さだまさし|音楽活動45周年、ナオト&レキシと作り上げた宣戦布告のアルバム

これからは自分の寿命と音楽寿命との勝負

──もちろんリスナーのことは意識しているんですよね?

そりゃそうですよ。僕はね、責任感でやっているんです。ヒット曲を作っていただいた、コンサートに来ていただいた人たちに対する責任を果たさないといけない。それが僕のエネルギー源なので。コンサートのときも「お客さんは本当に楽しんでるんだろうか?」という恐怖心でいっぱいですから。すごく盛り上がっていたのに、アンコール1曲だけで満足して帰っていく姿を見ると「え、もう帰るの?」って思ったりね。昔は5、6曲くらい歌わないと帰ってくれなかったんですよ。あるとき、お客さんがなかなか帰ってくれなくて、最後はお客さんに歌わせたことがあったんですよ。最後のフレーズをリフレインしてもらって、バンドのメンバーを1人ずつ帰らせて。最後に僕が指揮して終えたんだけど、「今日はすごかったねえ」なんて言いながら着替えて会場を出ようとしたら、お客さんがまだ歌ってた(笑)。

──すごい熱量ですね、それは。

そういう時代を経験してるから、本当に盛り上がっているお客さんの「帰りたくない」という気持ちがわかるんです。最近はだいぶ違うよね。飼いならされてると言うと言葉がよくないけど、マナーがいいんじゃなくて、お行儀がいいという感じだから。そこはちょっと不満かな(笑)。だいたいね、18時からコンサートが始まるからって、18時に行けばいいと思っているのが気に入らない! 俺は17時からだって歌うつもりなんだから。そういう宣戦布告のアルバムですよ、「Reborn」は(笑)。

──(笑)。それくらい真剣にコンサートと向き合っていると。

そうですよ。どんなにひどい声でも、「明日のことは考えない、今日やれることは全部やる」というのが俺たちの仕事だから。常にトライも続けてるしね。アルバムの発売前からツアー(5月12日にスタートした45周年記念ツアー「さだまさしコンサートツアー2018 Reborn~生まれたてのさだまさし~」)をやってるんだけど、コンサートの内容は刻々と変化していて。うれしいことに反応もいいんですよ。男の客が「ウオーッ!」って声を上げて、女の客は「キャーッ!」って歓声をあげて。たぶん刺激的なアルバムなんだろうね。スタッフも「面白い」って言ってくれてるんだけど、そうすると「じゃあ、もっと面白くしようよ」と思うし。僕からもアイデアを出すし、スタッフからも「こうしてみたらどうですか?」と言ってくれて。僕ね、平気で歌う曲を変えちゃうんですよ。ステージの上で「今日のお客さんはこっちのほうがいいな」と思ったら、「ごめん、曲を変える」って。

──新しい要素を取り入れることでツアーの緊張感が持続しているというか。

さだまさし

緊張感は大事ですよ。緊張しないって人もいるけど、そういう人は飽きるのが早いんじゃないかな。だからフェイクして(メロディを変えて)歌ったりするんだろうね。特にヒット曲はフェイクしちゃダメだよね。レコード通りに歌ってあげないと。「母がまだ」(「無縁坂」の歌い出し)を「母、がまだ」って歌ったら、母なのかガマなのかわかんないでしょ(笑)。そう考えると、慣れって怖いよね。慣れた瞬間にミスが増えるし、ロクなことがないから。俺、リハーサルも嫌いなの(笑)。プロのミュージシャンとして必要最低限の申し合わせをやるだけ。ステージでどう見せるかは、それぞれの器量だから。俺自身も怖いんだけどね。特に新曲を歌うときは吐きそうになるくらい緊張してるから。「あの歌、やらなくちゃいけないのか。やめときゃよかったな」と思うことだってあるし。まあ体に悪いコンサートをやってますよ(笑)。しかもこの先は「パスワード シンドローム」も入ってくるからね。考えただけで嫌になるよ。

