緑黄色社会|より深く、リョクシャカらしい新境地へ

緑黄色社会にとって2020年は新型コロナウイルスの流行により、アルバム「SINGALONG」のCDリリースが延期になったり、それに伴うツアーが中止になったりと、思うように活動ができなかった1年だった。しかしそんな中でも楽曲「Mela!」が、朝の情報番組「スッキリ」の企画「ひとつになろう! ダンスONEプロジェクト」のテーマ曲に採用されたことにより、幅広い世代にその名を広めることができた。

アルバム「SINGALONG」に関する活動の締めくくりとして有観客・配信ライブを開催し2020年を終えた4人が、2021年一発目の作品としてリリースするシングルは「結証」。テレビアニメ「半妖の夜叉姫」の1月クールエンディングテーマとして制作されたこの楽曲だが、緑黄色社会にとっては「Mela!」を含む「SINGALONG」の先にある新境地を提示した1曲になった。この特集では緑黄色社会の2020年の活動を振り返りつつ、シングル「結証」の制作に迫るインタビューを掲載する。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 曽我美芽

願いを叶えてくれた「Mela!」

──2020年は社会的に本当にいろいろなことが起こった1年でしたけど、緑黄色社会にとっては大きな躍進の1年にもなりましたよね。特に、「Mela!」が「スッキリ」の「ダンスONEプロジェクト」などの影響もあってお茶の間レベルで浸透したことも大きかったと思うのですが、改めて、あの曲はバンドにとってどんな曲になりましたか?

長屋晴子(Vo, G)

長屋晴子(Vo, G) 「Mela!」を作り始めたのはコロナのコの字もなかった頃で。そういう意味でも、自分たちの意図していなかった広がり方をした曲ではあるんです。でも結果として、曲調や歌詞の持つ意味も相まって、2020年に求められていたものにすごく寄り添えた曲になったのだと思います。状況にマッチしたという言い方はちょっと違うと思うけど、皆さんが2020年に聴きたい曲になってくれたのだとしたら、それはすごくよかったなと思いますね。

小林壱誓(G, Cho) こういう世の中になる以前から、人の「陰」の部分に迫る音楽がヒットする傾向があるなと僕は思っていて。でもコロナ禍になり、僕らが4月にリリースした「Mela!」はそういった楽曲ではなかった。「Mela!」の歌詞の主人公は弱い男の子なんですけど、それでもやっぱり、前向きな気持ちを歌った曲なんです。こういう曲が、人々の心がどんどん沈んでいってしまう世の中にリーチしたことは、僕らとしてもすごく意味のあることだったと思います。

穴見真吾(B, Cho) 「Mela!」は僕個人としてもやりたいことを一番できた曲なんです。4人全員で作った曲でもあるし、自分たちの中から本当にパッと出てきた曲だったんですよ。そういう曲が、世の中に広く届いたことが第一にうれしくて。

──打算がないというか、本能的に生まれた曲が求められたということですもんね。

穴見 はい。しかも、こういう状況の中で広がりを見せたことに僕ら自身救われているんですよね。皆さんが「Mela!」を聴いて元気になってくれているのであれば、なおうれしいです。本当に、神様からのプレゼントみたいな曲だと僕は思っています。

peppe(Key, Cho) 私たちも「Mela!」を演奏すると気分がパッと明るくなるんですよね。自分たち自身がすごくパワーをもらえる。まだ言葉も話せないような小さな子がこの曲で踊っている動画を観て「届くってこういうことなんだな」と実感できたし、自信になりました。

陰の部分にある緑黄色社会の真髄

──この先、「Mela!」のような曲を世に出していくことが、リョクシャカにとっての役割意識にもなっていくのでしょうか?

小林壱誓(G, Cho)

小林 それが難しいところなんですよね。僕らの真髄は、長屋というソングライターがいて、長屋の声で歌うというところにあって、そこで僕がグッとくるのは「陰」の感情を歌った曲なんです。長屋の歌声にはポジティブなエネルギーもあるし、僕らの曲の中で「Mela!」が一番聴かれているとなると、周りにそういうものを求められることが多くなるような気もしていて。

──そうですよね。

小林 でも、僕が本当に聴いてほしいのは、長屋のパーソナルな、内側から出てくる感情を持った楽曲なんです。リスナーがそこまで手を伸ばしてくれるのが僕の本望。「Mela!」を入り口に、その反対側にある部分、表からは見えない僕らの裏側にあるものにも触れてもらえたらいいなと思います。

──長屋さんご自身はどうですか?

長屋 「Mela!」のようなスパッと明るい曲も自分にとって嘘ではないんです。でもきっと、私がもっとたくさんのエネルギーを込めて歌えるのは、ネガティブな感情なんですよね。私は昔から、ネガティブな感情や悩んでいることが共鳴し合ったときに、人の心が動くと思っていて。「Mela!」のような曲はどんなときに聴いても楽しい気持ちになれるけど、リョクシャカはそうではない気分のときにも寄り添えるような存在でいたいとずっと思っています。

穴見 そうだね。いち音楽リスナーとして考えてみても、最近はサブスクの普及もあって、音楽と深く付き合っていく場面が昔より少なくなっているような気がする。そういう時代でも、リスナーと深いつながりを音楽で作っていきたいと思うよね。

メンバーからの挑戦状を受け進化し続ける長屋の歌声

──小林さんは長屋さんの存在がリョクシャカの真髄であるとおっしゃいましたけど、長屋さんの歌声はどんどんすさまじくなっていますよね。ご自分としては、歌への向き合い方が変わりましたか?

長屋 メンバーに成長させてもらっている実感があります。私以外の3人が作る曲がいい意味で挑戦的になってきたんですよ。願望が乗っかっているというか、「こんな曲、歌ってみたら?」って、挑戦状を送りつけてくるような感じになっていて(笑)。

穴見小林peppe (笑)。

長屋 それもあって私の中に今までなかった歌い方や表現が見つけられているのかなと思います。あとは、段々と邪念が減ったと思いますね。

──邪念?

長屋 「こう見られたい」とか「うまく歌わなきゃ」とか「歌詞を間違えちゃいけない」とか、そういう邪念。歌を歌うって、そんなに難しく考えなくていいはずなんですよね。伝えたい気持ちを伝えられるように歌えばいいだけなのに、バンドを始めた頃はそれを複雑に考えてしまっていた部分が自分にはあったような気がします。それは今も完全になくなったわけではないんですけど、そういうところがもっとなくなっていけば、もっと楽に、もっと気持ちを入れて自分らしく歌えるんだろうなと思っていて。この先もっと成長していきたい部分ですね。

peppe(Key, Cho)

小林 例え鼻歌であっても、長屋の歌声を初めて聴いた人が受ける衝撃ってあると思うんですよ。それぐらいインパクトがある声だって信じているから、僕はずっと長屋の歌を好きでいられるんだと思うんです。声が枯れていたとしても、素晴らしい歌を歌ってくれていると思う瞬間すらあるし。

peppe 私は、ライブでいつも長屋の裏でコーラスをやっていますけど、家で練習するときも、長屋の歌声を聴きながら練習するんです。いい意味で、長屋の歌に引っ張られていくような感覚があるので、長屋の歌がないと私もコーラスがうまくできないんですよね。当たり前のことを言っているように聞こえるかもしれないけど、長屋の歌だから私も思いっきり声を出せるというか。私はきっとほかの人のコーラスはうまくできないと思う。そういうことを最近、特に感じるようになってきています。