緑黄色社会「花になって」インタビュー|アニメ「薬屋のひとりごと」OP曲で描く“毒”と“自己愛” (2/3)

毒性のあるものが薬になることもある

──歌詞は「自己愛」というテーマは提示されていたとおっしゃっていましたが、意志の強さを感じると同時に、どこか控えめな印象もあって、非常にアンニュイな心情が捉えられている印象でした。書かれるうえで、どのようなことを考えていましたか?

長屋 「薬屋のひとりごと」の世界観を大事にしながら書いたんですけど、主人公の猫猫ちゃんという子は、みんなが思い描くような“ザ・主人公”という感じのキャラクターではないんですよね。明るくないし、ひねくれている部分もあるし、不気味な笑い方をするし、一筋縄ではいかない。でも、私はそういう部分が大好きだなと思ったんです。その猫猫ちゃんの人物像と、いただいた「自己愛」というテーマを照らし合わせながら書いていきました。

長屋晴子(Vo, G)

長屋晴子(Vo, G)

──「蕾のような花だってあんじゃない」という、この「あんじゃない」という言葉遣いもいいですよね。

長屋 そういうぶっきらぼうな感じは、猫猫ちゃんの性格から来ている部分ですね。

──「君の毒は私の薬」「君の闇は私の光」という部分が、この曲のメッセージを象徴しているように感じました。

長屋 毒って、その言葉自体はマイナスなイメージがあるじゃないですか。でも、「薬屋のひとりごと」を観ると、そのイメージが変わると思うんです。毒性のあるものが薬になることもあるし、猫猫ちゃん自身、どこか毒性のある子だけど、それでも薬屋という仕事をしている。その猫猫ちゃんの姿が私には輝いて見えて。そういう部分に、アニメを観てくださる方や、私自身が気付けたらいいなと思ったんです。

主人公は“夢を忘れた若者”

──そしてもう1曲、カップリングの「夢と悪魔とファンタジー」はZIP-FM開局30周年記念ソングとして書き下ろされた曲ですが、タイトルにも表れているように歌詞とサウンドを通してひとつの物語を描いたような楽曲ですね。作曲は穴見さんとpeppeさん、作詞は小林さんが担当されていますが、この曲はどのようにして生まれたのでしょうか?

穴見 peppeと2人で2年前くらいに作ったメロディから発展させた曲なんですけど、もともと僕らは「ミュージカルのように展開にあふれた曲をやりたい」という思いがあるんです。この曲は、その第一歩という感じですね。

peppe 「ミュージカル」というキーワードは昔からあったよね。東京事変さんの影響もあったのかもしれない。

peppe(Key)

peppe(Key)

穴見 確かに。それにもともと、僕と壱誓の2人はダンス経験があるし、舞台を観に行くのも好きなんです。長屋も「レ・ミゼラブル」とか好きだもんね?

長屋 うん。大きな会場でライブをやることを想像したときに、ミュージカルのような世界観の曲が合うんじゃないか、という話をよくしていたんです。

小林 ダンサーさんがいるような演出ができたらいいなっていう話もしてたよね。

穴見 アマチュア時代に、10分くらいの曲を作ったことがあるんです。1曲の中に5、6曲分のアイデアが入っていて、セリフも入ってくるような曲で。

穴見真吾(B)

穴見真吾(B)

小林 その曲では“夢の中”を表現しようとしていて。「夢の浮き橋」というタイトルの曲なんですけど、シークレットトラックとして、当時の自主制作CDに入れていたんです。そういう超大作をまたいつか作りたいなという思いはずっとあります。

──なるほど。今回の「夢と悪魔とファンタジー」の作詞は小林さんが担当されていますが、タイトルが示しているように「夢」を巡る物語が展開されています。歌詞はどのように生まれたのでしょうか?

小林 最初は「Mela!」のときみたいな書き方をしようとしたんです。「Mela!」の歌詞は、まずは僕がプロットを書いて長屋に渡すというやり方をしたけど、今回は僕が先に短編小説を書いて、それをもとに長屋に歌詞を書いてもらおう、という話になって。だけど初めてのやり方だったので、長屋も僕が書いた小説をどうやって歌詞にすればいいか悩んでしまったみたいで。それで僕も自分で歌詞を書いてみることにしました。もともと書いていた小説が、夢を忘れた若者の話だったので、それを膨らませながら、曲に対して従順に書いていった感じですね。ただ、その時点で長屋もフルで歌詞を書いてくれていたので、どちらでいくのかはバンド内でだいぶ長い議論をしました。長屋の歌詞もすごくよかったんです。今までの緑黄色社会のイメージを貫いて、ポップな感じでいくのであれば長屋の歌詞のほうがよかったけど、カップリング曲としてチャレンジするなら僕が書いた歌詞のほうがいいだろう、という感じで。ボーカルレコーディングの日程をずらしてもらうくらいギリギリまで議論しました。

──そもそも小林さんが“夢を忘れた若者”を主人公に設定したのは、なぜだったんですか?

小林 友達と話していると、僕らの仕事をうらやましがられたりすることがあるんです。言っているだけかもしれないですけどね。彼らは彼らで幸せな暮らしを送っているだろうし。でも「本当は、もっと別にやりたいことがあるんだよね」みたいな話を聞いていると、大きい夢でも小さい夢でも、「それはもう自分には叶えられないものだ」と自分の中で分別してしまっている場合もあるのかなと思って。小さい夢の場合は、もはや夢として捉えていない場合すらあるかもしれない。この曲の歌詞の中では夢の例として「海を渡ったり 恋をしたり」と書いているけど、例えば海外に行くことって、ちょっと休みがあればできることじゃないですか。でも、それを「できない」と思ってしまったりする。小さい頃に抱いていた夢も、いつしか「夢は夢だから」と分別しちゃって、現実に持ち込もうとしない人も多いと思うし。そこをこじ開けるような、1歩を後押しできるような歌詞にできればいいなと思ったんです。

小林壱誓(G)

小林壱誓(G)

──この曲には夢を食べる悪魔という存在が出てきますけど、その悪魔が世界の夢を食べ尽くしてしまって、「ごめんよ」と謝る場面があるんですよね。そしてその悪魔の言葉を、“一人の男”が受け入れるという。このやりとりはどこから生まれたんでしょうか。

小林 すごく絵本的な場面ですよね。曲の中でどうやって展開を付ければいいか難しかったんですけど、その1つとして哲学的な要素を入れたかったのかもしれないです。あと、この曲には語り部的な人がいるじゃないですか。最初に「これから唄う夢の物語は / いつか君にだって唄える時が来る」と言っていて、最後に「これから続く君の物語が……」と語りかけている。僕の中でこの語り部は、最初に書いた小説に出てくる、夢を持てなかった人なんです。彼は少しずつ自分の夢を追うようになって、次の人に思いをつなげるためにこの物語を語っている、というイメージで書きました。