Ryu Matsuyama「from here to there」インタビュー|「子供の頃の感情をもっと掘り下げてみたい」過去、今、未来へ思い出をつなぐアルバム (2/2)

カブトムシの餌のゼリーを食ってました

──今回のアルバムには「reckless child」という曲があったりもして、自分の過去に向き合う歌詞やイメージが随所に見られますね。

Ryu それは今回の大きなテーマでした。これまで僕は子供の頃に感じたこと、見てきたものを歌詞に昇華させてきたんです。過去は自分と切っても切り離せないし、それを「そうだったよね」と懐かしがるのではなく、もっと掘り下げてみたい。子供の頃の感情をできるだけ今の自分に取り入れたいと思っているんです。子供の頃に何かに没頭して時間を忘れてしまう感覚って、今はもうなくなってしまったので。

──「reckless child」は、まさに子供が我を忘れて走り回っているような曲ですね。途中から入ってくるドラムの疾走感がすごい。

Ryu 最初はJacksonが入れたドラムで進めていたんですけど、もうちょっと疾走感が欲しくてTsuruちゃんにアレンジしてもらったんです。それで疾走感がかなり増したんですけど、それだけでは物足りなくてスタジオでセッションを始めて。

Ryu Matsuyama

Ryu Matsuyama

──曲の後半の展開がすごいですね。突然3人のフリーセッションみたいになる。子供が泥んこ遊びしているみたいです。

Ryu そうそう、そういうことを表現したかったんです。最初は土俵の上で相撲をとっていたのに、気が付いたら外で泥まみれになって転がりまわってるみたいな感じ。タイトル通り、「無邪気な子供たち」の様子を表現したくて後半のパートを付け足しました。

Tsuru みんなルール無視してめちゃくちゃやってるもんね(笑)。

──ちなみに皆さんはどんな子供だったんですか?

Ryu 遊ぶことしか頭になかったですね。サッカーとかバスケに熱中していて、いかに効率的に遊べるかを考えていました。だから夏休みには最初に宿題を全部やる。そこで100点は目指さないんです。ギリギリ合格点の60点くらいを狙って必要以上にはやらない。そして、宿題を終わらせてから遊び呆けていましたね。

Tsuru 僕はカブトムシの餌のゼリーを食ってました(笑)。今は苦手になったけど、小さい頃は虫が大好きだったんです。あと、ミミズをいっぱい集めて目が腫れ上がったりしていました。

Jackson 僕は新しいことをやるのが好きだけど、すぐ飽きる子供でしたね。野球とかバレーとかいろいろやっては、すぐにやめちゃう。そんな中で一番続いたのが小学校で始めたドラムだったんです。

Jackson(Dr)

Jackson(Dr)

──3人それぞれですね。

Ryu それぞれの少年時代がある。その記憶を今回のアルバムで出せたらいいかな、と思って「from here to there」というタイトルにしたんです。「here」が過去の自分のスタート地点、「there」が今ここ、というイメージなんです。

どんだけ成長してるんだ、俺は!

──アルバム最後の曲、「all at home」は過去と向き合う曲ですが、この曲だけ歌声がファルセットではなく地声で力強い意思を感じさせました。

Ryu この曲は一番古い曲で、10数年前にTsuruちゃんとバンドを始めた頃に書いた曲なんです。歌詞もそのときからほとんど変えてなくて、当時の頃を思い出しながら歌ったんです。その頃は地声に近い感じで歌っていたので、その頃の感情を思い出しながら歌ったほうが面白いんじゃないかと思って。

──昔の自分が過去を振り返って書いた曲を、今、過去を振り返りながら歌う、という構図が面白いですね。

Ryu そうなんですよね。マルチバース的な感じというか。当時、過去を思い出して書いた歌詞を、僕が今そのときのことを思い出して歌ってるというのが不思議でしょうがなくて。成長した自分が昔の自分を飲み込んで歌ったら面白いんじゃないかなと思って、過去の自分を思い出しながら歌ったんです。「どんだけ成長してるんだ、俺は!」みたいな感じで(笑)。

Ryu Matsuyama

Ryu Matsuyama

──過去と現在をテーマにしたアルバムの最後を締めくくるにはふさわしい曲ですね。それにしても、アルバムに収録された曲はどれもボーカルやピアノだけでなく、ドラムもベースもしっかり聞こえてバンド感が伝わってきます。

