音楽ナタリー PowerPush - くるり

実験の末に生み出した多国籍ファンタジー

くるりはムチャなスケジュールを組む旅行会社

──曲順もすごくバランスがいいですよね。「Liberty&Gravity」みたいな突拍子もない曲がありつつ、シングルの曲が要所要所に入っていて。

岸田 ありがとうございます。ムチャな日程で組まれた観光コースが行ってみたら案外よかった、っていう作品かもしれないですね。そういうツアーは実はどこの旅行会社(=アーティスト)もやってなかったみたいな。でも、それはたまたまなんですよね。作為をもって作るということにおいては僕らはまだまだなので。

──「Liberty&Gravity」では「POM POMPOM POM」というフレーズが出てきて、次の曲のタイトルは「しゃぼんがぼんぼん」ですよね。その後の「遥かなるリスボン」では「ボン ディア 船は進むリスボン」と歌っていて。似たような語感があるから、曲調はまったく違うけれどある種統一感みたいなものが生まれているのかなと思ったんですがいかがでしょう?

岸田 ほんまや! それは全然意識してなかったですけど、あたかも俺が計画的にやったことにします(笑)。

──前々作の「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」のときも、「目玉のおやじ」の次に「温泉」という曲が続くなど、イメージの連鎖があったので。今回も、先ほどのお話でいうところの“トラップ”として仕掛けられているのかなと。

岸田 はいはい。でも思わせぶりの余地を残しながらなんとなく辻褄をあわせる天才は集まってると思います。

主張したいことなんてない

──これまでのお話を伺って、くるりの曲はすごく奥ゆかしいんだなと思いました。

ファンファン(Tp, Key, Vo)

岸田 奥ゆかしいですよー。

──ストレートに伝えるのではなくニュアンスで表現して、情景を呼び起こさせてその中で感情を揺り動かすという。

岸田 そもそも僕は言いたいことはないんですよ。主張したいことなんてなくて、ただ作った曲を聴いてもらいたいだけの話で。ただひとつ絶対的な指標にしているのは、いろんな思いを持って録音した曲が1枚の絵、もしくは映像になっているかっていうことで。

──1曲だったり、アルバム全体だったり。

岸田 そうですね。あとはフレーズだったりとか。くっきりした映像のときもあるし、モヤがかかってるときもありますけど。奥ゆかしいっておっしゃいましたけど、奥ゆかしいのは俺らじゃなくて曲たちなんですよね。なんかわからんけどこの匂い知ってるとか、この色合い見たことある、とか。メッキが禿げていったら「なんやこれ!? 宝石やと思ってたらガラス玉やないか!?」っていう曲もあるかもわかんないですけど(笑)。

何かを演じることの繰り返し

──くるりのスタイルは変わり続けることなのかなと感じているんですが、デビュー当初に今現在のくるりの形をイメージされていたんでしょうか?

岸田 全然(笑)。

──まさに転がり続けている状態だと思うんですが(笑)。

岸田 そういうバンド名ですからね。

佐藤 名は体を表すって言いますけど、そういうふうになるもんなんちゃうかなって思います(笑)。

岸田 結局、こうやって自分たちで曲作って楽器持って演奏するっていうのは、芝居をしているみたいなもんやと思うんですよ。

──芝居ですか?

岸田 芝居っていうと大げさに聞こえますけど、何かを演じるっていうことの繰り返しだと思っていて。例えばTHE BAWDIESの人はTHE BAWDIESを演じてると思うし、松田聖子さんは“松田聖子”を演じてると思うんですよ。くるりもくるりを演じてるところはあると思うんですけど、演じるニュアンスが作品ごとにちょっとずつ違うというか。ドラマも出るし映画も出るし、演劇もやるし、長編も短編もやりますっていうことだと思うんですよね。そういう意味でくるりが変わり続けるというのは、次にやる演目に対して自分の能力や技術を使いながらうまく演じているっていうことだと思っていて。だから新作をリリースしたときに「やっぱくるりはくるりだよね」って言われるのが半分はうれしいし、半分は残念な気持ち(笑)。

──今回のアルバムでは岸田さんは何を演じたという感覚なんですか?

岸田 メンバーそれぞれあると思うんですけど、今回は僕は完全にピエロですね。このアルバムであたかもすごいメッセージとか、すごい未来性とかを提示しているマッドサイエンティスト……のふりをしているピエロを演じているのかなと。

──今度はタイトルが「PIER(ROT)」に見えてきました。

岸田 ははは(笑)。

佐藤 曲を演奏するって、自分の中にはないこともやらなければいけないと思うんですよね。違う国の音楽をやる際にその国の人の気分になってみたり。そういう意味で、僕も演じようと思っていなくても自然と演じている部分はあるかもしれないですね。

──アルバムリリース直後の9月21日には「京都音楽博覧会2014 IN 梅小路公園」が開催されます。今年はかなりワールドワイドなセレクトですよね。

佐藤 アルバムのレコーディングをしているときに人選をしていたので、わりと勇気があったというか(笑)。自分たちのモードだったので、これ喜ばれるんちゃうかなっていうのが自然と感じられたんですよね。

岸田 好きな音楽を集めていったらこうなりました。でもまあ音博を始めたときはそういうコンセプトでしたから。毎年毎年素晴らしいイベントになっていってるとは思うんですけど、当初のコンセプトからズレていってた部分があったので、原点に立ち戻ったという感じですね。ぜひ遊びに来てください。

ニューアルバム「THE PIER」2014年9月17日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
初回限定盤 [CD+ブックレット] 5400円 / VIZL-719
初回限定盤 [CD+ブックレット] 5400円 / VIZL-719
通常盤 [CD] 3132円 / VICL-64167
iTunes Store レコチョク
CD収録曲
  1. 2034
  2. 日本海
  3. 浜辺にて
  4. ロックンロール・ハネムーン 
  5. Liberty&Gravity
  6. しゃぼんがぼんぼん
  7. loveless<album edit>
  8. Remember me
  9. 遥かなるリスボン
  10. Brose&Butter
  11. Amamoyo
  12. 最後のメリークリスマス<album edit>
  13. メェメェ
  14. There is (always light)
初回限定盤 仕様特典
  • 7inchサイズジャケット
  • 300ページを超えるアルバム収録曲全曲の楽譜が付属
  • 「Liberty&Gravity」のハイレゾ音源がダウンロードできるシリアルコード
京都音楽博覧会2014 IN 梅小路公園
2014年9月21日(日)京都府 梅小路公園 芝生広場
<出演者>
くるり / Penguin Cafe(イギリス)/ トミ・レブレロ(アルゼンチン)/ サム・リー(イギリス)/ ヤスミン・ハムダン(レバノン) / 椎名林檎 / tofubeats / サラーム海上
くるり
くるり

1996年、立命館大学のサークル仲間の岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B)、森信行(Dr)により結成。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビュー。2007年9月より野外イベント「京都音楽博覧会」を主催している。2010年に9thアルバム「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」、2012年に10thアルバム「坩堝の電圧」をリリース。2013年より全県ツアー「DISCOVERY Q」を開催中。2014年9月17日に「THE PIER」を発表する。常に革新的なサウンドを提示し続けており、現在は岸田、佐藤、ファンファン(Tp, Key, Vo)の3人編成で活動している。