ジャンルの壁を超えた音楽を発信し続けるバンド、Ryu Matsuyama。Ryu(Vo, Piano)、Tsuru(B)、Jackson(Dr)の3人の個性がぶつかることで、彼らはRyu Matsuyamaという唯一無二の個性を生み出してきた。
そんなRyu Matsuyamaの最新作「from here to there」は、Ovallのmabanua、関口シンゴ、Shingo Suzukiがそれぞれ参加。さらにBIMや優河をフィーチャーして、リスペクトする仲間たちとのコラボレートを通じて作り上げられた。ロック、R&B、ヒップホップ、クラシックなどさまざまな音楽性を飲み込みながら、自由な発想で作り込まれたサウンドプロダクション。そこにRyuのファルセットボイスが乗って生まれる音世界は、色彩と生命力にあふれている。パンデミックという厳しい時期を乗り越えて完成した「from here to there」は、未来に向けた力強いメッセージだ。アルバムのリリースを直前に控えたメンバーの3人に話を聞いた。
取材・文 / 村尾泰郎撮影 / 草野庸子
Ryu Matsuyamaは普通のドラムを叩かせてくれない
──新作「from here to there」はパンデミックの中でのレコーディングになったと思いますが、これまでの作品と制作面で変化はありましたか?
Ryu(Vo, Piano) 作品に対する向き合い方は変わりましたね。それぞれが家で作業して、データのやりとりをすることが多くなりました。でも、その変化はネガティブなものじゃない。家でじっくりチェックしたり、練習する時間が増えましたからね。僕とTsuruちゃんはインドア派なので、ありがたいところもありました。
──その変化はアルバムに影響を与えました?
Ryu 曲の作り方やアレンジへの影響は大きいと思います。例えばTsuruちゃんがドラムを打ち込んで、それをJacksonが叩くんですけど、Tsuruちゃんはドラマーの視点を持っていないので無理矢理な打ち込みをするんです。それでJacksonに「これ、腕2本と足2本じゃ叩けねえぞ」と言われたりして。
Jackson(Dr) Ryu Matsuyamaは普通のドラムを叩かせてくれないバンドなんです(笑)。無茶な打ち込みを生身の人間がどう演奏するのか、というのが面白いところで。
──ドラマーじゃない者が打ち込むからこそ、面白い発想のビートになるんでしょうね。最初はRyuさんが曲のスケッチみたいなものを持ってきて、それを3人で発展させていくのでしょうか。
Ryu そうですね。最初の段階で「こんな曲にしたい」というビジョンや3人で話し合ったりするというよりも、データのやり取りでセッションしてる感じですかね。データを開いてみて「そう来たか。じゃあ、僕はこうしよう」と音を加える。そうやって音を埋めていって、最後に3人それぞれの色が出ていればいいと思っています。
Tsuru(B) 僕は根っからの引きこもりタイプなので、ひたすらいろんな楽器を打ち込んだり、いろんなフレーズを試したりするのが好きなんです。自分がアレンジするときは、ベースはシンプルに作ってほかのパートを難しくしたりするんですけど(笑)。
Jackson 僕はどうやったらRyuくんが求めている世界やTsuruちゃんが組み立てた世界に自分のドラムを参加させることができるのか、ということをいつも考えてます。だから1枚のアルバムの中でも曲によってドラムのスタイルが全然違うんですよね。
Ryu Jacksonに関しては、いつも面白い発想を求めていて。普通に聞こえるドラムは面白くないんですよね。Tsuruちゃんに関しては自由にやってもらっています。自分にベースの知識がないのでアイデアが浮かばないというのもあって。だから最初のデモの段階ではベースのパートは何も入れてないんです。Tsuruちゃんはベースをまったく弾かない時期とか、不思議なことをする時期とか、そのときどきによって違う。でも、曲の根本が崩れないうえでやっているから、それを見ているのも楽しいんですよね。
──ドラムもベースも曲やアルバムによって変化する。常に変化していくバンドなんですね。
Ryu そうですね。自分たちだけではなく、外部の力も借りながら。今回のアルバムではmabanuaさんや、Shingo Suzukiさん、関口シンゴさんと一緒に楽曲制作することで僕らを客観的に見てもらって、「こういうアレンジがいいんじゃないか」とアイデアをもらう。そこで勉強したことを、これから作るものに生かしていくことができればいいと思っているんです。
