RYUTist「(エン)」特集 メンバー×運営×作家陣によるクロストーク|アイドルポップスのその先へ、5thアルバムで描く希望の音楽 (4/4)

一番重要なピースを埋めてもらった

──ウ山さんは「水硝子」のリミックス「mizugarasu -ウ山あまねremix-」から、RYUTistに関わっていますね。

安部 「水硝子」をレコーディングしてる最中に、「あまねくんにお願いしたら、絶対に面白くなる」と思ったんです。正直、僕はアイドルがリミックスの曲を出す理由ってあまりないよなと考えているんですけど、「『水硝子』のもう1つ別の完成形があるとしたら、あまねくんがそれを出してくれるんじゃないか」と思って、時間がない中でなんとか作ってもらいました。

南波 「(エン)」の制作も同じような流れでした。全体のイメージが見えてきた段階で、足りないピースを考えたら「ウ山さんの曲がめっちゃハマるだろう」と思ったんです。今回はシングルを出しながらアルバムをイメージしていくという作り方ではなく、曲が「水硝子」しかない状態で始めたので、全体像が自分たちでもわからなかったんです。

宇野 私たちメンバーもわからなかったです(笑)。

南波 そんな中、ウ山さんが作ってくれた「たったいま:さっきまで」が見事にハマりました。この曲がなかったら、アルバムとして成り立たなかったんじゃないかと思うくらい。最後にお声がけしたんですけど、一番重要なピースを埋めてもらいました。

安部 あるとき、あまねくんがまだリリース前だったアルバムを送ってくれて。それを聴いて「ヤバい!」と衝撃を受けて、「ぜひ仕事をしたい」と連絡したんです。

ウ山あまね 実はそのときコロナに感染していて、後遺症がけっこうしんどくて。倦怠感みたいなのがずっとあって、曲を作れない状態が続いていたんです。で、アルバムを出して「そろそろマシになってきたかな」というタイミングで安部さんからオファーをいただいて。「これをきっかけに曲作りの感覚を取り戻したい」と思って取り組みました。

ウ山あまね

ウ山あまね

──「たったいま:さっきまで」はどのように作られたんですか?

ウ山 まず安部さんから「ライブハウスのイメージで曲を作ってほしい」というイメージの共有がありました。それで今年閉店前に渋谷Contactでライブを観たことを思い出しました。そこで2年ぶりぐらいに人がひしめき合い熱狂している光景を見て「あ、めちゃめちゃ懐かしいな」「前はこういう感じだったよな」という、初めてライブハウスに行ったときの感覚ともまた違う、異様な感情の盛り上がりを感じて。とにかくライブハウスで歌って気持ちいい曲、ライブハウスの空気をまとってる曲にしようと考えて作りました。

──曲作りの感覚を取り戻したかったということですが、実際に楽曲を作ることでウ山さん自身に変化したことはありましたか?

ウ山 それはめちゃくちゃありましたね。「たったいま:さっきまで」の前に制作したアルバムは、究極に根を詰めた状態で出したんですけど、それが自分的にすごいストレスだったんですよ。「もう二度とこんな作り方はしない」と思った矢先に、体調を崩して「もうダメかもな」という気持ちになって。そんな中、今回の制作は時間があまりなかったのもあり、わりと勢いで作り上げたんです。3日間ぐらいで一気に作ってみたら、それはそれでつらいところはあるんだけど、こっちのほうが健康的だなと感じて(笑)。自分の作品を作るうえでもこういう形でやっていけたらいいなって、そういうメンタルの変化がありました。

安部 そう言えば、あまねくんには1つだけディレクションをしたんですよ。「ここは完璧だから、もう触らないでいいからね。ほかはいくらやってもいいよ」って。任せておくと本当に延々と突き詰めようとしちゃうんで(笑)。

ウ山 安部さんが言ってくれなかったら袋小路に入って、マジで悲惨なことになっていたと思います(笑)。完成した曲を聴いて、アルバムの流れとしてもあそこを残して本当に正解だったと思いました。自分の次のアルバムも安部さんにディレクションしてほしいくらいです(笑)。

──安部さんが指摘された「ここ」というのは、楽曲のどの部分ですか?