Ryu エンジニアの西川さんと一緒に長年探してきたRyu Matsuyamaのサウンドが、前作あたりからようやく定まってきたんです。それが今回のアルバムで一番出せているような気がします。自分たちの中で「こんなサウンドにしたい」というイメージがあったわけではないんです。それよりも客観的に見てもらったときに、どう感じてもらえるかが大切で。例えば曲順も自分たちで考えたものではなく、ディレクターの意見なんです。ディレクターが提案した曲順を見たら、すごくよかったんですよね。それは曲順にこだわりがないというわけではなく、僕らが自分で曲順を考えるとどこかに偏りが出てしまうからなんです。

──客観的な視線を通じて、バンドのいいところ、悪いところを確認していくわけですね。

Ryu 最近は特にそうですね。前作アルバムでmabanuaさんと一緒にやったことが大きかったんだと思います。3人だけだと気付かないこと。頭が固くなってしまうことに気付かせてくれる人がいるというのは、すごくありがたいことだと思いますね。

Ryu Matsuyama

Ryu Matsuyama

──そんなふうに客観的に自分たちを見たり、外部のアイデアを積極的に取り入れたりできるようになったのは、バンドの土台が固まってきたからでしょうか。

Ryu そうですね。まだブレるところはありますけど、土台のようなものは少しできた気がします。Ryu Matsuyamaのサウンドがどういうものなのか、ある程度、3人に共通認識ができてきた。まだ、右往左往するところはありますけどね。

──なるほど。性格も音楽的な背景も違う3人が絶妙なバランスでまとまってきた。

Ryu すごく細い糸に3人が乗っているんです(笑)。

──パンデミックをともに乗り越えた、という経験もバンドの一体感に影響を与えているのかもしれませんね。

Ryu そうですね。前作「Borderland」の発売日には1回目の緊急事態宣言が発令されて店が全部閉まってしまい、ライブもできなくなったんです。「さあ、やるぞ!」というときに、そういう状況になってしまって、そのときの感情は「hands」という曲に込められています。そんな中で気付いたのが、“僕”じゃなくて“君”の大切さでした。君がいてくれたから僕は今いるんだなと。今、大切に思っている“君”をずっと大切にしたい、という思いがこのアルバムに詰まっています。そして「from here to there」というタイトルが「子供時代から今の僕たちに」という意味だとしたら、それは「今の僕たちから未来の僕たちへ」というメッセージでもあるな、と思っていて。10年後とか、もっと歳をとったときに改めてこのアルバムを聴いて、この頃の自分を思い出したくなるような大切なアルバムができたなと思います。

ツアー情報

Ryu Matsuyama presents "to get there"

  • 2022年10月15日(土)大阪府 雲州堂
    <出演者>
    Ryu Matsuyama(ソロ) / 小野雄大
  • 2022年10月16日(日)愛知県 K.D ハポン
    <出演者>
    Ryu Matsuyama(ソロ) / 小野雄大
  • 2022年10月23日(日)福岡県 LIV LABO
    <出演者>
    Ryu Matsuyama(ソロ) / 優河
  • 2022年11月10日(木)北海道 円山夜想 (マルヤマノクターン)
    <出演者>
    Ryu Matsuyama(ソロ) / 優河
  • 2022年12月14日(水)東京都 東京キネマ倶楽部
    <出演者>
    Ryu Matsuyama(バンド) / and more
  • 2022年12月21日(水)大阪府 Music Club JANUS
    <出演者>
    Ryu Matsuyama(バンド) / and more

プロフィール

Ryu Matsuyama(リュウマツヤマ)

イタリア生まれイタリア育ちのRyu(Vo, Piano)が、Tsuru(B)とともに2012年に結成したバンド。2014年にJackson(Dr)を迎え現3人編成となった。同年3月に1stミニアルバム「Thinking Better」をライブ会場およびiTunes Storeでリリース。2018年5月に1stフルアルバム「Between Night and Day」でVAPよりメジャーデビューを果たす。2020年4月に2ndアルバム「Borderland」を発表。2022年8月よりフジテレビで放送されたドラマ「オールドファッションカップケーキ」の主題歌として「blue blur feat. mabanua」を提供した。同曲を収録した3rdアルバム「from here to there」を9月にリリース。豊かな表現力と卓越した演奏力でさまざまな方面から支持を集めている。