4人のキュレーターがそれぞれ話を聞きたい次世代アーティストとトークする「Coming Next Artists」シーズン2の対談企画。第7回はキュレーターのmabanuaが、シンパシーを感じたというスリーピースバンドRyu Matsuyamaを指名した。20歳までイタリアで生まれ育ったというRyu(Vo, Piano)に、バンド結成時のエピソードやバックグラウンド、イタリアと日本の音楽環境の差についてまで話を聞いた。
取材 / 高橋拓也 文 / 酒匂里奈 撮影 / 山川哲矢
- Ryu Matsuyama(リュウマツヤマ)
- イタリア生まれイタリア育ちのRyu(Vo, Piano)が、Tsuru(B)と共に2012年に結成したスリーピースバンド。2014年にJackson(Dr)を迎え現メンバーとなった。同年3月に1stミニアルバム「Thinking Better」をライブ会場およびiTunes Storeにて販売。2015年11月に2ndミニアルバム「Grow from the ground」、2017年5月に3rdミニアルバム「Leave slowly」を発表し、2018年5月に1stフルアルバム「Between Night and Day」でVAPよりメジャーデビューを果たす。日本人離れした表現力と卓越した演奏力でさまざまな方面から支持を集めている。
考えていることが全員違う
──まずmabanuaさんがRyu Matsuyamaさんを指名しようと思った理由から教えてもらえますか?
mabanua Ryuさんがイタリア生まれで、ドラムの方もアメリカのバークリー音楽大学へ留学されていて、国際色があるところにシンパシーを感じました。ちなみにドラム、ベースの方も正式メンバーですよね……?
Ryu(Vo, Piano) メンバーです。バンド名はBon Jovi的なノリで、僕がジョンです。
mabanua なるほど(笑)。
Ryu 僕、mabanuaさんに親近感を感じてて。ライブで2回札幌に行ったときに、2回とも行く途中でmabanuaさんを見かけたんです。
mabanua え? いつですか?
Ryu 昨年末に羽田空港で。エスカレーターで運命的な感じですれ違ったんです。僕らは一方的にmabanuaさんのことを知っていたので「mabanuaさんだ! 本物だ!」と影でコソコソ言っていました。
mabanua そうだったんですね(笑)。ここからいろいろ聞いていきたいのですが、Ryu Matsuyamaを結成した経緯はどんな感じだったんですか?
Ryu 僕はずっとイタリアに住んでいて、20歳で日本に来たんです。それからバンドを組もうと思って、友達もいなかったのでベーシストはオーディションで決めました。Tsuruはベーシストらしいベースを弾かないところが決め手でしたね。いいベーシストに出会ったなと思っています。ドラマーはTwitterで募集しました。
mabanua 今っぽいですね。
Ryu 今どきのヤツです。そしたらちょうどJacksonがバークリー音楽大学から日本に帰ってきてるタイミングで、友達伝いで「洋楽っぽいバンドいるよ」と紹介されてうちに来ました。彼に関してはドレッドヘアという見た目でオッケーしました(笑)。アンビエントっぽい音楽性のバンドにドレッドヘアのヤツがいるのっていいなと思って。
mabanua ドレッドヘアでR&B、みたいにド直球じゃない感じがよかった?
Ryu はい。僕自身、顔が濃いめなのにファルセットで歌うというギャップが面白いと思ってるんです。そういうギャップを3人とも出せたらいいなと思って。ドラマーはセッションアーティストですね。バークリーではセッションでレッスンをしていたみたいで、最初は決まったフレーズを説明するのが大変でした(笑)。
mabanua メンバーと組んですぐに、今のサウンドは確立できたんですか?
Ryu そこまで試行錯誤はしてないですね。最近わかってきたのが、3人それぞれがやりたいことをやってるのがこのバンドなのかなと。出したい音が全員違うんですよ。丸いボールに乗せた1枚の板に3人で立っている感じです。どちらかに片寄ると落ちちゃうから、そういうスリルや面白さはバンドならではかなと思います。今はみんな、キャンバスの上で違う色をバンバン塗っているだけですが、いつかは(ワシリー・)カンディンスキーみたいな絵になるんじゃないかと思っています。
影響を受けたのはBon Iver
mabanua ファルセットのボーカルをメインに、サウンドにはいろいろな要素が混ざっていて、どこかBon Iver的なダイナミクスさや牧歌的なところもあれば、ブラックミュージックらしいところもある。ほかにもストリングスが入っているところとか、スリーピースバンドというスタイルに囚われてない印象を受けました。サウンド面においては、どんなところにルーツがあるんですか?
Ryu 思春期の頃にBon Iverに出会って、1stアルバム「For Emma, Forever Ago」を買って、「これ、求めてた音楽だ」と衝撃を受けたんです。ボーカリストのジャスティン・バーノンがBon Iverの前にDeYarmond Edisonというバンドをやっていて、実はそこから好きで。DeYarmond EdisonはMyspaceで聴いていました。Bon Iverは僕にとってすごく大きな存在ですね。彼らを越えようとはしてませんし、できないんですよ。けど僕の中にあるポップ性とそれを崩すやり方は、確実に彼らから影響を受けてますね。シンプルな音、わかりやすいコード進行に対して、ベースやドラムなどで崩すような感じというか。Bon Iverに出会う前は、Coldplayや初期のRadiohead、Oasisが大好きで、コード進行は簡単じゃないといけないと思っていたんです。
mabanua 確かに、Oasisってコード進行は超簡単ですよね。逆にそうではないアーティストといえば誰だろう……。コード進行が難しくて、海外ではウケがいいけど日本だと歌詞の意味がわからないと楽しめないようなアーティスト。
Ryu Bon Iverがそういうポジションなのかなと思いました。あとジェイムス・ブレイクとか。「FUJI ROCK FESTIVAL」などのフェスに行く音楽好きの中には彼らのことが好きな人もいると思いますが、日本ではあまりウケていない印象です。
mabanua 確かにね。俺は「mabanuaくんってUSというよりはヨーロッパっぽい雰囲気だよね」って言われるんです。機材を買いに行ってもBarefoot Sound(アメリカのオーディオメーカー)じゃなくてFOCAL(フランスのオーディオメーカー)を勧められることもあって。
Ryu 僕もよく言われます(笑)。あとはサウンド面においては、自分がいろいろと下手というのが一番の壁です。ピアノを猛勉強してるわけでもないし、機材も超詳しいわけでもないんです。下手なりに綺麗に見せるために、3人とは思えないサウンドスケールを作り出す方法は研究しました。
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イタリアと日本の音楽環境の差