緑黄色社会「花になって」インタビュー|アニメ「薬屋のひとりごと」OP曲で描く“毒”と“自己愛” (3/3)

先人の夢に生かされている

──「夢」というモチーフに関しては、皆さんどのように受け止められましたか?

長屋 壱誓の友達の話もそうですけど、私たちの年齢って、「夢」という言葉が身近じゃなくなってくるし、言うのも恥ずかしくなってくる部分ってあるんですよね。もしかしたら、学生の子でもそう感じている人はいるかもしれないし。夢って、人には開示しにくいものでもあるじゃないですか。

──そうですね。恥ずかしいと思ってしまう。

長屋 でも、夢を持っているのは素晴らしいことで。この曲が、そういう当たり前のことを思い出すきっかけになってほしいです。

穴見 今って、リアリティのある作品が世の中に増えていると思うんです。ぶっ飛んでいる部分があっても、根本にリアリティがないと受け入れられない。だからこそ「この曲で描いているようなことを定期的に思い出さないと面白くならないよな」と思うんですよね。

peppe 私は、この曲の「海を渡ったり」というフレーズを見たときに、はるか昔の人の気持ちになって考えちゃったんですよね(笑)。船もあるかないかの時代に「海を渡ってみたい」と思った人たちの野望があったから、それがどんどん発展して、海を渡る手段が開発されて、今につながるわけで。そう思うと、昔の人の夢がなければ飛行機とかだってないわけで……この「海を渡ったり」というワンフレーズで、そこまで考えちゃって(笑)。「夢、尊いな」と思いました。先人の夢に私たちは生かされているんだなって。それに、さっき壱誓が言っていた話と一緒で、私も夢や仕事の悩みについての話を友達からよく聞くんです。なので、タイムリーなテーマでもあったし、心を揺さぶられました。長屋が言ったように、聴いた人の何かのきっかけに、この曲がなればいいなと思います。

緑黄色社会

緑黄色社会

──「花になって」もそうですけど、「夢と悪魔とファンタジー」も曲の終わり方にインパクトがありますよね。

長屋 「夢と悪魔とファンタジー」は、もともと歌で終わるような形を想定していたんですけど、編曲をお願いしたLASTorderさんに投げたら、化けに化けて返ってきて(笑)。バンドの歴が長くなるにつれて、コンパクトなものを求めがちになるケースもあると思うんです。特にイントロやアウトロはコンパクトになっていきがちな気がする。でも「夢と悪魔とファンタジー」は歌が終わってからアウトロだけで30秒くらいあって。「こういう感じもいいな」と改めて思いました。

peppe 緑黄色社会の曲はピアノの音で終わるものが何曲かありますけど、「夢と悪魔とファンタジー」は、ほかの曲と比べても最後のピアノが長いんです。この曲はペダルが切れる音まで入れてもらってるんですけど、それは物語が終わって本を閉じる瞬間をイメージしていて。いつもピアノを弾くときは、曲の雰囲気を感じながら終わらせるけど、この曲だからこそ、ピアノも長くなったと思います。

穴見 あと、デモでは冒頭と最後に街の雑踏音を入れていたんですよ。それによって、物語の世界と現実の違いを演出していて。「アリス・イン・ワンダーランド」みたいな感じで、現実から別世界へ行って、また現実に帰ってくるようなイメージ。その雑踏音の部分を、LASTorderさんが楽器での表現で、より鮮やかにしてくれたんですよね。

もっともっと飾らない姿を見せることができれば

──こうして1枚のシングルに「花になって」と「夢と悪魔とファンタジー」という2曲が並んでいるところを見ると、とてもポップであり同時に実験的でもある、緑黄色社会の特異な存在感を感じます。例えば、フェスやイベントなどに出ると、周りの出演者と比較したうえで、自分たちのポジションについて考えることもあるんじゃないかと思うんです。今、皆さんが緑黄色社会というバンドの立ち位置をどのように考えているのか、知りたいです。

小林 この間、「MIYAKO ISLAND ROCK FESTIVAL」というフェスに出たんですけど、そのフェスはザ・クロマニヨンズさんやサンボマスターさんなど激しめのアーティストが多くて、僕らのようなバンドはほかにいなかったんです。そういう中で演奏するにあたって、「今日はどういう感じでいく?」とみんなで話したら、「僕らはいつものようにポップスで、しっかり堂々とみんなを盛り上げることができればいいんじゃないか」ということが明確になった。フェスを盛り上げることが上手なアーティストってたくさんいるんですよね。上には上がいる。でも、あまりフェスで披露するようなタイプの曲じゃなくてもフェスでできるのが僕らだし、それをやり抜くことが、僕らの在るべき姿なんじゃないかって。

──長屋さんはどう思いますか?

