嫌な思い出を音として昇華するための“作戦”
──そのほかの収録曲についても伺います。1曲目「作戦会議」と2曲目「ポテサラ」の根底には怒りの感情があるように感じたのですが、その怒りを歌にする際の言葉の転換がユニークで痛快です。なちさんは意識的に歌詞に怒りを怒りのままつづらないようにしているのでしょうか?
なち かわいい言葉やファンシーな表現に意識的に変換しているわけではないです。悲しいことがあったときに「どうやって乗り越えようか?」とか、何かにつまづいたときに「どう工夫して楽しくしていこうか?」と切り替える考え方が根底にあるような気がします。それがそのまま歌詞に表れているのかな。
──「作戦会議」には、怒りの変換方法として「“気にしない”作戦Aだ!」「“歌にする”作戦Bだ!」というフレーズが出てきますが、“歌にする作戦”は実際に使いますか?
なち そうですね。ストレスを発散する方法の1つが詞や曲にすることなんです。
──この曲ではSNSでの心ない言葉に対する“作戦会議”が歌われていますが、実際に「“歌にする”作戦」を実行してみていかがですか?
なち 「この歌で強くなる」という歌詞があるんですけど、何か嫌なことを言われたり、されたりした思い出は、そのまま音楽としてパッケージすることで、忘れるんじゃなくて、さらにその上のステージに行けると思っていて。曲を書いたことによって、バンドで演奏したことによって、ライブでお客さんに聴いてもらうことによって、音として昇華されるみたいな感覚がある。みんなの日常に溶けていって分散されるというか、ようやく心が軽くなっていく気がします。
──シンガロングのパートもあるので、お客さんと一緒に歌ったら本当に怒りや悲しみの感情が発散されそうですね。
なち そうですね。私が感じた1つの嫌なことに対して、メンバーやお客さんも一緒に叫んでくれているんだなと思うと、怒っていたこともバカバカしくなります(笑)。
GK 私はこの曲がすごく好き。演奏面で言うとBPMが速いし、リズムの緩急を付けるのがめちゃくちゃ難しくて。最初「こういうドラムで」となちから言われたときは正直うまく叩けるか心配だったけど、めっちゃ練習してなんとか叩けるようになった今は、自分が強くなったような気になれる歌詞も合わせてすごく気に入っています。
“あの頃の自分”と“今の自分”へ宛てた音楽
──2曲目の「ポテサラ」についても伺いますが、どうしてポテトサラダを歌にしたんでしょうか……という身も蓋もない質問をしてもいいですか?
なち なんでポテサラなのかは自分でもマジでわかんないんです(笑)。ただ、この曲は自分に対してのメッセージになっていて。私、専門学生のとき3畳の部屋に住んでいたんですけど、3畳の部屋で必死に生きていたあのときのなちちゃんから、今好きなことを自由にできていて、雨が降っていたらタクシーに乗っちゃうみたいな、ちょっと大人になっちゃった今の自分に対する注意喚起、今の自分に対してのメッセージを歌にしました。
るみなす この曲はリズムパートの全部のギターを私が弾いているんですが、カッティングが目立つようなサウンドにしたかったので、いつものSGじゃなくてテレキャスターを使いました。できる限りシンプルにすることを意識して、かなり引き算をした曲なので、スルメ曲というか、聴けば聴くほど深みが増す曲だなと思います。ギターソロも、ほかの曲に比べたら短いしシンプルなんですが、一番気に入っているかもしれないです。
──「ポテサラ」が昔の自分からのメッセージなら、3曲目の「ひとりぼっちと廊下の窓」は昔の自分に対するメッセージ?
