音楽ナタリー Power Push - 「American Express presents InterFM897×COTTON CLUB THE ROOTS OF MUSIC」
一青窈のルーツミュージック
歌謡曲は信頼できる
──さまざまな歌謡曲を聴いてみて、気付いたことはありましたか?
ちあきなおみさんしかり美空ひばりさんしかり、単純に皆さん歌がうまいですよね。それまではマライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンなんかの歌い回しがすごいと思っていたんですけど、ちあきさんと美空さんは到底誰にもマネできない歌い回しだなと。あと昔の歌謡曲ってアグレッシブな詞が多いですよね。今みたいにきれいにラッピングされてないっていうか、もっと肉感的だし感情が生々しいし、それを音にぶつけていて。「一生懸命生きてるな」っていう。その生きてる感じがすごく信頼できる感じがします。
──信頼ですか。
「この人嘘言ってないな」っていうか。歌ってる人も書いてる人も「こういうふうによく見られたい」って思って表現してるわけじゃないっていうのが伝わりますよね。「この人だったら秘密しゃべってもいいかな」みたいな(笑)。それがきっと歌うときの衝動として正しいし、聴いてる人もだから伝わるし、そういう意味ですごく信頼に値する音楽だと思ってますね。
──ブラックミュージックと日本の歌謡曲で違いを感じる部分はありますか?
根本は違わないと思います。基本的にはブルースっていうか、労働歌というか。「こんなことがつらいんだよ」っていうことを歌ってますからね。
つながりを感じてもらえる選曲を
──一青さんは2015年7月に「ハナミズキ」の初セルフカバーを含むカバーアルバム「ヒトトウタ」をリリースされました。さまざまなアーティストからカバーされている自身の楽曲を再レコーディングしてみていかがでしたか?
「ハナミズキ」は私の曲の中でも一番フラットに歌った曲だと思うんですよ。改めて、こぶしを回したり変にフェイクを入れたりすると、この曲のよさが失われるんだなって思いましたね。だからレコーディングのときには、子供のような素直な気持ちで歌っていました。でもほかの方のカバーを聴くと、いろいろな解釈があって面白いなとも思います。日本だけじゃなくて、ブラジルやチェコの方にもカバーしてもらっていて。
──世界中で歌われてるんですね。
そう、うれしいですね。一応歌詞のチェックをいただいたんですけど、チェコ語がさっぱりわかんなくて(笑)。この曲に関しては「世界がもうちょっと平和になるといいな」っていう、願う気持ちだけシェアできればいいなと思ってます。あとこの間プラハのオーケストラと一緒に公演をやったときには「もらい泣き」をスロバキアの方にアレンジしていただいたんですけど、海外の人たちはまったく日本人と感覚が違っていて。「ここで伸ばすんだ!」って驚くようなリズムになったりだとか、そういう発見がありました。「もらい泣き」っていう素材を彼らなりに破壊したりまとめたりしてくれて、演奏していてすごく楽しかったです。
──今後一青さん自身がカバーしてみたい曲はありますか?
すごい有名な曲は「誰かがやってくれるだろう」って思うので、自分が好きなマニアックな歌をカバーしてみたいです。「こんな隠れ名曲もあるよ」みたいなカバーアルバムとかに参加してみたい。自分のカバーアルバムだとなかなか採用してもらえないんですよ、マニアックだから(笑)。
──例えば?
キャンディーズの「銀河系まで飛んで行け!」をカバーしてみたいですね。この曲はなんというか、“ヘンテコ歌謡”ですよね。私、幻の名盤解放同盟(湯浅学、船橋英雄、根本敬によるユニット)が監修している「幻の名盤開放箱」っていうボックスに収録されているようなヘンテコ歌謡が大好きなんです。
──一青さんのヘンテコ歌謡が聴ける日を楽しみにしています。今回のライブはアーティストのルーツミュージックにスポットを当てたものですが、どのように自身のルーツを表現をしたいですか?
例えば歌謡曲をやるにしても、「こういう音楽が好きだから『もらい泣き』みたいなのがあったんだね」ってつながりを感じてもらえるときっと面白いですよね。さっきは学生時代の話をしましたけど、もっと小さい頃で言えば「The♡かぼちゃワイン」「Dr.スランプ」「昆虫物語 みなしごハッチ」とかをよく観ていたので、アニソンも私のルーツの1つですからね。アニソンやるかもしれないですね(笑)。
──あとは先ほどおっしゃっていたブラックミュージックですね。
この「THE ROOTS OF MUSIC」で何か挑戦できたらいいですね。ブラックミュージック、もう1回掘り下げてみます。
American Express presents InterFM897×COTTON CLUB 「THE ROOTS OF MUSIC」Vol.5 一青窈
2016年12月3日(土)東京都 COTTON CLUB
OPEN 19:00 / START 20:15
※チケット申込受付終了
- 配信シングル「満点星」2015年12月16日発売 / EMI Records
- 「満点星」
- iTunes Store
- レコチョク
収録曲
- 満点星
一青窈(ヒトトヨウ)
東京都出身の女性アーティスト。台湾人の父と日本人の母の間に生まれ、幼少期を台湾・台北で過ごす。慶應義塾大学在学時には、アカペラサークルに在籍しストリートライブなどを行った。2002年、シングル「もらい泣き」でデビュー。2003年には同曲で日本レコード大賞最優秀新人賞、日本有線大賞最優秀新人賞などを受賞し、「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。2004年には、代表作の1つである5thシングル「ハナミズキ」をリリース。大ヒットを記録した。2009年に初の日本武道館ライブを開催。2015年リリースのカバーアルバム「ヒトトウタ」では「ハナミズキ」を初めてセルフカバーした。2017年春に公開される映画「ママ、ごはんまだ?」には主題歌「空音」を提供した。また2004年に映画「珈琲時光」、2008年に音楽劇「箱の中の女」で主演を務めたり、2013年に初の詩集「一青窈詩集 みんな楽しそう」を発表したりと歌手の枠にとらわれず幅広い活動を行っている。