──でも、まったく休むことなくコンサートを続けてますよね。

自分でも「どうしてこんなにつらいことをやってるんだろう?」って思うけど、やっぱりやりたいんだよね。去年、喉を痛めてライブを1カ月休んだんだけど、インターネットのニュースに「さだまさしがライブを延期」って出ちゃって。とにかく自分に腹が立ったし「やりたい!」と思って。「この日じゃないと行けない」というお客さんは必ずいるし、決めたらやらなくちゃいけないんだよ、本当は。人間だから、どうしてもダメなときもあるんだけどね。

──ナオト・インティライミさん、レキシさんが参加したこともそうですが、今回のアルバムは若いリスナーにも届くと思います。このアルバムをどんなふうに聴いてもらいたいですか?

そういうことは考えないですね。もともと評価を気にしていないし、お客さんを意識しながらも、やりたいことをやっているので。だって俺、炎上続きの45年間ですから(笑)。歌を作ってヒットしただけで悪口を言われることもわかったし。本田圭佑選手の気持ちもよくわかりますよ。言うほうは勝手なんですよ。見えない場所から石を投げているようなものだし、言ったほうはすぐに忘れるだろうけど、こっちはすごく傷付くんですよ、実は。でも「勝手なことを言いやがって」という思いをそのまま歌ったら「そんなにトゲのある曲を書かないでください」と言われてしまう。だから(アルバム収録曲の)「桜ひとり」のような曲になるんです。「あの桜は僕に“頑張れ”と言ってくれたんだろうか」という歌なんだけど、それもすり替えのマジックですよね。そういう技を使って、さだまさし的な歌にしているというか。

──なるほど。

この先はもっとストレートな歌を書きたいと思ってます。ポンとそこに置くだけで、ものすごく意味を持つような歌を。そこに辿り着くまでには、まだまだ修行が足りないですね。僕ね、山本直純(作曲家、指揮者)と「いつか25分の歌を書く」と約束したんですよ。彼に「25分の曲を書けば、見えないものが見えてくるよ」と言われたので。実は「親父の一番長い日」もそのつもりで書き始めたんだけど、12分半ですから。今もまだ、25分の歌を書く力は僕にもないと思っています。これからは自分の寿命と音楽寿命との勝負。そう考えると1年に1枚のアルバムでは全然追いつかないですよ。

