RYUTist「(エン)」特集 メンバー×運営×作家陣によるクロストーク|アイドルポップスのその先へ、5thアルバムで描く希望の音楽 (2/4)

メンバーの声を聴いてパワーを得た

南波 そんな中、ermhoiさんのデモをもらったときは、一発で「これだ!」と感じたよね。

安部 1回聴いて、「理想的な曲が来た!」と思いました。でも、そのあとけっこう音が変わっていきましたよね?

ermhoi 歌録りをしたあとに変えました。メンバーの声を聴いて変わったというか。メンバーに寄り添う形の蓮沼さんの作り方とは違って、私は自分の中にある物語と登場人物を彼女たちに当てはめて、演じてもらうつもりで曲を作ったんですけど、彼女たちの声を実際に聴いたらすごく力強くて清らかだったんです。そこからパワーを得て、曲がより壮大になりました。最終的には彼女たちの声にトラックを合わせてまとめましたね。

左奥から時計回りに安部博明、南波一海、宇野友恵、ermhoi、蓮沼執太。

左奥から時計回りに安部博明、南波一海、宇野友恵、ermhoi、蓮沼執太。

──ermhoiさんにオファーをしたのには、どういう経緯があったんでしょうか?

南波 「楽曲提供に興味がある」みたいなことを言っていただけたんですよね。

安部 ermhoiさん側から声をかけていただいたわけじゃないんだけど、そういう話を聞いたんです。共通の友人の阿部淳(音楽レーベルAPOLLO SOUNDSの代表)を通じて「ぜひお願いしたい」とオファーして、了承いただきました。

南波 RYUTistに興味を持っていただけること自体がすごくうれしかったです。それとermhoiさんにお願いするにあたって、アルバムの最後を飾る曲にしたいという思いが安部さんの中であったみたいで。

安部 「こういう曲でアルバムを締めたい」と考えていたら、そのイメージ通りの曲が届いて「すごいな」と思いました。何も言わず、一発OKでしたね。こちらからのリクエストもほとんどなかったと思います。「メロディラインが美しいものであれば、アレンジに関しては何をやってもらっても大丈夫です」という話をした感じですよね?

ermhoi そうですね。アイドルということで「ジャンルだったり言葉だったり、縛りはあるんですか?」と聞いたんですけど、「全然ない」と言われて驚きました。本当にまっさらな状態で始めて。RYUTistさんの過去の作品とかライブ映像をチェックしてみたら、どの作家さんも自分のスタイルを貫いてたので「じゃあ私も貫いていいかな」と。かつ、自分のソロ活動では作らないであろう世界観の曲に挑戦させてもらいました。それで試しにデモを送ったら、全然直しがなかったので「え? 本当にいいんですか?」とびっくりしたのを覚えています。

──ermhoiさんはどんなイメージを持って「逃避行」を作ったんですか?

ermhoi 今、若者のメンタルヘルスの問題とか、世の中が希望のない世界になってきている中で「絶対に揺るがない希望の部分を彼女たちに託す」というイメージで作りました。具体的に浮かんでいたのは「風の谷のナウシカ」みたいな、強くて勇敢な戦士みたいな女性像。そういう強さを表すストーリーラインを思い浮かべて、「落ち込んじゃった人を立ち直らせるには」ということを考えながら曲を書きました。あと、曲のテンポが速くなってそのまま終わるのは、若い世代の子たちに対してエネルギーが一瞬で通り過ぎていくイメージがあったので、それを曲の構造に落とし込んだ結果ですね。

──歌録りが曲に影響したと話していましたが、レコーディングに立ち会ってみていかがでしたか?

ermhoi みんな超いい声なのでお任せという感じで、ほとんど修正もせず、録り終わるのはけっこう早かったです。

安部 蓮沼くんとermhoiさんの曲は特に早かったですね。

蓮沼 僕は、ファーストテイクが好きなんです。あらかじめ用意された理想を追って、そこをゴールにしていくよりも、最初に出たものが一番自分らしい音なんじゃないかと思うんです。

左からermhoi、蓮沼執太。

左からermhoi、蓮沼執太。

自然に「一緒にやろうよ」と信頼できるのがRYUTist

──宇野さんは「PASSPort」と「逃避行」、それぞれの楽曲をどのように受け取られましたか?

