・スコフィールドです。

ジョンスコは僕が世界で一番好きなギタリスト。時期だと今が一番好きです。2006、2007年以降のジョンスコがいいんですよ。リズムもここ最近が一番好きですね。

──若手とも積極的に共演して自身の音楽をアップデートしてますよね。最近はジェラルド・クレイトンとかラリー・グレナディアともやったり。

多くの人がイメージするジョンスコって90年代くらいの彼だと思います。Medeski Martin & Woodとやってるグルーヴ系の「A Go Go」とか。でも、あれはほんの一部のグルーヴサイドのジョンスコだから。

──どんなところが好きなんですか?

ジョンスコで一番好きなのはスペースの作り方ですね。80年代までの彼は才能を世間に認められたいという一心で、あらゆるフレーズを弾いていたように思います。だから80年代っぽいコーラスとかを入れたりもしている。

──具体的には?

ジョンスコのフレーズって音程がすごく曖昧なところに行くんですけど、裏の裏のコードとかも考えて、裏コードから借りてきて弾いたりしてて。だから、アウトしているように聴こえてもジョンスコ的にはアウトしていないんです。ハーモニーとかがバーンと当たってないとよさが伝わらないから、そこでコーラスとかを使っちゃうとただアウトしている変態ギターに聴こえてしまう。僕の中で彼は全然変態じゃなくて、一番歌心があって、その歌心はハーモニーの枠内だけじゃなくて、自分が気持ちいいと思うハーモニーの裏の裏くらいまで聴こえていて、それに忠実に弾いているだけなんです。ジョンスコの場合は自分のスペースとか歌い方の中にジャズもあるみたいなギタリストだから、そこがすごいんですよ。

──なるほど。ベースのスティーブ・スワロウ、ドラムのビル・スチュワートというディープなジャズのリズムセクションが参加していたのはびっくりでした。

ジョンスコにデモを2曲聴いてもらって、彼にビル・スチュワートを紹介してもらって、最終的にはトリオバンドっぽくなっちゃったみたいな感じですね。3人もびっくりしてました。

──スティーブ・スワロウは近年ジョンスコと一緒にやってるイメージはないですよね。そもそも日本のポップミュージックでスティーブ・スワロウがベースを弾いてる音源ってほかにないんじゃないですか?

たぶん初めてですよね。ジョンスコもそうじゃないですか? 彼が「日本人とやったのは日野皓正以来かも」って言ってましたよ。80年代とかの話ですよね。

──それにしても不思議な組み合わせですよね。これってこのメンバーだからここまでジャズっぽいアレンジにして、自由に演奏させてるってことですか?

自分はこれをジャズだと思ってないですけどね。ジョンスコとやるんだったらこれだろうって感じです。「桜の闇のシナトラ」に関しては「ニューヨークに咲く桜のイメージでやろうよ」って言ったら、そのディレクションを彼が気に入ってくれて。だから、普段のジョンスコのイメージよりはもっと和っぽいフレーズだったりするんですけど、まさかこんなにうまくいくとは思わなかったですね。彼にはたっぷりソロを弾いてもらいたくて。それは自分が聴きたかったからなんですけど。

──レコーディングはいかがでしたか。

この曲のコードってB♭がベースなのに、Bからメロディがスタートするんです。こんなの誰も歌えないんじゃないかなみたいな曲なんですけど、ジョンスコにはそのフレーズがきちんと聴こえてるんですよ。そのハーモニーの共有の仕方がヤバかったですね。僕が弾いたフレーズやバッキングを聴いて、瞬時にそこから発生したフレーズを弾いてくれましたね。