ツアー情報
さだまさしコンサートツアー2018 Reborn~生まれたてのさだまさし~
  • 2018年5月12日(土) 長崎県 長崎ブリックホール
  • 2018年5月13日(日) 長崎県 長崎ブリックホール
  • 2018年5月19日(土) 千葉県 森のホール21
  • 2018年5月22日(火) 神奈川県 相模女子大学グリーンホール
  • 2018年5月24日(木) 東京都 府中の森芸術劇場
  • 2018年5月25日(金) 埼玉県 川口総合文化センターリリア
  • 2018年6月1日(金) 広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2018年6月2日(土) 山口県 周南市文化会館
  • 2018年6月4日(月) 岡山県 倉敷市民会館
  • 2018年6月14日(木) 愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2018年6月18日(月) 兵庫県 神戸国際会館(※公演延期)
  • 2018年6月20日(水) 大阪府 フェスティバルホール
  • 2018年6月21日(木) 大阪府 フェスティバルホール
  • 2018年6月30日(土) 山梨県 コラニー文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
  • 2018年7月2日(月) 神奈川県 神奈川県民ホール
  • 2018年7月5日(木) 東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2018年7月6日(金) 東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2018年7月12日(木) 熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
  • 2018年7月14日(土) 鹿児島県 鹿児島市民文化ホール
  • 2018年7月15日(日) 宮崎県 宮崎市民文化ホール
  • 2018年7月21日(土) 栃木県 宇都宮市文化会館
  • 2018年7月22日(日) 群馬県 ベイシア文化ホール
  • 2018年8月8日(水) 兵庫県 神戸国際会館(※振替公演)
  • 2018年8月10日(金) 福岡県 アルモニーサンク北九州ソレイユホール
  • 2018年8月12日(日) 福岡県 福岡サンパレス
  • 2018年9月7日(金) 大分県 iichikoグランシアタ
  • 2018年9月8日(土) 佐賀県 佐賀市文化会館
  • 2018年9月12日(水) 北海道 ニトリ文化ホール
  • 2018年9月14日(金) 宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2018年9月15日(土) 青森県 青森市文化会館 リンクステーションホール青森
  • 2018年9月17日(月・祝) 岩手県 岩手県民会館
  • 2018年9月19日(水) 福島県 けんしん郡山文化センター
  • 2018年9月27日(木) 埼玉県 大宮ソニックシティ
  • 2018年9月28日(金) 埼玉県 大宮ソニックシティ
  • 2018年10月3日(水) 静岡県 静岡市民文化会館
  • 2018年10月5日(金) 静岡県 アクトシティ浜松
  • 2018年10月11日(木) 岐阜県 長良川国際会議場
  • 2018年10月12日(金) 三重県 三重県文化会館
  • 2018年11月1日(木) 愛媛県 松山市民会館
  • 2018年11月2日(金) 高知県 高知県立県民文化ホール
  • 2018年11月8日(木) 長野県 ホクト文化ホール
  • 2018年11月9日(金) 富山県 オーバード・ホール
  • 2018年11月16日(金) 東京都 オリンパスホール八王子
  • 2018年11月17日(土) 千葉県 市川市文化会館
  • 2018年11月20日(火) 東京都 東京国際フォーラム ホールA(※追加公演)
  • 2018年11月21日(水) 東京都 東京国際フォーラム ホールA(※追加公演)
  • 2018年12月1日(土) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール(※追加公演)
  • 2018年12月2日(日) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール(※追加公演)
  • 2018年12月5日(水) 大阪府 フェスティバルホール(※追加公演)
  • 2018年12月6日(木) 大阪府 フェスティバルホール(※追加公演)
さだまさし「Reborn ~生まれたてのさだまさし~」
2018年7月4日発売 / Victor Entertainment
さだまさし「Reborn ~生まれたてのさだまさし~」

[CD]
3400円 / VICL-65021

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 大盛況 ~生まれたてのさだまさし~
  2. パスワード シンドローム
  3. Reborn ~嘘つき~
  4. まぼろし
  5. きみのとなりに
  6. 黄金律
  7. 茅蜩
  8. 桜ひとり
  9. へたっぴ
  10. おんまつり
  11. 都会暮らしの小さな恋に与える狂詩曲
さだまさし
さだまさし
長崎出身のシンガーソングライター、小説家。3歳8カ月でバイオリンを始め、バイオリン修業のため小学校卒業と同時に上京する。1972年に高校時代の音楽仲間である吉田政美とグレープを結成。2ndシングル「精霊流し」が大ヒットし、「第16回日本レコード大賞作詞賞」を受賞した。グレープ解散後、1976年にソロデビューすると「雨やどり」「秋桜」「関白宣言」「北の国から」などの国民的ヒット作品を発表し、数々の音楽賞を受賞。精力的なコンサート活動も特徴で、ソロデビュー後のコンサートの回数は2018年4月現在で4300回を超える。音楽活動45周年を迎える2018年にはビクターエンタテインメントに移籍し、ニューアルバム「Reborn ~生まれたてのさだまさし~」を発売した。また小説家としては「精霊流し」「解夏」「かすてぃら」「はかぼんさん」「ラストレター」「風に立つライオン」など10作品を発表しており、うち8作品が映像化されている。NHK総合「今夜も生でさだまさし」のパーソナリティとしても人気を博している。