3月に1stアルバム「覚悟を決めろ!」をリリースし、同月にスタートした初のワンマンライブを含むキャリア最大規模のツアーを大成功で終えたサバシスター。ツアー中にはPIZZA OF DEATH主催のイベント「SATANIC CARNIVAL」に初出演し、新人ながらも“PIZZA OF DEATHの長女”として圧巻のステージを繰り広げた。
着実に実力を付けて活動の規模を広げるサバシスターから2nd EP「あの夜のはなし」が届けられた。本作には、なち(Vo, G)がツアーの移動車であるハイエースの中で制作したという先行配信曲「ハイエースナンバー」を含む計4曲が収められている。音楽ナタリーでは、本作の発売を記念してメンバー3人にインタビュー。1stアルバム発売以降の活動を振り返ってもらいつつ、「あの夜のはなし」の制作秘話について聞いた。
取材・文 / 小林千絵撮影 / 梁瀬玉実
全23公演「覚悟を決めろ!」ツアーを経て得たもの
──今年3月に1stフルアルバム「覚悟を決めろ!」がリリースされ、バンドにとって最長となる全23公演のツアーが行われました。ツアーを経て成長したこと、得たものは?
なち(Vo) 自分が思っていることや発信したいことを曲にしてアルバムを作る意味や、それを持って全国を回る意味を理解したうえでツアーに臨んではいたんですけど、ステージを重ねるうちにその理解がより深まっていきました。それはバンドにとって大きい収穫だったなと思います。
──その、曲を作る意味やツアーを回る意味というのはどのようなものなのでしょうか?
なち 今までバンド活動をやる意義としては「自分たちが楽しいから」が一番大きかったんです。でも今回のツアーを通して、サバシスターの曲やライブを求めてくれている人、それを支えに生活してくれている人が全国にいることを実感しました。「自分たちが楽しいからやる」という気持ちは大事にしながらも、そういう人たちにとって何かを返せるのは自分たちしかいないから、自分たちの足で全国を回るのは本当に意味のある重要なことで。頭ではわかっていたけど、それを実際に現場で実感できたのは、すごく貴重な体験だと思います。
──その経験を経たことで、パフォーマンスなどに何か変化はありましたか?
なち 自分たちが気持ちいいライブをすることより、演奏を1人ひとりに届けたいという思いが強くなりました。ただ客席に向かって演奏するんじゃなくて、来てくれている1人ひとりに向かって、語りかけるように意識して歌やMCを届けるようになったと思います。
るみなす(G) 私が今回のツアーで得たと思うのは仲間です。東京だけじゃなくて、全国にいいバンドがいっぱいいて。ライバルでもあり、仲間でもある。そういう人たちと出会うことで「もっとがんばろう」と思えたので、自分にとってはすごく大きかったなと思います。
GK(Dr) これまではツアーをやっても公演数が5本くらいだったんですよ。今回は23本だから、始まる前は正直「こんなにみんなで一緒にいる時間が長くて大丈夫かな?」と思っていたんです。仲が悪いとかじゃないけど、四六時中一緒にいるって想像したらちょっと不安で。でも実際にツアーに出たら、合宿みたいですごく楽しかった。サバシスターはずっとこのメンバーでやっていくんだなって、みんなの気持ちが固まったツアーになったなと思います。
「自分の選択は間違っていなかった」
──ツアーファイナルの前には、PIZZA OF DEATH主催のイベント「SATANIC CARNIVAL'24」に“PIZZA OF DEATHの長女”として出演しました。結成以降、さまざまなフェスやイベントに出演しているサバシスターですが、PIZZA OF DEATH主催のイベントに出演するというのは、また違った緊張感や責任感があったのでは?