安部 最後に一番盛り上がるギターのフレーズがあるんですけど、あまねくん的にはそれが恥ずかしかったらしいんですよ。「やりすぎてる感じがして恥ずかしい」って言うもんだから、「いや、大丈夫! ここが一番大事だし、面白いから触らなくていい。その代わり、ほかでいろいろ遊んでいいからね」と伝えました。

南波 あの勢いと軽やかさが欲しかったからね。

ウ山 最後のギターのフレーズを残すと決めたことによって、それを生かしながら曲を組み立てることができました。前みたいな曲作りのスタイルだったら絶対にできなかったことなので、貴重な経験をさせてもらって本当にありがとうございますという感じです。

宇野 レコーディングでは「こういうふうに歌って」というディレクションはもちろんあったんですけど、メンバーみんなが自由に自分の色を出せていたと思います。最後の一番盛り上がるところは何かが発散されたというか、歌っていてすごく気持ちよくて。アルバムの中で最後にレコーディングした曲だったから、出し切った感じがあって楽しかったです。

安部 メンバーがあまねくんに「ここはどう思いますか?」と自ら聞きに行っていて。それってかなり珍しいことなんですよ。「私はこう思うんですけど、どうですか?」「じゃあ曲を聴き直して、もう1回やろうか」と各々がレコーディングしながら感じたことをあまねくんに提案して、話しながらいろいろと決めていったよね。

宇野 普段はあんまりそういうことはやらないんですけど、今回は自分たちから歌ってみたいニュアンスを提案させていただいて。「そっちのほうがいいね」って、私たちの意見を大事にしてくださったのがうれしかったです。

ずっと変わり続けていきたい

──今回の制作を通じて、君島さん、ウ山さんはRYUTistの魅力はどこにあると感じましたか?

君島 やっぱり、そこはかとない暗さを持っているところがとても魅力的だと思います。それは年齢によって出ているものではなくて、本質的なものなんですよ。単に暗さと言ってしまうと語弊があるんですけど、新潟に行くと東京にはない落ち着きを感じられるんです。「この景色を見て育ったんだな」と合点がいきました。

君島大空

君島大空

安部 新潟はいつも曇ってるからね(笑)。

ウ山 僕が最初に思ったのは、RYUTistの声がすごく好きだなということで。1人ひとりの個性はちゃんとありつつ、それが合わさったときのアンサンブルが本当にきれいなんです。ストリングスみたいな響きになっているのが面白いですよね。

ウ山あまね(手前)

ウ山あまね(手前)

安部 「このアルバムのテーマは希望」と話しましたけど、俺にとっては君島くんとウ山くんが希望そのものなんですよ。この2人の音楽が世に広がっていったら、絶対にもっと面白くなる。俺がいつまで生きてるかわからないし、RYUTistもいつまで続くかわからないですけど、メンバーの声とともにこの音楽を残せたのは本当によかったです。

宇野 私たちとしては、どうして新潟のいちアイドルにこんなに素晴らしい方々が楽曲を提供してくださるんだろうって毎回思いますし、これまでは「楽曲についてどう思いますか?」とインタビューで聞かれるのが怖かったんですよ。でも、「水硝子」から約2年間、「(エン)」の制作を通していろんな曲と触れ合ったり、いろんな歌い方に挑戦させていただいたりして、レコーディングを重ねるたびにメンバーみんなが成長していくのを感じました。今日、皆さんのお話を聞いて、RYUTistに愛情を持って曲を作ってくださっているということを改めて感じて、自信を持てたし、うれしかったです。

──極端なことを言えば、アイドルって若くてかわいい子たちがかわいい曲を歌うのがパブリックイメージで、その姿が微笑ましいし、愛らしいし、応援したくなる理由じゃないですか。

安部 間違いないです。

──でも活動を続けていくと、メンバーは当然大人になっていくわけだから、“若さという名のかわいさ”とは違うところで勝負をしなくちゃいけないフェーズが訪れる。「(エン)」を聴かせていただいたときに、大人の女性感やこれまで培ったスキルを含め、RYUTistが新しい武器を手に入れたような印象を持ちました。だからこそお聞きしたいのが、結成から約10年が経って、宇野さんの中で意識が変わった部分はあるのかということなんですけど……。

宇野 私も最初はかわいいアイドルが好きだったんです。でも、RYUTistで活動していたらこんな感じになっちゃって(笑)。その中で、いろんな素晴らしい音楽があることを知ったり、街や人を愛せるようになったりして。RYUTistで活動してなかったら感じなかったことがたくさんあると思います。

南波 初期の曲を今披露すると、面白さはあるし、ファンの方は喜んでくれるものの、やっぱり今のメンバーの年齢とはちょっと乖離してしまう部分もあるんですよね。

宇野 ふふ、恥ずかしくなりますね(笑)。

南波 僕らが思ってるよりもメンバーは時間の流れが早いところで生きてるし、すごいスピードで成長してる。それにフィットしていく音楽を一緒に作っていきたいなと思っています。

