RYUTist「(エン)」特集 メンバー×運営×作家陣によるクロストーク|アイドルポップスのその先へ、5thアルバムで描く希望の音楽

RYUTistの5thアルバム「(エン)」がリリースされた。

新潟から良質な音楽と歌声を届け、アルバムを発表するたびに綿密かつ丁寧に作り込まれたポップソングが高い評価を受けてきたRYUTist。2020年7月発表の「ファルセット」以来約2年ぶりのアルバムとなる「(エン)」は、多彩なアーティストの提供曲によって彼女たちの音楽がより自由になり、新しい領域に踏み込んだことをうかがわせる。

音楽ナタリーではメンバーの宇野友恵、プロデューサーの安部博明、所属レーベルPENGUIN DISCを主宰する南波一海と、アルバムの楽曲提供アーティストによるクロストークの場をセッティング。記事の前半は蓮沼執太、ermhoi、後半には君島大空、ウ山あまねに登場してもらい、今作の楽曲がどのようにしてできあがったのかを語ってもらった。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 沼田学

宇野友恵×安部博明×南波一海×蓮沼執太×ermhoi

左から安部博明、南波一海、宇野友恵、ermhoi、蓮沼執太。

左から安部博明、南波一海、宇野友恵、ermhoi、蓮沼執太。

もっと自由にやってもいいんじゃないの?

──ニューアルバム「(エン)」の制作はどのように始まったんですか?

安部博明 制作がスタートしたのは、前作の「ファルセット」(2020年7月発表のアルバム)を出してすぐだったよね。

南波一海 「ファルセット」のときは、シングル1枚1枚を丁寧に作ったうえで、すべて勝負曲みたいな、いわゆるアイドル然としたポップスとして高いクオリティのアルバムを目指したんです。結果いい作品になりましたが、その分、だんだんとハードルも上がってきちゃって。そんな中、「音楽っていろんな形があるし、もっと自由にやってもいいんじゃないの?」という気持ちが芽生えてきたんです。「アイドルとしてのポップスを追求していたけど、次はそこにこだわらなくてもよくない?」って。そういう話からニューアルバムの制作がスタートしました。でも、コロナの影響で活動もできないし、一旦全部の動きが止まっちゃったんですよね。結局、そこから2年かかって。最初は「ファルセット」よりもスピーディでラフで自由な作品を目指していたんですけど、全然楽じゃなかった(笑)。

安部 まったく楽じゃなかったですね。

宇野友恵 先行シングルの「うらぎりもの」の時点で楽じゃなかったです(笑)。

宇野友恵

宇野友恵

安部 南波さんと一緒に面白い若手作家さんを探していた時期があって。「そういう方たちと一緒に音楽を作っていけたらいいよね」という話をしていたんです。

南波 そうそう。「こういう音楽、面白いよね」と日々雑談していた中で、あるときに「君島くんにお願いしてみない?」という話になり、そこから、これまでやってこなかったことをやろうという方向にシフトにしました。「アイドルだから」という考えを今まで以上に取っ払って、単純にワクワクする音楽を作りたいと思ったんです。

安部 それと、今回は「希望」というテーマがあって。アルバムを作り始めた2年前は今以上にコロナの影響で何もできない状況で、メンバーにとってもアルバムを聴いてくれる人にとっても、この作品が1つの希望になればいいなと思ってました。このアルバムは全体的なトーンは暗く感じるかもしれないですが、実は希望を歌っている作品なんです。

南波 狙ってこういう作品にしたわけではなく、いろいろと重なった結果ですよね。蓮沼くんに楽曲提供をお願いしたのも、安部さんと僕の中でちょっと冷たい打ち込みの曲を作りたいという考えがあったのが始まりで。

安部 音楽シーンの中で四つ打ちの曲が増えてきた印象があるし、RYUTistでもちゃんとした四つ打ちの曲を作りたいと思ったんですよね。

南波 RYUTistの音楽は明るくてハッピーな曲というイメージがあるかもしれないけど、そこにもこだわらなくてもいいかなって。それで「四つ打ちの曲、誰か作ってくれないかな」と考えていたところ、実は蓮沼くんは打ち込みが作るのがうまいから、オーガニックなやつじゃなく、ハウスの曲を頼んだら面白いんじゃないかと思ったんです。

こんなことやらせて大丈夫?

──蓮沼さんとは過去にも、「ファルセット」の収録曲「ALIVE」でタッグを組んだことがありますね。

安部 柴田(聡子)さん、パソコン(音楽クラブ)さんもそうなんですけど、前回のアルバムで楽曲を提供していただいた方とは今回も一緒にやりたいと思ったんです。だから僕としては新たにオファーする理由を探してました。前回と同じことをやっても仕方ないし、作家さん側も面白がってくれないだろうから、蓮沼くんを引っ張ってくるとしても「楽しそう、面白そう」と思ってもらわなきゃって。その結果、南波さんからいろいろとアイデアをもらって「そういう打ち込みなら面白そうだね」という話になり、できあがった曲が「PASSPort」です。

蓮沼執太 前のアルバム以降、安部ちゃんから「また、いつか一緒にやりたいです!」と言ってもらっていたし、コロナ禍であまりライブができなかった時期、RYUTistには僕のイベントに出ていただいて。苦しさをともにした友達という感じでした。なので一緒にやるのはいつでもウェルカムです。「ALIVE」は蓮沼執太フィルとして提供した楽曲で、プロダクションのビジョンがわりとはっきりしていたんですけど、「今回はそうじゃない方向性でどうですか?」と言ってくれて、僕的にもうれしいチャレンジになったと思います。

蓮沼執太

蓮沼執太

──楽曲を作るうえで、「冷たい四つ打ち」以外に安部さんや南波さんから伝えられたキーワードはありましたか?