宇野 「PASSPort」は歌詞を作っていただくにあたり、蓮沼さんから「メンバーで架空のニューヨーク旅行をしてください」と言われて、LINEのグループを作ったんです。

安部 ここに行ってみたいとか、あれやってみたいとか、どんな旅をしたいのか言い合おうという話になって。そしたら、とにかく頻繁にLINEが鳴るんですよ。通知の件数を見たら1000件近くになってました。

宇野 どんな旅行をしたいのか、1時間半くらいみんなで送り合いました。

蓮沼 楽しかったですね。歌詞には自分じゃない視点があるといいなと思って、メンバー主導でニューヨーク旅行についてあれこれ考えてもらったんです。歌詞にはメンバーとのやり取りがそのまま入っています。

宇野 旅行についてメンバーとやり取りしたことがそのまま曲になっていたのでうれしかったです。最後の「旅の中休みには ゴロゴロ ルームサービス」という歌詞は、「実際にニューヨークへ行ったら浮かれるだろうけど、絶対に疲れちゃうから途中で休憩する日を作ろう」という話がもとになっています。

安部 これまでメンバーが楽曲の制作に関わることがなかったもんね。自分たちの考えたストーリーが音楽になるという経験をできて、みんな喜んでました。

宇野 ただ、レコーディングでスキャットみたいなのをその場でやってみてと言われたときは怖かったです(笑)。

宇野友恵

宇野友恵

蓮沼 前回の「ALIVE」でもスタジオでクラップを予定なくレコーディングしましたけど、僕はその場で「今のいい音だったじゃん! それ、録っちゃおう」と提案するイジワルなタイプなんです。今回もレコーディングをしながら「ここにボイパがあるといいかも。誰かできる人?」という話になって、確かジャンケンで勝者になった(横山)実郁さんが歌うことになりました(笑)。

──(笑)。「逃避行」については、宇野さんはどういう印象を抱いていますか?

宇野 好きすぎて何回もリピートして聴いてます。「逃避行」は「傷付いた人に向けた癒しの曲」だとお聞きして。「その鎧が重すぎて うまくいかないよ 外しても大丈夫だよ 私も強くなんてないからさ」というフレーズがなんだか励ましになって、レコーディングのときは自分に向けて歌いました。

ermhoi うれしい。そんなことを言っていただけるなんて、生きててよかった……(笑)。

宇野 (笑)。あと、後半に向かうにつれて強い気持ちで歌おうと意識したことで、自分の殻を破れたというか、気持ちが歌に乗った感じがしました。

南波 このスケールの楽曲は今までのRYUTistになかったからね。

安部 今回のアルバム、南波さんと僕、それぞれが頭の中で考えてた曲順がほとんど一緒で。「PASSPort」と「逃避行」で締めることもすぐに決まりました。

蓮沼 「(エン)」というタイトルは、どういうふうにして決まったんですか?

安部 北海道の西興部村に、ゲストハウスを営んでる浅野和という友人がいまして。彼は生きるために狩りをしたり漁をしたりしてる人なんですよ。

南波 村おこしのためにRYUTistをライブに呼んでくれたり、何かと縁のある方なんです。

安部 そんな彼が10代のときに地球一周の旅をしていて、アラスカかどこかの最北端に行ったときに“ロードエンド”という看板を見つけたそうなんです。そして、その看板を見て自分の旅が終わったことを痛感して、涙が出て止まらなかったと。そこから「今度は自分の道を探す旅をしよう」というベクトルに変わったという話を聞いて、「まさに自分はそれがやりたいんだ」と思ったんです。そのことを南波さんに伝えたんですよね。

南波 地球の形は円であること、終わりと始まりはつながっているということ、人の人の縁、メンバーの声が明らかに今までより大人っぽくなっているという意味での艶と書くほうの“えん”とか……いろいろなことが頭に巡って「(エン)」になりました。

安部 「ファルセット」の制作のときと比べたら、今回は南波さんとのやりとりが少なかった印象で。だからこそ、タイトルは南波さんに付けてもらいたかったんです。みんなでアルバムを作りたかったというか、南波さんにタイトルを付けてもらって初めて作品が完成したと感じました。

左から安部博明、南波一海。

左から安部博明、南波一海。

──最後に、蓮沼さん、ermhoiさんが感じるRYUTistの魅力を教えてください。

蓮沼 RYUTistのライブを観させてもらったり、イベントで共演させてもらったりしている中で、自分たちとともに変化してることがうれしくて。僕はいろんな人と音楽をやってるイメージを持たれがちなんですけど、基本的には自分の作品しか作っていないので、音楽やクリエイションにおいては自分自身のことしか追えないんですよ。そんな中、ふとRYUTistのことを見ると、常に新しいことに挑戦していて、単純に元気が出るんですよね。メンバーみんないろんなことがある世代だろうけど、その中できちんと作品を向き合ってパフォーマンスしてるのはリスペクトしたいし、自分は曲を作ることぐらいしかできないんですけど見守っていきたいです。

ermhoi 私は今回がRYUTistさんとはじめましてだったんですけど、みんな本当にいい人たちで、一緒にいると心地いいんですよ。これからもっと仲よくなりたいなと思いました。今度ぜひライブを観させていただいて、メンバーの勇姿をリアルに体感したいです。

蓮沼 「仕事だからやってます」という感じが一切ないんですよね。自然に「一緒にやろうよ」と信頼して接することができるし、僕らにとってもすごくいい存在です。