なち 「ひとりぼっちと廊下の窓」は「昔の自分はこうだったよな」とか「あのときの自分はこういうことにすごく悩んでいたな」ということを、今の自分目線で書いた曲なんです。「青春と先輩と進路」というテーマで書き始めたんですけど、なんとなく青春時代、特に高校時代は感情を自分の奥底に閉じ込めていたところもあって。あまりそのときのことは歌にしてこなかったので、そこを掘り出して曲を書くというのは難しくもあり、楽しくもありました。いつもとは違う書き方で、納得いく曲が書けたことはすごくうれしいです。
“あの夜”を越えて生まれた2nd EP
──このEPに「あの夜のはなし」というタイトルを付けた理由を教えてください。
なち 私は昔から夜がめっちゃ苦手で。朝型なので、バンドでの生活にもずっと慣れなかった。だけど2、3年音楽中心の生活をしていくうちに、それこそ夜中の機材車で移動しながら「明日はどういうライブをしようかな」と考えたり、夜中に歌詞を書いたり、地方のホテルで1人で何かを考えたりする時間がすごく大事なものになってきて。その中で生まれた曲たちを集めたEPになったなと思ったので、このタイトルにしました。
──ジャケットイラストもなちさんが描いたそうですね。
なち はい。イラストにしたいというイメージはなんとなくあったんです。ただ、私はデザインやグラフィックが得意なんですけど、人物やイラストを描くのは苦手で……取りかかるまでにすごく時間がかかりました。でもいよいよ「○日までに上げてください」っていう状態になって、クレヨンを買いに世界堂に行って。熱を出してお休みをもらった日に、集中して描き上げました。曲の温かさやこのEPの意味みたいなものがすごく伝わるようなイラストが描けた気がして、すごく気に入っています。
──最後に。HEY-SMITHの猪狩秀平さんのYouTubeチャンネルに出演された際に、バンドの1つの目標として「日本武道館に立ちたい」という思いが最近浮上してきたと答えていらっしゃいましたが、その気持ちは今も変わらずにありますか?
なち 「絶対に武道館でライブしようね」とか「絶対に立とう」みたいな目標が明確にあるわけじゃないんですけど、「武道館でライブができるくらいカッコいいバンドになってからが始まりだよね」という認識はメンバーみんなあると思います。だからまずは、そこに向かって自分たちの実力やバンドとしてのレベルを少しずつ上げていく作業が続くのかなという考え方です。今は、そうやってみんなが同じ方向を向けているので、バンドとしてすごくいい状態なんじゃないかなと思っています。
公演情報
あの夜のはなしツアー
- 2024年9月28日(土)宮城県 Rensa
<出演者>
サバシスター / KANA-BOON - 2024年10月5日(土)新潟県 NIIGATA LOTS
<出演者>
サバシスター / リーガルリリー - 2024年10月9日(水)北海道 札幌PENNY LANE24
<出演者>
サバシスター / Maki - 2024年10月16日(水)福岡県 BEAT STATION
<出演者>
サバシスター / ヤバイTシャツ屋さん - 2024年10月17日(木)広島県 LIVE VANQUISH
<出演者>
サバシスター / ヤバイTシャツ屋さん - 2024年10月19日(土)大阪府 BIGCAT
<出演者>
サバシスター / Age Factory - 2024年10月20日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
<出演者>
サバシスター / SPARK!!SOUND!!SHOW!! - 2024年10月25日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
<出演者>
サバシスター
プロフィール
サバシスター
なち(Vo)、るみなす(G)、GK(Dr)からなるガールズバンド。GKがネット掲示板(ジモティー)でバンドメンバーを募集し、上京したてのなちと出会う。その後、GKの同郷であるるみなすが加入し、2022年3月に活動を開始。同年8月に「SUMMER SONIC 2022」への出演を果たし、9月には東京・下北沢SHELTERで初の企画「鯖ノ壱」のチケットを完売させる。2023年3月に1st EP「アテンション!!」を発表し、東名阪とメンバーの地元である新潟、仙台を回るツアーを行った。同年には「ARABAKI ROCK FEST」「JAPAN JAM」「VIVA LA ROCK」「LOVE MUSIC FESTIVAL」「JOIN ALIVE」「RUSH BALL」などさまざまな音楽フェスに出演。11月に配信シングルを2作発表し、ツアー「KIRAKIRALOVE TOUR 2023」全公演のチケットが完売に。2024年1月にPIZZA OF DEATHとのマネージメント契約およびポニーキャニオンからのメジャーデビューを発表。“サバの日”にあたる3月8日に1stアルバム「覚悟を決めろ!」をリリースした。9月には2nd EP「あの夜のはなし」を発表。同月より全国ツアーを開催し、10月にツアーファイナルとして東京・Zepp DiverCity(TOKYO)でワンマンライブを行う。
サバシスター (@saba_sister) | Instagram
※特集公開時より、本文の表現を一部変更しました。