saji|夏の終わりに歌う6つの恋

キラキラした「途中の恋」

──では4曲目の「アサガオ」は?

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ヨシダ もともとここに入れる予定で書いた曲ではなく、単に歌いたくて好きに書いていた曲を制作期間中に思い出して、リライトを加えました。これはリアルタイムの、今も続いている恋ですね。

──現在進行形の日常の小さな幸せ、という感じがしますね。

ヨシダ 本当にそうです。大学生ぐらいになると、半同棲になったりすることがあって、一緒にいすぎると、相手がちょっといなくなるだけで寂しい気がするじゃん?

ユタニ そうだね。

ヨシダ 数日仕事でいないだけでこんなに切なくなるんだ、みたいな。自分の中にある甘えたい感情が……僕はあんまり持ってないですけど、でも甘えたいときの感じはわかるなと思って、自分にも置き換えてはいますね。この主人公はたぶん付き合いたてなんじゃないですかね。5、6年経って「もう何処へ行っても離さないでよ」なんて言える男は、素晴らしい男だと思いますよ。だからこれは現在進行形の、「途中の恋」ですね。恋愛の途中って、すごく素敵じゃないですか。一番楽しい時期だと思う。

ユタニ キラキラしている。

ヨシダ 恋愛って、始まったら終わるしかないですからね。一度出会ってしまえば、さよならするか、どっちかが死んじゃうか。だから途中というのはすごく素敵だと思うんですよ。

──この曲、二人称が「あなた」で、女性目線のようにも見えるけれど、主人公は男性でいいんでしょうか。

ヨシダ 「ハナビノウタ」は完全に男で、「You & Me」も男なんですけど、それ以外の曲は男女どちらとも取れる言い方を混ぜているんです。そうそう、この「アサガオ」の歌詞を書き直している時期は、まさに男性同士の恋愛を題材にした「きのう何食べた?」を観ていたので、たぶん混ざったんじゃないですかね。内野聖陽さんの気持ちでずっと観ていたから(笑)。男だけど、どちらかと言うと女側の気持ちで。でも本当に、歌詞にはドラマの影響があると思います。「あなたを想い 苦しくなるよ」とか。

毒をプラスした「禁断の恋」

──そして5曲目「真に暗き夜」はほかとは全然違う曲調で、これだけ激しいロックですね。

ヨシダ これは不倫の歌なので、「禁断の恋」ですね。恋というテーマの中で1つ、毒を盛ってやろうと思ったんですよ。僕は歌詞の中で皮肉な言い方をすることが昔から多いんですけど、今回で言うとこれがそうです。僕は結婚していないし、こういう経験がないのでわからないですけど、ただ、みんなが恋愛でやらかしちゃう理由って、“許されない”という罪悪感もありながら背徳感と好奇心が勝つんだと思うんですよ。そういう感覚って、男女関係なくあると思うんですよね。この主人公は、2人の関係が始まった最初の頃は不倫関係に甘んじるつもりなんですよ。「パートナーがいる方と思いを添い遂げるなんて考えていないから、立場をわきまえています」と思っている。でも何度も関係を重ねていくうちに「一番になりたいな」と思うんでしょうね。

──最後の1行とか怖いですよ。「秘密を暴露(バラ)してしまう前に」って。この人、このあと何かやらかすんじゃないか?と。

ヨシダ 愛が憎しみに変わる瞬間ってありますからね。手に入らないんだったら、いっそのこと……みたいな。恐ろしいね。肝に銘じて生きていかないと。

ユタニ 気を付けようね。

ヨシダ いや、気を付ければ気を付けるほどハマるんだと思うよ。真面目な人のほうがハマっちゃうと思う。まさに「禁断の恋」ですね。

──次の曲に行く前に。ヤマザキさんはラブソングについてどう思いますか?

ヤマザキヨシミツ(B)

ヤマザキ ラブソング、いいですよね。このアルバムだったら「アサガオ」が好きです。歌詞とかよりも、普通に曲の雰囲気が好きですね。

ヨシダ ……今、俺、ディスられた?

ヤマザキ だって、歌詞は全部読んでないから。

──あはは(笑)。そんなあ。

ヨシダ でも毎回そうだよね。

ヤマザキ やっぱりタクミの書く歌詞は信頼しているので。確認しなくても、任せています。こちらからは以上です。

ユタニ スタジオにお返しします(笑)。

ヨッシーを連想する「約束の恋」

──そして最後の6曲目が「STAR LIGHT」です。この曲の存在はすごく大きく、このミニアルバムの核心になる曲だと思うので、じっくり聞きたいんですね。それこそ、死に至るまでの壮大なスケールの愛の歌だと思うので。

ヨシダ これはアルバムの締めの曲にしようと思って書き下ろしたんですよ。この曲も「途中の恋」ではあるんですけど、これはこの物語の主人公なりのプロポーズなんです。実はベースのヨッシー(ヤマザキ)を連想して書いたんですよ。ネタじゃなくて。

ユタニ ほおー。

ヤマザキ 歌詞を?

