Reol×小田さくら(モーニング娘。'23)が“歌い手”として語り合う (3/3)

直線距離で「I LOVE YOU」に行けない

──小田さんはReolさんのニューアルバム「BLACK BOX」は聴きました?

小田 聴きました! 素晴らしかったです。特に「さよならのすゝめ、今日のつづき」の声が好きでした。「secret trip」と「さよならのすゝめ、今日のつづき」の流れがすごくよかったです。

Reol わあ、うれしい。

小田 「secret trip」も大好きですね。私はReolさんの楽曲の複雑さを楽しんでいたところもあったんですが、この曲は歌も歌詞も音もすっと入ってきたので新しさを感じました。でもReolさんらしさもすごくあって。あと、Reolさんが愛のことを歌っているのがうれしかったです。

Reol 確かにストレートな表現をした曲かもしれないですね。私の曲はひねくれてる歌詞が多くて、「何について歌ってるんですか?」って聞かれることも珍しくないんですけど、「secret trip」は伝わりやすいと思います。

──それは意識的なものだったんでしょうか?

Reol メッセージをストレートに“伝えられるようになった”っていう感じですね。年齢を重ねたことも関係しているのかな。自分が何者でもなくて、漠然と「この学校にいるみんなとは違う自分が磨くべきものっていったいなんなんだろう?」と考えていた学生時代に一番聴いていたのが東京事変や椎名林檎さんの曲でした。2018年に初めて林檎さんとお話しする機会があったんですが、林檎さんからすごく優しい母性のようなものを感じたんです。当時の私はユニットが解散してソロになり、一旦振り出しに戻ってしまった感覚があって不安を感じていて。「ここからは自分1人で戦っていかなければならないし、自分自身との戦いだな」と孤独を感じていたときに東京事変のライブに行って、バンドと並行してソロ活動をずっと継続している林檎さんが包み込むような言葉をかけてくださった。そこで、私も自分の音楽を好きでいてくれる人に対して、同じようなことをしたいと思ったんです。与えてくれた方に同じようなものをお返しすることも大事だと思うんですが、それだけでなく、どうやって自分がもらったものを次の世代につなげるかが重要だと思うんですよね。それまでの私は自分の音楽のことばかり考えていましたし、個人的な怒りや悲しみを曲にして世の中に届けていましたが、その先に手を伸ばして、どんどん引き出しを開けていくことを意識し始めたというか。「secret trip」は幼い頃の自分に歌っている建て付けで書いた曲ですが、その“幼い頃の自分”というのは、さくらちゃんだったり、私の曲を青春時代に聴いてくれている人たちのことでもあります。そういう心境の変化が出た曲だと思っていますね。

Reol

Reol

小田 この曲の歌詞にある「どんな時も愛してるよ」っていう言葉のように、真正面から「大好きだよ」って言われると救われる気持ちになります。

Reol 私は直線距離で「I LOVE YOU」に行けない人間なので(笑)、伝わりやすいメッセージは迂回しないと出てこないんです。でも、世の中には少なからず私みたいな、「I LOVE YOU」に真っ向勝負で行くのが怖かったり、状況がそれを許さなかったりする人がいるんだろうなと思うと、そういう人間の「I LOVE YOU」にしか宿らない“何か”はあるのかなって思っています。でも、「No title」とかを書いていた頃の自分は「I LOVE YOU」なんて絶対に書かなかっただろうし、書きたくないだろうし、万が一書いたとしても絶対にリリースしなかっただろうなと思います。

小田 これはつんく♂さんの思想に通じることで私の最近のモットーでもあるんですが、「親切にされたときは『大丈夫です』って言わないで、『ありがとうございます』とちゃんと受け取る。そして、その親切を別の人に返していく」っていう。私に親切にしてくれたということは、その人は私が別の人に親切にすることを喜んでくれる人だと思うんです。私はモーニング娘。にいる期間がもう長いので、メンバーのほとんどが後輩なんです。だから、後輩にできるだけ声をかけたり、お菓子をあげたりしています(笑)。

小田さくら

小田さくら

さくらちゃん以外のパート全部歌います

──お二人が初めて直接会ったのは昨年末の「COUNTDOWN JAPAN」なんですよね。

小田 そうなんです! うれしかったです。

Reol ああいうロックフェスにモー娘。が出てること自体が熱いですし、そこでお会いできるとは思わなかったですね。

小田 ハロプロのほかのグループはReolさんと同じフェスの同じ出演日に出たことがあって、「なんで私は同じ日にならないんだろう。私のほうが好きなのに!」と思っていたので(笑)、ようやく念願が叶いました。「私という存在は、Reolさんの世界にいてはいけない」という気持ちもあったし、楽屋を訪ねるか迷ったんですが、中学生からの思いを1つ昇華したいと思って声をかけさせていただきました(参照:楽しかった~!小田さくら | モーニング娘。'23 天気組オフィシャルブログ Powered by Ameba)。

Reol 自分のことを「好きだ」と言ってくれる人が表現活動をしているのはうれしいですよね。わかり合えるものは絶対にあると思いますし、そういう立場の方に自分の歌詞とかが響いてくれているのはすごく励みになります。ずっと続けてきたからこそ、ああいうロックフェスの競演者としてお会いできた。その形での邂逅が熱いですよね。

小田 ドラマチックですよね。

左からReol、小田さくら。

左からReol、小田さくら。

Reol 今度、一緒にカラオケに行きたいです。さくらちゃんの歌声を真似しながら「Wake-up Call」を歌いたい。

小田 え⁉ 私とですか? 誰かに怒られる気がする!

Reol (笑)。私、さくらちゃん以外のパート全部歌います。

小田 え! とんでもないですよ! わあ、すごいな。中学生のときの自分に胸を張れます。

Reol 私もさくらちゃんと仕事で会えたことに胸を張れますね。お互いこれからもがんばりましょう!

小田 がんばりましょう!

左からReol、小田さくら。

左からReol、小田さくら。

プロフィール

Reol(レヲル)

シンガーソングライター。2012年より動画共有サイトにて歌唱動画や自身が作詞を手がけた楽曲を投稿し始める。2015年7月、れをる名義でソロアルバム「極彩色」をリリース。2016年3月にはサウンドクリエイターのギガ、映像クリエイターのお菊とともにユニット・REOLとしての活動をスタートさせ、同年10月にはアルバム「Σ」をリリースした。2017年8月にユニット・REOLの“発展的解散”を発表。同年10月に行われたラストライブ「REOL LAST LIVE『終楽章』」をもって、ユニットとしての活動に終止符を打った。2018年1月にはReol名義で“再起動”することがアナウンスされ、活動を再開。同年10月に1stアルバム「事実上」、2020年1月に2ndアルバム「金字塔」、2022年11月にはシングル「COLORED DISC」を発表。2023年10月には3年9カ月ぶりとなるフルアルバム「BLACK BOX」をリリース。

小田さくら(オダサクラ)

1999年3月12日生まれ、神奈川県出身。アイドルグループ・モーニング娘。の11期メンバー。2012年9月、「モーニング娘。11期メンバー『スッピン歌姫』オーディション」を経て13歳でグループに加入した。2013年1月にモーニング娘。52ndシングル「Help me!!」でCDデビューし、翌年10月には14thアルバム「14章~The message~」でグループのオリジナルアルバムに初参加。2013年以降、毎年ファンクラブ会員限定のソロイベント「さくらのしらべ」を開催している。2023年10月25日にモーニング娘。'23として「すっごいFEVER! / Wake-up Call~目覚めるとき~ / Neverending Shine」をリリースする。

※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

2023年10月17日更新