蓮沼 生でホーンを入れてほしいという要望はありましたよね。「変わってるな」と思いつつ(笑)、そこは忠実に応えました。

南波 「四つ打ちだけど、生のホーンの音を入れたら面白いんじゃないか。そしてそれができるのは蓮沼くんなんじゃないか」と安部さんと話したんです。で、蓋を開けたら本当に面白かった。音源が送られてくるたびに細かいギミックが増えていったものの、最初のデモの原型はそのままで、そこからはちょっとだけメロディを足してもらったくらいですね。

蓮沼 目まぐるしく音が変化していく曲にはしたくないなと思っていました。サウンドプロダクションで展開を増やしたりしていくよりは、歌詞の世界の中で変化が起きていくほうがいいなと考えました。逆に「ALIVE」ではフィルによる演奏で劇的に変化させていったんですけど、今回は太いレールをどんと敷いて、その中で音そのものはあんまり変わらないようにしました。

南波 あと、思ったよりもビートが気持ちよくて、「尺を長くしてくれない?」とは言いましたよね。「これ、延々と聴いてられるな」と感じたんです。

安部 僕も「PASSPort」と、ermhoiさんが手がけた「逃避行」は、もっと長くてもいいなと思ったな。

南波 「PASSPort」「逃避行」がアルバムのラスト2曲で、作品を締めくくる旅パートを担っているんです。別世界へと連れて行ってくれるみたいな。楽曲について意見を言ったのは、長さやメロディについてぐらいですね。

安部 作家さんにお任せする形でうまくいくんですよね。「こうやってほしい」と言わなくても、お願いしたいと思った作家さんからはイメージした曲がちゃんと届くんですよ。お任せと言うと無責任に思われるかもしれないですけど、それで大丈夫な人にお願いしているんです。 まあ、その中で「うらぎりもの」に関しては「大丈夫かな?」と心配になりましたけど(笑)。

──「うらぎりもの」は没 a.k.a NGS(Dos Monos)さんが作詞、石若駿さんが作編曲した楽曲ですよね。

安部 南波さんと話して「アイドルポップスというところから違う方向にシフトしよう」と決めたんですけど、アイドルポップスはメンバーをステージ上でかわいく見せる装置みたいなものという考えがもともとあるんですよ。音楽が彼女たちのキラキラを増幅してくれている。僕はどうしてもその一面も必要だと考えて、バランスを取りがちなんですよね。逆に南波さんは「バランスを取らないでくれ」と言うんですけど、その装置の部分がないとハマらないんじゃないか、様にならなかったらカッコ悪いなと思っちゃう。プロデュースミュージックがいきすぎた結果、メンバーを置いてきぼりにしないか心配だったんです。そういう意味で「うらぎりもの」は正解がわからなくてちょっと怖くなりました(笑)。

ermhoi 完成するまでどうなるかわからない感覚ですよね。

ermhoi

ermhoi

安部 そうです(笑)。最終的にバシッとハマったからよかったんですけど。

南波 「うらぎりもの」は最初、どこが歌メロかもわからない感じだったからね。でも結局、メンバーが歌うとRYUTistの曲になるし、メンバー自身も「この音楽はわからないな」とは思わないよね?

宇野 カッコいいと思って歌ってます……!

南波 あるとき心配になって聞いたことがあるんです。「楽曲について本当はどう思ってるの?」って。そのときも「カッコいいと思ってます。だからなんの心配もしてないです」と返ってきたから、僕らが勝手に「いきすぎてんじゃないの?」と心配になっていただけなのかもしれない。新曲をリリースするたびに「この曲、ライブでやれるの?」という反応もよくあるんですけど、実際にレコーディングで本人たちは歌えているわけですし……今回も大丈夫だよね?

宇野 いつもできるようにがんばってます(笑)。でも、「これ、ライブでできるの?」というのは私たちもいつも思ってます。今回のアルバムも「うらぎりもの」や「逃避行」をライブで再現できるのか、ちょっと怖いです。

南波 (笑)。でもいつも様になっているし、好きにやっちゃったほうが面白くなるし、「こうあってほしい」という考えがリミッターになってメンバーを閉じ込めちゃうところもある。そういう考えを持たないほうが、作家さんにも伸び伸びと新しい音楽を作ってもらえるんじゃないかと思うんです。

安部 僕や南波さんみたいな音楽が好きな人間からすると「あれをやりたい、これをやりたい」という思いがいっぱいあるわけですけど、メンバー自身の好きな音楽というのもあるわけじゃないですか。だからメンバーにマスタリングの音源を聴かせて「いい曲ですね」と言ってもらえるまで、毎回心配なんですよ。立ち位置としては南波さんがメンバーのお兄ちゃん、俺は彼女たちの親みたいなもので、お兄ちゃんは「いいじゃん! やりたいって言ってるんだから、やらせなよ」と言うんだけど、親としては「こんなことやらせて大丈夫?」と心配になる感じ。