安部 今のRYUTistにおける楽しい歌、今のRYUTistだからやれる曲をいろんな形で作っていきたいですね。まあ、ファンの方に今回のアルバムがどう思われるのか不安ではあるんですけど(笑)。南波さんと「いいアルバムができたね!」と言い合って不安な気持ちをごまかしてるっていう(笑)。早くリリースして、いい話も悪い話も受け止めたいです。

安部博明(手前)

安部博明(手前)

南波 まぁ、同じことをしても面白くないしね。

宇野 そうですね。どんどん新しいことをやっていきたいです。

RYUTist ライブ情報

RYUTist 結成11周年秋冬ツアー【(エン)】

  • 2022年11月27日(日)東京都 新宿ReNY
  • 2022年12月3日(土)大阪府 Shangri-La
  • 2022年12月11日(日)宮城県 仙台MACANA
  • 2022年12月17日(土)新潟県 NIIGATA LOTS

プロフィール

RYUTist(リューティスト)

新潟県新潟市在住の佐藤乃々子、宇野友恵、五十嵐夢羽、横山実郁からなる4人組アイドルグループ。2011年5月に「アイドルユニットオーディション」を経て結成され、新潟・新潟SHOW!CASE!!を中心にライブ活動を行っている。2012年4月にデビューシングル「RYUTist! ~新しいHOME~」を発売。以降も自主レーベルよりコンスタントに作品を発表し、2015年8月に1stアルバム「RYUTist HOME LIVE」、2016年8月に2ndアルバム「日本海夕日ライン」をリリースした。2016年よりタワーレコード内のレーベル・PENGUIN DISCに所属しており、2017年8月に3rdアルバム「柳都芸妓」、2020年7月に4thアルバム「ファルセット」を発表。翌8月には新潟・新潟市民芸術文化会館劇場で結成10周年ライブ「10th Anniversary RYUTist “HALL” LIVE @りゅーとぴあ 劇場」を開催し、2022年11月に5枚目のアルバム「(エン)」をリリースした。

蓮沼執太(ハスヌマシュウタ)

1983年生まれ、東京都出身の音楽家。2006年10月にアメリカのインディーズレーベルよりデビューし、2010年に総勢15名からなる現代版フィルハーモニックポップオーケストラ・蓮沼執太フィルを結成した。国内外でのコンサート公演に加えて映画や演劇にも携わり、展覧会やそのほかのプロジェクトも行っている。2014年にはアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の助成により渡米し、2017年に文化庁東アジア文化交流使として中国・北京にて個展を開催。2019年には平成30年度「第69回 芸術選奨 文部科学大臣賞」新人賞を受賞した。

ermhoi(エルムホイ)

日本とアイルランド双方にルーツを持つトラックメイカー、シンガー。 2015年にSalvaged Tapes Recordsより1stアルバム「Junior Refugee」をリリースし、以降イラストレーターやファッションブランド、映像作品、テレビCMへの楽曲提供、ボーカルやコーラスとしてのサポートなど、ジャンルやスタイルに縛られない幅広い活動を続けている。2018年に小林うてな、Julia ShortreedとともにBlack Boboiを結成。2019年より常田大希(King Gnu)が主宰する音楽プロジェクトmillennium paradeに参加。2021年12月に最新ソロアルバム「DREAM LAND」をリリースした。

君島大空(キミシマオオゾラ)

1995年生まれ、東京都出身の音楽家。2014年に音楽活動をスタートさせ、SoundCloudに多重録音で制作した音源を公開し始めた。2019年 3月に1st EP「午後の反射光」を発表し、4月には初の合奏形態でのライブを開催。2019年7月に1stシングル「散瞳 / 花曇」をリリースした。ギタリストとして高井息吹、坂口喜咲、婦人倶楽部、吉澤嘉代子、adieu(上白石萌歌)らのライブやレコーディングに参加するほか、さまざまなアーティストに楽曲提供も行っている。

ウ山あまね(ウヤマアマネ)

2016年よりエレクトロポップユニット・神様クラブのトラックメイカーとして活動し、2019年にソロアーティストとしてデビュー。2020年にMaltine Recordsのコンピレーションアルバム「???」に参加したほか、自身のEP「Komonzo」をリリースした。2022年9月にはワーナーミュージック内のレーベル+809よりアルバム「ムームート」を配信。RYUTistやミームトーキョーに楽曲提供やリミックスという形で携わっている。