ヨシダ 歌詞。なんでかと言うと、もう十何年の付き合いですけど、ヨッシーは言葉で何かを伝えるということをあまりしないんですよ。態度や行動で示すタイプなので、「好き」とか「愛してる」とか、言葉を用いて相手に気持ちを伝える人じゃない。

ヤマザキ ……正解。

ユタニシンヤ(G)

ユタニ 正解なんだ(笑)。

ヨシダ 仮想の人格としてヨッシーみたいな人を立てて、そのうえで僕なりに、そういう人はどういうことを考えるだろう?と思ったときに、1行目の歌詞が出てきたんですね。「僕らがもしも完璧な人間だったら この世はとっくに滅んでいただろ」と。自分が不完全だからこそ、ないものを相手に求めることによって、生物としての人類が繁殖していったわけですから。そしてBメロに関しては、「フォレスト・ガンプ」という映画をユタニから「絶対いい」とオススメされ続けて、僕は今年に入ってやっと観たんですけど、主人公が途中で言うんです。「僕は賢い人間じゃない。でも愛が何かは知ってるよ」って。そのワードがすごく僕の中で引っかかったんです。

──それはなぜでしょうか。

ヨシダ 愛を形容する手段はないけれど、人は生まれたときから親に愛をもらっているし、誰かの愛をもらっている。僕らは生まれながらに、ないものを誰かから受け取って、ないものを誰かに渡そうとしているんですね。だから「愛が何かは知ってるよ」なんです。誰も見えていないけれど、みんな知っているし、僕も知っている。そして今それを、君に渡そうとしている。だからBメロの「愛に形がなかったとしても それがなにかは知ってるよ」という言葉は、この人のプロポーズなんですよ。そばにいるだけでそれを示しているということですね。

──そして歌詞の最後のフレーズの「長生きしよう。」はとても平凡な言葉だけれど、そこにメッセージが詰まっているという。

ヨシダ 一緒にいることの難しさがわかるから、明日も明後日もいてほしい、という歌なんです。これを「○○の恋」ということで言うと、陳腐な言い方だけど、「約束の恋」じゃないですかね。結婚は「死ぬまでそばにいてくれ」という約束ですよね。だから「約束の恋」は最上級の恋だと思うんです。人生を懸けているわけだから。さかのぼってみると、高校のときのほうが「結婚しよう」とか言っていた気がする。ヒロイックな感じで。

ユタニ それはあるかもね。

ヨシダ 当時付き合っていた彼女に「一生一緒にいような」とか普通に言っていましたね。大人になってから、逆にそれが言えなくなったんですよ。「好き」は言えるけど、「結婚しよう」は言えない。だって「一生そばにいてくれ」って、本気じゃないですか。本気だから、言えなくなる。嘘を言うのは簡単なので。だから、小さい頃に「好き」と言えないのは、本当だからなんですよね。

──それが大人になると、言えることと言えないことが反対になっていく。

ヨシダ そう。だって、今はなかなか言えないでしょ。「結婚しようよ」なんて。

ユタニ かなり勇気がいるね(笑)。

「今はわからないかもしれないけど」とは言わない

──これまでお話ししてきた6曲の恋の歌は、対象年齢がかなり広いなと思いました。sajiのファンは10代、20代が多いですけど、ほかの世代にももっと広がっていく可能性があると思います。

ヨシダ 僕はいつも10代の頃の自分を思って書いているんですけど、10代の頃の気持ちを20代の僕が書くので、必然的にそういうギャップは出るんだと思います。あとは聴いてくれる人が、今は10代の子が多いですけど、20代、30代に広がっていったときにどうなるか。世間に投じるまでが僕の仕事で、そこから先の反響は皆さんに委ねるしかないので、「僕はこう思うけどどうですか?」ということですね。ただ、1つ気を付けているのは、分別くさくならないこと。子供としゃべるときは、大人は膝を落とさないといけないですからね。上からになっちゃうから。目線も、心の部分も。だから、人としゃべっていても言わないようにしている言葉が「今はわからないかもしれないけど」なんですよ。今はわからないかもしれないなら、言わないでほしい。10代のときにさんざん思いましたからね。「大人になったらわかるから」とか、それを言っちゃってる時点で「俺はお前よりも先にいるから」という意味じゃないですか。実際、いつかわかるときは来るんですけど、そういう言い方はしないようにしています。

──つまりsajiは、ずっとリスナーと同じ目線で青春を歌うバンドでいたい?

ヨシダ いたいですね。中学のときの自分が好きなバンドでいたいです。音楽が本当に好きだった時期が、まさにそこなので。大人はその思い出の延長というか、余韻で生きている。10代のときに好きだった歌って、変わらないと思うんですよね。だから僕は、昔の僕、彼らに届く音楽であればいいなと思います。その子たちが5年後、10年後に僕らを支えてくれればうれしいですね。

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