音楽ナタリー Power Push - RIP SLYME

10thアルバムに見るリップの現在形

PESくんはメロディメーカー、RYO-Zくんは変わらないよさ

──この機会に、トラックメーカーのFUMIYAさんから見た、MC4人の今の特長や変化を教えていただけますか?

1人ひとりいくと、PESくんはオケも作れるし、メロディメーカー。俺が作ったオケに対して、PESくんだったら何かしらのいいメロディを付けてくれるだろうっていうのはあります。

──PESさんはFUMIYAさんの次に作曲量の多い人でもありますね。

オケは昔に比べてあまり作らなくなっちゃったけど、その部分は俺に任せてるっていうことだと思うんですよね。そういう意味ではちゃんと役割分担ができてるかなと。俺はオケ作ってるほうが楽しくて、メロディがPESくんみたいにポコポコ出てこないので。あとはいろんなことを決める話し合いでも……柔らかくなったかな。

──RYO-Zさんはどうですか?

RYO-Zくんは変わらない、ラップが。変わらないよさがあるんですよね。いい意味で進化してない。

──ラップに対する愛が人一倍強いと思います。

そうそう。一番ヒップホップとか日本語ラップが好きな人ですね。音楽っていうか“ラップ”が好きな人っていう感じ(笑)。だってほかの音楽のこと、めったに言わないですからね。ラップのことばっかり言う。で、そのRYO-Zくんがラップする感じも本当に自分が好きなスタイルを貫いてて、「これが好きだからこれでいい」って感じがする。どんどん探ってラップのスタイルを変えてくっていう感じではない。

──確かに。このジャンル、新しいスタイルのラッパーや流行は年々生まれてるけれど……。

20年変わらない。ホント変化があるとしたら体って感じがする(笑)。

やっぱ4人の声を合わせるとしっくりくる

──では次、ILMARIさんについて教えてください。

ILMARIくんはね、一番“いい”声持ってる人。すごい倍音がある声ですね。まあSUさんもなんだけど、RYO-ZくんPESくんだけだと声の質感的に濃すぎるところをあの2人でうまく中和してくれてるんです。あと、なかなか筆遅いタイプなんだけど、自分の録ったものに対してはものすごい責任を持つ人で、ミックス作業のときも「もうちょい前」とかひと言挟んでくるし一番気にする。自分がやったことには気を張っていつも意識して聴いてますね。

──曲の中でのパフォーマンスにおいて昔と今ではどんなところが変化してますか?

自分の声のどこらへんがおいしいかを、自分でわかってきた感じがある。こっちも「たぶんここでILMARIくんの歌っぽいのが入るといいな」とか考えながら作ります。ILMARIくんの声の使い方次第ですごい大人っぽくなったり、曲の表情もけっこう変わってくるんですよ。そういうのをわかってきたんじゃないかと思います。

──最近のアルバムは女性ボーカルとILMARIさんのデュエットとして成立するような歌曲も入ってますもんね。

そういう曲はメロに強いPESくんが作って「これはILMARIくんに歌ってもらおう」みたいな住み分けもあるし。だから“リップの曲”に広がりが出るっていうか。

──なるほど。

RIP SLYME

ただ、不思議なことに、やっぱ4人の声を合わせるとしっくりくるっていうのはあるんですよね。一番高いところはPESくん、一番低いところはSUさんってちゃんと分かれてるから、ユニゾンで聴くとやっぱりちょうどいいなって。本人たちもその感覚はあるんじゃないかな? 4人で「せーの」で出してるときが一番しっくりくるっていう。

──その一番低いところを担っているSUさんはどうでしょう。

昔はすごい高い声でラップしてたんだけど、リップに入って低いところで自分のポジションを獲得したっていうか(笑)。最近ちょこっとファルセットを入れたりしますけどね。あとSUさんは一番ヘンな詞っていうか、耳に引っかかるような言葉をサッと入れることが多い。

──例えば?

今回のアルバムで言うと「だいたいQuantize」かな? 「あーあーでーリスケー」っていうラインがあって、俺もほかのメンバーも「『あーあーデリスケ』ってなんだ? デリスケって誰だ?」って思ってたの。そしたら「あーあー で、リスケ(リスケジュール)」のことだって。曲で聴くと「デリスケ」って聞こえるんだよね。こういう「なんだこれ?」って引っかかるような表現です。ただ、なんでこれ書いたのか本人もわからないって言ってた。「俺大丈夫かな」って、自分で自分が心配になってみんなにLINEしてきた(笑)。

──詞を持ち寄ったときに「これは意味わかんないよ」って誰かが指摘したりは?

……だってだいたい意味わかんないからね(笑)。

──ははは(笑)。

俺、いまだに何言ってるかわかんない曲いっぱいありますから。何年も経ってから「この曲そういうこと言ってたのか。全然違うふうに捉えてた」っていうことが今でもある。でも、俺の好みとしては全部ハッキリ聞こえるのも気持ち悪いし、ひと言とかふた言パンッて抜けて入ってくるぐらいの詞の濃さが好きだから、意味わかんないのも含めていいかなと思います。

──最後に、今作を作っている最中の5人のムードはどうでしたか?

このアルバム、俺の自宅のスタジオでほとんど録って俺がエンジニアもやって、ほとんどの作業を自分でやったんです。だからそれぞれのテンションとかテイクの良し悪しもわかるし、すごい内面まで知ったなって。いい経験したなって思う。雰囲気もよかったと思いますよ。相変わらずみんなで酒飲み行ったりしてたし。ただ、40前後になって現状を維持してくこともけっこう大変だなと思います。維持するためには、まあ音楽をいっぱい聴くとか、若い頃やってた努力みたいなこと、もう一度しなきゃなって。それをやってやっと普通のレベルが保てるぐらいなんだろうなって。鍛錬しないと音作るにもラップするにも腕がガクッと落ちるんだろうなと思ったりします。だから続けないと。みんなにラップやらせないと(笑)。

10thアルバム「10」2015年9月30日発売 / unBORDE
3240円 / WPCL-12240 / Amazon.co.jp
初回プレス盤
通常盤
収録曲
  1. Powers of Ten
  2. ピース
  3. POPCORN NANCY(Album ver.)
  4. KINGDOM
  5. だいたいQuantize
  6. いつまでも
  7. 青空
  8. 気持ちいい for Men
  9. TIDE
  10. Happy Hour
  11. JUMP with chay
  12. Vibeman feat.在日ファンク
  13. メトロポリス
  14. この道を行こう
  15. 時のひとひら
RIP SLYME(リップスライム)

RIP SLYMERYO-Z、ILMARI、PES、SU、DJ FUMIYAからなる4MC&1DJヒップホップユニット。1994年に結成され、2001年3月にシングル「STEPPER'S DELIGHT」でメジャーデビュー。その後2ndアルバム「TOKYO CLASSIC」がミリオンヒットを記録する。さらに国内のヒップホップユニットとして初めての日本武道館ワンマンライブを行い、日本にヒップホップ文化を広く浸透させた。2010年には、メジャーデビュー10年目を記念しベストアルバム「GOOD TIMES」とカップリングベストアルバム「BAD TIMES」を発表。2015年9月には通算10枚目のオリジナルアルバム「10」をリリースした。