音楽ナタリー PowerPush - くるり
実験の末に生み出した多国籍ファンタジー
生春巻きを揚げてみたアルバム
──音楽性の部分で具体的に実験したことを教えていただけますか?
岸田 実験っていうかチャレンジでもあるんですけど、まるで人が心を込めて弾いたかのようなオルガンの音をプログラミングで作ったりとか、不思議なニュアンスを体現するために半音の半音が出る中東の楽器を使ったりとか、細かいことはありますよ。でもそれは聴いた人にとってはどうでもいいというか。純粋に聴いた人にいい曲って思ってもらえればいいだけの話なんで。まあ、そういう細かい1つひとつの挑戦が形になった喜びでこっちも次の音が出てくるっていう部分はありますけどね。
ファンファン 私は高校のときに吹奏楽部やったんですけど、顧問の先生に「上手な学校は演奏する直前に“スーッ”って息を吸う音がする」って言われたんです。人の息吹が感じられるって言われて。打ち込みって機械が作る音だから逆やと思ってたんですけど、強弱とかリズムとか音の長さで優しく聞こえたり、人が演奏しているみたいに聞こえるって気付いて。
──へえ。
ファンファン それと、大学時代に村田製作所っていう会社の説明会に行ったときに担当の方が「我々は技術で人を幸せにします」って言っていて。その言葉を思い出して、ちょっと通じてるかもと思いました。
──技術だけど、そこに人の息吹や魂が宿っていると。
岸田 例えば僕が新橋で一息ついたときに突然天ぷらが食べたくなったとしますよね。それで「天ぷら」って曲を書いたとして、そうすると自分では意識してなかったのに、「なんか新橋に行きたくなりました」って言われたりするんですよね。もしかしたら自分たちが触れている社会的なことや個人的なことが、無意識のうちに人に伝わる部分はあるんかなって思いますね。技術を作るのも人やからね。
──佐藤さんはこのアルバムを制作してみての感想はいかがですか?
佐藤 くるりは同じことはやりたくないっていうスタンスのバンドだと思うんですよね。さっきから変な例えばっかり出してますけど、春巻きって小学生の頃から食べてるじゃないですか。
──はい。
佐藤 それで、大学生になってアジア料理店とかに行って生春巻きというものと遭遇する。自分の知ってる春巻きとは全然違うけどどうやら春巻きの仲間や。じゃあ生春巻きっていうのを逆に揚げてみたらどうなるんやろうとか。
岸田 ははは(笑)。
佐藤 で、揚げてみたら、ちょっとこの葉っぱが合わなかった。だから代わりにタケノコを入れてみよう、とか。そういうことを音楽でずっとやってるっていう感覚ですね。
──なるほど(笑)。
佐藤 それはやってみないとわからないし、今回の作品はそういう変化が楽しくていろいろ試したアルバムでしたね。
岸田 アルバムごとにどうせやったら全員同じスタート地点から始めたいんですよね。リスナーだけやなくて、スタッフもそれこそ自分らバンドメンバーも新鮮な発見がある状態で作品を生み出していきたくて。それは以前から意識してたんやけど、今回はそれがより強くなった感じはありますね。
無意味なものにあたかも意味があるように
──曲作りで実験をするときは、こうやったらきっとこういう結果になる、と予測を立てながら作業するんですか?
岸田 いや、もっと自由に考えて、常識外のものができてしまうかもしれないけれど、できたらできたで対処すればいいやという感覚でしたね。
──あまりカッチリと決めずに、いい意味で緩く。
岸田 そうですね。カッチリ決めずに作るんやけど、ただそれをそのままにしておくと売り物にならないんで(笑)。できたからには理由があるだろうから、それを精査してあたかも意味があるように施していって……まあ俺は意味なんて全然なくていいと思ってるんですけど。なんかようわからんオブジェやけど、中に電球を入れればランプとして見えなくもないかな、みたいな。
──そういう作業を1曲ずつやっていったんですね。
岸田 1曲ずつだったり2曲ずつだったり。
──それで最後にアルバム全体として意味付けをして。
岸田 そうそう。
──ちなみに、前作は東日本大震災の影響が少なからず出た作品だと思うんですけど、今作についてはいかがでしょうか? 「最後のメリークリスマス」のビデオクリップは福島県相馬市と南相馬市で撮影が行われていますが。
岸田 今作でいうと、現実に起こってるニュースでも事件でも、そういう1つひとつのことに自分の作る作品が振り回されるのは避けたかったんですよね。とはいえそういう時代に自分たちは生きているわけで、震災の影響っていうのはあるといえばあるし、ないといってもあるわけで。でもそれと自分の作る作品の意味合いはあまり関係がない。それは前作からそうで、結局音楽は二次的なものでしかないので。
──生活必需品ではない。
岸田 そう。だからそこに政治的なメッセージを組み込もうとするのは音楽にとってマイナスにしかならないと思っていて。それに、あることに俺がインスパイアされたとして、曲を通して伝えようとすると5mmくらいにしかならないんですよ。もちろんそれを直接表現できる人もいると思うけど、自分の特性としてインプットされた情報をなんのバイアスもかけずに出したら全然違うものができるんですよね。
俺らは“壁ドン”ができない
──アルバムを通してこれだけ多様な楽曲ができたわけですが、タイトルはどうやって付けたんでしょう?