──Ovallの3人は以前、アルバム「Borderland」にも参加されていましたね。今回mabanuaさんが参加した「blue blur」は、ドラマ「オールドファッションカップケーキ」の主題歌です。
Ryu mabanuaさんが曲のベースになるコードとリズムを書いて、僕がそこに歌詞とメロディを乗せました。歌詞はドラマのために書き下ろしましたが、ちょっと影があるラブソングにしたくて。一方的に「君のことが大好きだよ」という伝え方はせずに、これを聴く人が想像できるような内容にしたんです。
──曲自体にドラマを感じさせますね。ソウルテイストが入ったシティポップ風の曲調ですが、共作するにあたってmabanuaさんとはどんな話をされたのでしょうか。
Ryu 「マバさん全開でお願いします」とお伝えしました(笑)。mabanuaさんが書いてきたコードに自分のメロディをどうやって乗せるかは悩みましたね。前作で「Blackout」を共作したときも同じようなやり方で共作をしたんですけど、それが面白かったんです。他人が書いたコードにどんなメロディを乗せるとRyu Matsuyamaっぽさが出るのか。その挑戦を今回もやってみました。
ポカリのCMに決まらないかな
──Ovallのほかにも多彩なゲストが参加していますね。「ordinary people」ではラッパーのBIMさんがフィーチャーされています。
Ryu この曲はどういうふうに仕上げようかとけっこう悩んだんですよね。最初はAメロとサビしか書いてなくて、サビの「ordinary people」という言葉を全力で歌いたいという願望だけあった。それでTsuruちゃんにアレンジを全面的に任せたんです。
Tsuru サビのメロディがすごくキャッチーだったので、「これ、ポカリスエットのCMにいけるんじゃないか?」と思って、ポカリのCMをイメージしながらエレピやオルガンを入れました。本当にCM決まらないかなと思いながら(笑)。
Ryu Tsuruちゃんから返ってきた曲を聴いて、これにラップを乗せたら面白いんじゃないかと思ったんです。ちょっとラップを乗せにくいリズムだけど、だからこそ僕らの世界観の中でラッパーがどんなふうにラップを乗せるのか興味があったんです。それでBIMくんにお願いしました。ずっとBIMくんの曲が好きで、いつか一緒にやりたいって思っていたんですよね。
──実際にやってみてどうでした?
Ryu さすがだなと思いましたね。僕はこの曲を、ちょっと皮肉な感じで書いたんです。「僕らは普通の人なんだな……」って。それに対してBIMくんは「いや、僕らは普通じゃない!普通じゃないから素晴らしい!」とラップでアンサーを返してきてくれて、正反対のことを言っている2人がいることで曲にケミストリーが生まれたんです。そのことにすごく興奮して、BIMくんとコラボしてよかったと思いました。
──両者の個性がぶつかり合うコラボレーションだったんですね。優河さんがフィーチャーされた「kid」はボーカルの幻想的なアレンジに引き込まれます。
Ryu 僕はファルセットで歌うことが多いんですけど、女性とデュエットして女性のオクターブ下で歌ってみたかったんです。そして、やるんだったら優河ちゃんがよかった。バンドを始めた頃から彼女とは対バンしていて10年来の付き合いなんです。Tsuruちゃんと優河ちゃんは専門学校の頃から知り合いだし。今回、同じブースに入って一緒に「せーの」で歌ったんですけど、ちょっと恥ずかしかったりしてワクワクしました(笑)。これまでで一番緊張したかもしれない。
──一緒に歌っている距離感が伝わってくるようなテイクですね。
Ryu エンジニアの西川さんのアイデアで、「この曲はぴったりじゃなくていいよね」と言われたんです。デュオで歌うときって、言葉尻の空気とかブレスを合わせたりするんですけど、この曲はズレてもいいんじゃないかって。だったら一緒に歌っちゃおうということになったんです。やってみたら一緒に歌っていないと生まれない空気があって、自分が書いた曲にもかかわらず「いい曲だな」と思いました。
──女性の声で「少年」と歌う感じもいいですよね。
Ryu そうなんですよね。そこはぜひやりたかったところで。
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カブトムシの餌のゼリーを食ってました