ファンタジーを創るバンド、クジラ夜の街インタビュー|メジャーデビュー直前のメンバー4人を深掘り、すき家CMソングになった“プレデビュー曲”を語る (2/2)

とにかく感謝をつづった「踊ろう命ある限り」

──今年5月に新作EPをリリースし、クジラ夜の街はいよいよメジャーデビューします。メジャーデビューが決まったとき、どんな気持ちになりましたか?

 「ヤバい!」「スゲー!」って思いました。

佐伯 強運もここまで来たかと思いましたね(笑)。

山本 メジャーを継続しなきゃいけないというプレッシャーが……。

宮崎 (笑)。僕はホッとしました。2022年の最初に「メンバー全員をプロにさせたい」という目標を自分の中で立てたんですよ。そのためにはメジャーデビューだろうと思っていたので、自分に課したミッションを達成できて安堵しています。

 プロにさせたいっていうのは、音楽で食べていけるようにってこと?

宮崎 もちろんそれもあるけど、僕にとってこの人たちはメンバーであると同時にすごく好きなプレイヤーなんですよ。ライブのMCで「スーパードラマー」「スーパーベーシスト」「スーパーギタリスト」と紹介しているあの言葉に嘘はないんですけど、尊敬しているプレイヤーがプロのミュージシャンと名乗れていない状況に対して違和感があったというか。この違和感を早く解消したかったんです。

──なるほど。メジャーデビューに先駆けて、プレデビュー曲として配信リリースされた「踊ろう命ある限り」「ハナガサクラゲ」についても聞かせてください。まず、「踊ろう命ある限り」はすき家のCMソングですが、タイアップソングを制作するのはこの曲が初めてだったんですよね。

宮崎 はい。なので、まずお話をいただけたことに対する喜びがありました。でも要項をよく見てみたら、デモ音源を5日後に提出してほしいという話だったので、「これはタイトだな、急いで作らないと」というところから始まりました。食べ物のCMソングということで、食卓や団らんといったイメージが浮かんだので楽しげな曲にしたいなと思ったのと、もともと「クジラ夜の街のパーティチューンを作ってみたい」という気持ちがあったので、その2つを掛け合わせてみようと。メンバーに聴いてもらったデモ音源ではサビしかなかったんですけど、「ミュージックと数人の友人と恋 それで事足りた世界」という歌詞はふっと降りてきました。そこから先はいつも通り、スタジオでみんなで作っていったらこうなった感じです。

──カントリーテイストで温かみのある曲ですね。

山本 弾き語りのデモを聴いたときに「カントリーっぽいな」と思ったんですけど、僕にはカントリーの素養がなかったので、インスタとかでカントリー系のギタリストの演奏動画をたくさん観て、カントリーのフレージングを覚えることから始めました。

 ドラムに関しては、カントリーの場合、同じリズムを刻み続けていることが多いんですけど、クジラ夜の街でカントリーをやるなら新しいことがしたいなと思って。カントリーのリズムのまま、手数を増やしてみたり、海外のゴスペルの曲にありそうな、いかついフレーズをぶち込んでみたりしています。

佐伯 ベースはカントリーっぽさを表現するのが難しい楽器なので、「楽しげな雰囲気の曲だからウォーキングベースを入れてみたらいいんじゃないか」とか、自分の感覚で作っていきました。

──「食卓、団らんのイメージで楽しげな雰囲気に」という話でしたが、歌詞を読むと、このバンドのことを歌っているようにも感じられます。「Golden Night」(2021年リリースのアルバム「海と歌詞入り瓶」の収録曲)を連想させる歌詞もありますし。

宮崎 そうですね。バンドもそうだし、自分の人生における友人や音楽に対する思いを赤裸々につづりました。特に2番のBメロは、これまで僕が生きてきた道のりを歌詞にしようと思って書いた部分で、理想論を語っているし、大それたことも言っているんですけど……一番伝えたかったのは、感謝ですね。この世界に生まれてこられた感謝もそうだし、こうして生きていけることに対する感謝もそう。仲のいい友達に出会えたことへの感謝、夢を描けることへの感謝、恋ができることへの感謝、音楽ができることへの感謝……とにかく「ありがとう」と思いながら書いている中で、「“ありがとう最低な日々よ”」という「Golden Night」にも出てくるフレーズをもう一度ここで出そうと思ったんです。

クジラ夜の街

クジラ夜の街

寝坊したけど、いい曲書けたんですよ!

──「踊ろう命ある限り」はクジラ夜の街のこれまでの活動を見守ってきたファンの皆さんも、熱い気持ちになれる曲だと思います。一方、「ハナガサクラゲ」はどのように作ったんですか?