なち そうですね。I.S.Oさん(「SATANIC CARNIVAL」総合プロデューサー)に「どうする?」と聞かれて、「出たいです。やらせてください」って言ったんです。そしたら「本当にやれんのか?」と念押しされて。私としては「やらせてください……というか、やらないでどうすんねん」という気持ちでした。最終的には「そんなに言うならやってみろよ」という感じで出させてもらいました。「SATANIC CARNIVAL」出演を発表したときも、PIZZA OF DEATH所属を発表したときも、何かしら言われるのはわかっていたんです。I.S.Oさんの「本当にやれんのか?」という言葉には、「そういう周囲からの否定的な意見も全部受け入れてライブをやり切れるのか?」という意味が含まれていたと思う。私は正直、PIZZA OF DEATHや「SATANIC CARNIVAL」のフォロワーからの否定的な意見に食らっていたんですけど、所属を決めた時点で「そういう場所で戦っていかなきゃいけない」って覚悟してたんです。だから「ビビって『SATANIC CARNIVAL』出ないで、何がPIZZA OF DEATH所属だい!」って、出演に対する意志はすごく固かったです。
──とても強い気持ちでステージに臨んだんですね。
なち はい。だから当日はすごく緊張していたし、「どれだけお客さんが来るんだろう?」とか「どんな反応をしてくれるだろう?」とか、何も想像がつかなかったんですけど……始まってみたらすごく温かい場所で。少なくとも、自分たちからは、すごく後ろの方まで手を上げてくれている人が見えて、「自分の選択は間違っていなかった」「ここにいていいんだな」と改めて思えた。自分の中ではターニングポイントになるライブでした。
GK SNSで「何でこいつらが」みたいな投稿をよく見かけていたんですけど、私はどっちかと言うと、そういうのにイラッとして燃え上がるタイプなんです。だから「SATANIC CARNIVAL」には、「絶対にサバシスターは観ない」と言っている人を後悔させるようなライブをしたいなって気持ちで、今できることをちゃんと出そうと思って挑みました。内容は忘れちゃったんですけど、なちのMCがめっちゃよくて、その言葉を聞いて私の気持ちも爆上がりしました。あとは、ステージが動くのが初めてで楽しかったです(笑)。
──「SATANIC CARNIVAL」では転換をスムーズに行うために、1つのステージにセットを2つ組んで人力で回転させていますね。
るみなす 「SATANIC CARNIVAL」は、PIZZA OF DEATHのバンドを聴いて育ったり、PIZZA OF DEATHに生かされている人たちが集まるイベントだと思ったので、始まる前は「PIZZA OF DEATH所属として恥じぬよう」みたいな気持ちが大きかった。でも観に来てくれる人への感謝や、「よろしくお願いします」という思いを込めた、どちらかというと温かい気持ちで演奏することができました。私から見えた景色はすごく温かかったし、すごく楽しかった。実はその日、お父さんとお母さんが観に来ていて、しかも、お父さんの誕生日だったんですよ。
──お父さんからは何か言われましたか?
るみなす 「よかったよ」って言ってくれました。さすがにクラウドサーフはしてなかったけど(笑)。
「ハイエースナンバー」に込めた思い
──ツアーやたくさんのフェス、イベント出演と、さまざまなライブ経験を経て、2nd EP「あの夜のはなし」が完成しました。このうち「ハイエースナンバー」はツアーファイナルで披露され、EPリリースに先駆けてその翌日に配信リリースされました。実際にハイエースで各地を回る中で作った曲だそうですね。
なち 私は、バンドがツアーのことを歌った曲が好きなんです。それってバンドをやっている人にしか書けない曲だから、私もそういう曲を作りたいと思っていて。「もう引き返せない」みたいな覚悟を持って集結したメンバーや仲間が集まっている車というのは、自分にとって一番大事にしたいものだし、バンドって1人じゃできない。仲間が集まって初めて形になるということ、それを楽しいと思うことがすごく尊いなと思って。楽しんでバンドをやっていることを歌にしたかったというのが、曲を書いた経緯です。
──サビの「僕らナンバーワンはいらない」というフレーズが印象的でした。
なち サバシスターは何かのトップを目指して進んでいるバンドじゃないし、「この人には負けない」とか「この枠の中で一番を取る」とかそういうことを目標にしているわけではない。それよりも自分たちの中でしっかり納得してカッコいいものを作っていく、という意味でのバンドの方針を歌ったフレーズです。
──とはいえ、活動していたら1位が欲しくなることもあるんじゃないですか?
なち 私はずっとスポーツをやっていたんですけど、スポーツって1位を取って認められる世界じゃないですか。私は順位を決めるのが好きじゃないなって、ずっと思っていて。音楽を始めて、順位とか数字じゃなく、やりたいことをやって、見せ方としてカッコいいものを追求したときに出る結果や評価があるんだと知ったんです。
るみなす 私は一番を取れるなら欲しいし、うれしいけど、なちと一緒でそれがすべてではないと思う。自分たちが楽しく、やるべきことをやる中で一番が取れたら、それはすごく誇らしいことですよね。そのためにも地道にコツコツと努力を積み上げて、やるべきことをやる。その繰り返しが大切なんだと改めて考えさせられる曲でもあるなと思いました。
──ライブでこの曲を演奏するとき、どのようなことを考えていますか?
るみなす 「ハイエースナンバー」はけっこう前からある曲なんです。今では演奏していると、ツアーを回ったり、ハイエースから見える外の景色だったり、自分たちが見てきた光景が走馬灯のように浮かぶようになりました。あとギター自体は難しいことをしているわけじゃないんですけど、コーラスをやりながらだと最初はなかなかうまくいかなくて。最近は気持ちよく演奏できるようなったのですごく楽しいです。
GK この曲のMVは、「覚悟を決めろ!ツアー」以前のツアー映像を使ったものなんですけど、演奏しているときは、常にその映像が頭の中に浮かんでます(笑)。1番と2番でコーラスが分けられているのも、すごく私たちの曲って感じがして好き。あとドラムとしてはカウベルを入れたりして、演奏していて壮大な気分になります。
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嫌な思い出を音として昇華するための“作戦”