長屋 正直、自分でも立ち位置はわからないですね。テレビで私たちを観た人たちは、フェスで汗だくでライブをしている姿を観てびっくりするかもしれないし。私たちは当たり前にやっていることでも、まだ世の中のイメージとのギャップにびっくりすることがあるんです。そのギャップもいいものだと思いつつ、もっとならしていければいいのかなと思います。そういう意味では、「まだまだだな」と思うこともありますね。私たち自身、もっともっと飾らない姿を見せることができればなと思うし。

──12月からは東名阪アリーナツアー「リョクシャ化計画2023-2024」も始まります。どんなツアーにしたいですか?

長屋 もう準備は始まっているんですけど、初めてのアリーナツアーなので、緊張感もありますね。イベントなどでライブをしたことのある会場もあるけど、ちゃんと自分たちのお客さんだけで埋めて、最高の景色を見たい。「リョクシャ化計画」というタイトルのライブは以前からやってるんですけど、「はじめましての方も緑黄色社会の色に染めたい」という思いで付けたんです。今回のアリーナツアーも、きっとはじめましての人がたくさん来てくれると思うんですよね。そういう人たちに緑黄色社会のライブの楽しさを伝えたいし、「pink blue」のツアーから声出しOKになっているので、「これぞライブだ!」というものを見せたいです。リリースツアーではないからこそできるセトリでびっくりしてもらいつつ、誰でも楽しめるツアーにしたいです。

緑黄色社会

緑黄色社会

小林 今回は親子席もあるんです。「クレヨンしんちゃん」の主題歌で僕らのことを知ってくれた人たちもいると思うし、そもそも僕らは老若男女に愛されるバンドになりたいと思ってやってきたので、子供たちに聴いてもらえることは本望だし、シニア席も設けたいくらい。「幅広い人たちに伝わる音楽を追求していきたい」というのが僕らのモットーだし、それを体現できるのが今回のアリーナツアーになると思います。ここに来た人たちに緑黄色社会を語り継いでもらえるようなツアーにしたいです。

穴見 規模がホールツアーとは桁違いなので、いかにシンプルで鋭いシーンをいっぱい作れるかが命題だなと思います。一番後ろの席にいるお客さんにも「最高だったな」と思ってもらいたい。ただそれだけですね。そこから輪が広がればさらにうれしい。「今度は友達を連れて行きたいな」と思ってもらえたらもっと最高ですね。

peppe 地元でもある愛知の公演は日本ガイシホールでやるんですけど、私も日本ガイシには何回も好きなアーティストを観に行ったし、そこで観た公演の1つひとつをすごく覚えていて。きっと私たちのライブも観に来た人の記憶に残ることもあるんだろうなと思うと、それだけの完成度に持っていけるのかというドキドキがすごくあります。来てくれたお客さんのワクワクを、いい思い出として残せるようなツアーにしたいです。

公演情報

リョクシャ化計画2023-2024

  • 2023年12月15日(金)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2023年12月16日(土)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2024年1月7日(日)愛知県 日本ガイシホール
  • 2024年1月8日(月・祝)愛知県 日本ガイシホール
  • 2024年1月13日(土)大阪府 大阪城ホール
  • 2024年1月14日(日)大阪府 大阪城ホール

プロフィール

緑黄色社会(リョクオウショクシャカイ)

高校の同級生だった長屋晴子(Vo, G)、小林壱誓(G)、peppe(Key)と、小林の幼馴染・穴見真吾(B)によって2012年に結成された愛知県出身の4人組バンド。2013年に10代限定のロックフェス「閃光ライオット」で準優勝したのを皮切りに活動を本格化させる。2018年に1stアルバム「緑黄色社会」をリリースし、それ以降、映画・ドラマ・アニメの主題歌を多数手がけるなど躍進。2020年発表のアルバム「SINGALONG」は各ランキングで1位を獲得し、リード曲「Mela!」はストリーミング再生数が3億回を突破するバンドの代表曲に。2022年9月には初の東京・日本武道館公演を2日間にわたり開催し、同年12月に「NHK紅白歌合戦」への初出場を果たした。翌2023年5月にアルバム「pink blue」を発表。9月にフジテレビ系月9ドラマ「真夏のシンデレラ」の主題歌を表題曲としたシングル「サマータイムシンデレラ」、12月に8thシングル「花になって」をリリースする。また12月から2024年1月にかけて3都市6公演のアリーナツアー「リョクシャ化計画2023-2024」を開催する。

<衣装協力>
AIC、NEUNA / Auntie Rosa
Children of the discordance、RIVORA / STUDIO FABWORK:03-6438-9575
Fratelli Luigi × TOMORROWLAND、TOMORROWLAND / TOMORROWLAND:0120-983-522
KEIKO NISHIYAMA / KEIKO NISHIYAMA:03-5357-8292
NEONSIGN / NEONSIGN:03-6447-0709
PRANK PROJEC / PRANK PROJECT AOYAMA:03-6455-4550
REDLIST / フリックフィット:090-5308-2001
RIER × LAND OF TOMORROWLAND / LAND OF TOMORROWLAND 丸の内店:03-3217-2855