吐息のエロさがなるべく生きるように
斉藤 アルバムの曲がそろってから、去年の12月にはYouTubeのオフィシャルチャンネルで弾き語りのライブもやったんです。30分くらいの短いやつ。そのときひさびさに「虹が消えるまで」も歌ったんですよ。
小泉 あ、そうだったんだ。
斉藤 詞はCMプランナーの高崎卓馬さんが書かれたんですけど、今の状況にすごく合う曲だなと思って。
小泉 あの曲は「ホノカアボーイ」って映画の主題歌ですけど、私は原作者の吉田玲雄くんと昔からの友達で。彼が物語の舞台になるハワイの古い映画館でバイトしていた頃、遊びに行ったりしてたんです。
斉藤 小泉さん、原作のエッセイに出てくるもんね。
小泉 うん。だから個人的な思い入れもあったし。映画化が決まったときは、友人としてすごくうれしくてね。主題歌のオファーをいただいた際には、自分が好きなミュージシャンの方と一緒にできないかなって思ったんですね。それで斉藤さんに声をかけた。あのときは歌詞が先にあったんでしたっけ?
斉藤 そうです。
小泉 高崎さんの書かれた詞も素敵なんだけど、斉藤さんの付けてくださったメロディがまた素晴らしかったんですね。虹って美しいけど、希望と同じですぐ消えちゃうじゃないですか。儚いと言えば儚い。でも、確かに存在はしていたし、大切な記憶として残ってる。まさにそういうメロディになっていて。とても大好きな曲。ライブでもけっこう歌ってました。
斉藤 小泉さんが歌うとブレス(息継ぎ)が色っぽいんですよね。その吐息のエロさがなるべく生きるようなメロディを考えた記憶があります。
小泉 斉藤さんそれ、レコーディングのときも言ってましたね。確か最初にリハーサルスタジオで仮歌を録って。後日、本番のボーカル収録日を設けていただいてたんですけど……。
斉藤 結局、最初のテイクが一番よかった。小泉さんも「そうでしょ! 私もそう思う」となって。差し替えなしで仮歌をそのまま使ったんですよね。
小泉 いやー、懐かしいですね。
今も変わらない“ロックでカッコいいお姐ちゃん”
──斉藤さんは当初、小泉さんにどんなイメージを抱いてたんですか?
斉藤 そりゃあ俺からすると、なんてったってキョンキョンですからね(笑)。80年代のアイドルの輝きって、最近のグループ系の女の子たちとは違いますし。中でも小泉さんは特別自由な人っていうか。発言1つとっても、かわいいだけのタレントじゃない。ファッションも、あと自分の意思でいきなり髪を切っちゃうところとかも強烈で。
小泉 あははは(笑)。お恥ずかしいわ。
斉藤 同い年だけど、俺の中では“ロックでカッコいいお姐ちゃん”って印象が強かったかな。それは基本、今もずっと変わってない。
小泉 私と斉藤さんの出会いは、フジテレビの「ポンキッキーズ」で「歩いて帰ろう」を聴いたのが最初でした。すごく気に入って、普段からよく口ずさんだり、カラオケ行って歌ったりしてたんですね。で、しばらく時間が経って、今度は2つ年上の姉が「歌うたいのバラッド」を教えてくれて。また「ガーン!」ってなった。それでアルバムもまとめ買いして。数カ月ほとんど恋愛状態だったな。
斉藤 わあ(笑)。そうなんだ。
小泉 恋愛状態っていうか、恋愛担当? たぶんその頃、私の中に恋愛成分が足りてなかったんでしょうね(笑)。そういう欠落部分を、斉藤さんの切ないラブソングが埋めてくれてたんだと思う。「君の顔が好きだ」の恋愛観とか、実は衝撃的だったし。好きな楽曲をCDに焼いて仲のいい女友達に配ったりしてました。ラベルも自分で書いたりして。私、そこはけっこう男子っぽいというか、そういうことする派なんですよ(笑)。
斉藤 それは、うれしいですねえ。
小泉 ある程度の年齢になって、これからどう生きていこうかと真剣に考えるようになったとき、自分と同世代に誠実な表現者がいてくれる幸せってすごく大きいと思うんですね。私にとって斉藤さんは、間違いなくそういう1人で。今回の「55 STONES」も斉藤和義という生身のミュージシャンが2020年に感じたこと、見た風景がダダ漏れになってるじゃないですか。
斉藤 ははは(笑)。うん、そうだと思います。
小泉 すごく正直で生っぽい音楽だと私は感じましたし。でもそれが、単なる感情のはけ口ではなくてね。しっかり気骨のあるポップミュージックとして鳴っている。同じ1966年組として、やっぱり励まされました。
体の変化も新しい現象として楽しめばいい
斉藤 小泉さんも去年、配信ライブをやられたんでしょう?