佐藤 ジャケットに採用された写真があるんですけど、これはプリプロをやった繁くんの別宅の近くで、たまたま休憩時間にみんなでいたところをファンちゃんがiPhoneで撮っていたんですよ。
──あ、そうなんですか?
佐藤 はい。それをみんなで見て、「名盤のジャケットにありそうな写真やな」っていう話をしていたんですけど、曲順とかも決まって最後にジャケットの話になったときに、やっぱりこの写真がいいんじゃないかってなったんです。それで「桟橋やから英語にしたら『THE PIER』やな」って。
──へえ。楽曲が非常に多国籍的だから、この桟橋で小舟に乗っていろいろな国に行くイメージが湧いたんです。収録曲の中に「遥かなるリスボン」っていうポルトガル民謡のファド調の曲がありますよね?
岸田 ありますね。
──ファドの女王と呼ばれたアマリア・ロドリゲスの代表曲に「暗い艀(はしけ)」っていう曲があると思うんですが、小舟のイメージがそこから湧いてきまして。
岸田 はいはい。
──それは先ほどの天ぷらの話で言うと、聴き手が無意識のうちに感じたことなのかもしれないですけど。
佐藤 タイトルだけでそこまでイメージを膨らませてもらえるのはうれしいですね。思い浮かべる景色は人によって違うとは思いますけど、作品を聴いた人がいろいろ妄想してくれるっていうのが自分たちの音楽の特徴でもあると思っているので。
岸田 飲み会とかで思わせぶりな女子とかいるでしょ。そういうことをくるりはずっとやるんですよ。もちろん、ストレートに言ったり、やったりするのってやっぱり強いと思うんです。でも僕らは“壁ドン”ができないんですよね。うまく言えないですけど、僕照れ屋なんで。
──わかる気がします。
岸田 こういうことを言うと悪い確信犯みたいに見られるかもしれないんですけど、トラップは仕掛けるんですよ。やっぱりプレイヤーとしてのエゴもありますし。ちょっと中毒性の高い曲にしてみたり、意外性のある曲にしてみたりしてね。1人でも多くの人に自分の作った曲に振り向いてほしいんやけど、いかに目立ちたいオーラを消すかっていうことはやってますね。
──ファンファンさんは今の話を聞いていかがですか?
ファンファン ちょっと話が違うかもしれないんですけど、曲っていつ振り向いてもらえるかわからないのに、いつ聴いても変わらないじゃないですか。相手にされなくても怒らずにそこに在り続けるなんて「曲って大人やな」って、アルバムを作りながら改めて思いました。
岸田 なるほどね。自分たちで作ってるとついつい曲に期待しちゃうからね。だからアルバムが世に出て、世間の反応が楽しみでもあるし怖いなっていうのもありますね。
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- ニューアルバム「THE PIER」2014年9月17日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD+ブックレット] 5400円 / VIZL-719
- 初回限定盤 [CD+ブックレット] 5400円 / VIZL-719
- 通常盤 [CD] 3132円 / VICL-64167
- iTunes Store レコチョク
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CD収録曲
- 2034
- 日本海
- 浜辺にて
- ロックンロール・ハネムーン
- Liberty&Gravity
- しゃぼんがぼんぼん
- loveless<album edit>
- Remember me
- 遥かなるリスボン
- Brose&Butter
- Amamoyo
- 最後のメリークリスマス<album edit>
- メェメェ
- There is (always light)
初回限定盤 仕様特典
- 7inchサイズジャケット
- 300ページを超えるアルバム収録曲全曲の楽譜が付属
- 「Liberty&Gravity」のハイレゾ音源がダウンロードできるシリアルコード
- 京都音楽博覧会2014 IN 梅小路公園
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2014年9月21日(日)京都府 梅小路公園 芝生広場
<出演者>
くるり / Penguin Cafe(イギリス)/ トミ・レブレロ(アルゼンチン)/ サム・リー(イギリス)/ ヤスミン・ハムダン(レバノン) / 椎名林檎 / tofubeats / サラーム海上
くるり
1996年、立命館大学のサークル仲間の岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B)、森信行(Dr)により結成。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビュー。2007年9月より野外イベント「京都音楽博覧会」を主催している。2010年に9thアルバム「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」、2012年に10thアルバム「坩堝の電圧」をリリース。2013年より全県ツアー「DISCOVERY Q」を開催中。2014年9月17日に「THE PIER」を発表する。常に革新的なサウンドを提示し続けており、現在は岸田、佐藤、ファンファン(Tp, Key, Vo)の3人編成で活動している。