小泉 はい、8月に初めて。さっき、コロナのせいで自分たちの社会の現実を突き付けられたという話をしたでしょう。でも同時に、自分にとってよかったこともあって。そのうちの1つが、エンタテインメントを受け取る楽しさを思い出せたことなのね。ずっと作ることばかり考えていたけど、自粛期間中にすごくたくさん映画やドラマ、ライブ映像などを観ることで、受け手としてのワクワク感がひさびさに戻ってきた。で、その時期にSNSを通じてメッセージをくださった方もたくさんいらして。大変な時期だけど、私の昔の楽曲を聴いてがんばってますって。けっこう多くの方にそう言ってもらったんですね。
斉藤 ああ、なるほど。受け手の気持ちと送り手の気持ちが、小泉さんの中でシンクロしたんだ。
小泉 そうなの。歌には一貫して自信がないんだけどね(笑)。それでも何か届けたかったというか。今ならちょっと、自分の中で、歌う意味を感じられる気がして。それで「唄うコイズミさん」と題して、アコースティックの無観客配信ライブをやってみました。
──デビュー記念日の3月21日には、2回目の配信ライブ「唄うコイズミさん 筒美京平リスペクト編」が開催されます(取材は2月下旬に実施)。
小泉 はい。配信に合わせ、オンラインストアでかわいいリーディンググラスの販売も始めました。要は老眼鏡ですね。最近、スマホの小さな文字を読むのがけっこうきついので(笑)。そしたら同世代の食い付きがけっこうよくて。
斉藤 俺も欲しいもん(笑)。本当にスマホとか、手がもうちょっと長ければいいのにと思うことがある。
小泉 わかる! でも面白いよね。自分の体に変化が起こるっていうのは。自分にとって新しい現象として楽しめばいいんだなって気がする。
斉藤 そうだね。50代半ばになって、例えば昔に比べてボーカルのキーが多少下がったり、確かに変化はあります。でもそれって、別に悪いことでもなくて。下がったからこその味もあるし、その楽曲にはそもそも低めのキーが合っていた場合だってある。最近とみにそう思うんですよ。
小泉 なるほどね(笑)。
斉藤 ギターにしてもそう。別に速く弾ければいいってものでもない。昔ならここに2、3音入れてたところ、今は1音しか弾かなくなったなとかあるけど、そういう自分が実はうれしかったりするんですよね。枯淡の味わいとは違うけど、余分な装飾が削ぎ落とされて。その分、生の感情が露わに出るようになったし。
小泉 まさに「55 STONES」の世界だね。
斉藤 うん。最近どんどんジジイになってよかったと思うことが増えました。まあ、まだ55歳なんだけどね(笑)。今回のアルバムは、そういう今の自分の感じも、けっこうストレートに出てると思います。
斉藤和義ライブ情報
- KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2020 “202020” 幻のセットリストで2日間開催! ~万事休すも起死回生~
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- 2021年4月27日(火)東京都 中野サンプラザホール
- 2021年4月28日(水)東京都 中野サンプラザホール
- KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2021 "202020 & 55 STONES"
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- 2021年5月2日(日)三重県 三重県文化会館 大ホール
- 2021年5月5日(水・祝)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2021年5月15日(土)青森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
- 2021年5月16日(日)岩手県 岩手県民会館
- 2021年5月18日(火)宮城県 仙台サンプラザホール
- 2021年5月30日(日)和歌山県 和歌山県民文化会館 大ホール
- 2021年5月31日(月)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2021年6月2日(水)奈良県 なら100年会館 大ホール
- 2021年6月3日(木)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2021年6月10日(木)秋田県 湯沢文化会館
- 2021年6月12日(土)山形県 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)
- 2021年6月13日(日)福島県 とうほう・みんなの文化センター(福島県文化センター)
- 2021年6月19日(土)東京都 J:COMホール八王子
- 2021年6月20日(日)神奈川県 相模女子大学グリーンホール
- 2021年6月24日(木)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
- 2021年6月27日(日)北海道 北見市民会館 大ホール
- 2021年6月28日(月)北海道 帯広市民文化ホール 大ホール
- 2021年6月30日(水)北海道 函館市民会館
- 2021年7月2日(金)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
- 2021年7月5日(月)大阪府 オリックス劇場
- 2021年7月6日(火)大阪府 オリックス劇場
- 2021年7月8日(木)滋賀県 ひこね市文化プラザ グランドホール
- 2021年7月9日(金)岐阜県 バロー文化ホール 大ホール
- 2021年7月12日(月)大阪府 フェスティバルホール
- 2021年7月13日(火)大阪府 フェスティバルホール
- 2021年7月16日(金)栃木県 宇都宮市文化会館 大ホール
- 2021年7月22日(木・祝)長崎県 長崎ブリックホール
- 2021年7月24日(土)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール) 大ホール
- 2021年7月26日(月)広島県 広島文化学園HBGホール
- 2021年7月27日(火)島根県 石央文化ホール 大ホール
- 2021年8月3日(火)岡山県 岡山市民会館
- 2021年8月5日(木)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
- 2021年8月6日(金)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
- 2021年8月9日(月・祝) 東京都 東京ガーデンシアター
- 2021年8月14日(土)愛媛県 松山市民会館 大ホール
- 2021年8月15日(日)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
- 2021年8月17日(火)山口県 山口市民会館 大ホール
- 2021年8月19日(木)大分県 iichikoグランシアタ
- 2021年8月21日(土)熊本県 熊本城ホール
- 2021年8月22日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
- 2021年8月27日(金)埼玉県 川口総合文化センターリリア メインホール
- 2021年8月28日(土)埼玉県 川口総合文化センターリリア メインホール
- 2021年9月2日(木)島根県 島根県民会館 大ホール
- 2021年9月3日(金)広島県 ふくやま芸術文化ホール・リーデンローズ 大ホール
- 2021年9月12日(日)静岡県 静岡市民文化会館 大ホール
- 2021年9月14日(火)兵庫県 姫路市文化センター 大ホール
- 2021年9月16日(木)愛知県 刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
- 2021年9月18日(土)山梨県 YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
- 2021年9月19日(日)群馬県 ベイシア文化ホール 大ホール