宮崎 サビの「愛せど愛せど苦しくなっていくだけ」というフレーズだけ、高校時代から温めていたんですよ。昔書いたメモを遡って見ることがたまにあるんですけど、そこでパッと目に入ってきたのがこのフレーズで。「きれいな言葉だな。これは曲にしたいぞ」と思って、夜中にこのフレーズをいろいろなメロディで歌ってみたり、いろいろなコード、いろいろなテンポで弾いてみたりしました。そしたらいろいろな情景がふわっと浮かび上がってきて、その中で「アクアリウム」という言葉が出てきて。もともと「クラゲの曲を作りたいな」とずっと思っていたので、世界で一番きれいなクラゲの名前を調べてみたんですよ。そしたら「ハナガサクラゲ」という名前が出てきて……僕の場合、こうしてキーワードが3つ4つ出てくれば、もう曲にできるんですよね。

──今回の場合は「愛せど愛せど苦しくなっていくだけ」「アクアリウム」「ハナガサクラゲ」の3つが出てきたと。

宮崎 はい。星座を作るみたいな感じで言葉同士をつなげていったら、歌詞とメロディも一夜で出てきて。興奮しながら、朝の4時くらいまで曲を作っていました。僕は寝坊なんてめったにしないんですけど、その次の日だけはメンバーとのミーティングに遅刻してしまって。「寝坊したけど、いい曲書けたんですよ!」ってダメなバンドマンみたいな言い訳をしちゃいました(笑)。

 そんなこともあったね(笑)。

宮崎 そのあとセッションに入ったんですけど、当時、薫さんがクラゲみたいな髪型をしていたので、この曲は薫さんを主役にしようと決めて。なので、ギターは好きに弾いてもらいました。僕らからすると難しいフレーズなんですけど、きっと薫さんは一筆書きのような感じで自由に弾いているんですよ。

山本 そうだね。あんまり深く考えたことはなかった。

宮崎 ほかの楽器のアレンジに関しては、薫さんのギターが作ってくれたガラス細工のように繊細な世界観を絶対に壊さないように、丁寧に、慎重に、作っていこうと。僕らはいつもライブで盛り上がれるかどうかを意識して曲を作っているので、音源の仕上がりを重視して作ったのはこの曲が初めてだったかもしれません。

 この曲は難しかったなー。すごくきれいな曲だからこそ、自分はどの立ち位置を演じればいいのか、悩んじゃって。レコーディングの前日とか、部屋を真っ暗にしてこの曲聴きながらずっと「どうしよう……」と思ってましたもん。

宮崎 (笑)。ボーカルも難しかったです。いつも4テイクくらいで終わるんですけど、この曲は10テイクくらい録りました。ずっとセッションで曲作りをしてきたから、最後は「パワーこそ正義だ!」となりがちなんですよ。そういう意味では今までのクジラとはまた違った曲で、ライブでもすでにやっているんですけど、表現するのが難しい曲です。

万人に刺さる音楽が一番いいに決まってる

──5月にリリースされるメジャーデビューEPは現在制作中なんですよね。どんな作品になりそうですか?

一同 うーん……。

宮崎 正直、メジャーデビュー作だってあんまり意識してないよね?

山本 確かに。

 いつも通り「すごい曲作ろう」って感じだった。

宮崎 これまでと同じように、1曲1曲真摯に取り組んだし、セッションの中で自然とできあがった曲ばかりなんですよ。今「どんな作品になりそうですか?」という質問に対して言葉が浮かばなかったのは、変に考えすぎずに制作できたという証だから、それがまたクジラ夜の街らしいというか。僕らにとってはいいことなんじゃないかと思ってます。

佐伯 そうだね。

宮崎 だからひと言で言うなら「超天然なEP」なのかな? ライブでやっている曲ばかりですしね。

クジラ夜の街

クジラ夜の街

──最後に、今後の活動で実現させたいことを教えてください。

佐伯 僕らは「ファンタジーを創るバンド」なので、いつかデカいステージで、世界観もりもりの、豪華なセットでライブをしたいですね。

宮崎 クジラを吊り下げたり?

佐伯 いいね。この前SEKAI NO OWARIの東京ドームのライブ映像を観て、「こういうセットでやりたいな」と思ったんですよ。

山本 僕は映画のサウンドトラックを作りたいです。

 僕は「逃走中」(フジテレビのゲームバラエティ番組)に出演したいです。

宮崎 バンドと関係ないじゃん(笑)。

 僕、人を笑わせたり楽しませたりするのが好きなんですよ。それはドラムもそうだし、それ以外のことも一緒。エンタテイナーじゃなくて、僕自身がエンタテインメントになりたいなという夢があるんです。

宮崎 だから「逃走中」に出たいと?

 そう。「逃走中」に出たら絶対に面白いムーブができる自信があるので、ぜひ出演させてください!(笑)

──宮崎さんはいかがですか?

宮崎 今の質問を受けていろいろ考えてみたんですけど、どれも小手先の答えという感じでパッとしなくて。結局僕は、全人類に「クジラ夜の街って最高だよね」と言わせたいんだと思います。“万人受け”という言葉って悪い意味で使われがちで、たった1人に刺さる音楽が崇められるような傾向があると思うんです。でも僕としては「何それ、意味わからない」という感じで。万人に刺さる音楽が一番いいに決まっているんですよ。なので一番実現させたいことは、世界一カッコいいバンドになることですね。

──どうやったら実現できると思いますか?

宮崎 「そのために何かをする」という感じではないんですよね。クジラ夜の街があり続ける限り、いつか到達できるんじゃないかなと僕は思っています。

クジラ夜の街

クジラ夜の街

プロフィール

クジラ夜の街(クジラヨルノマチ)

同じ高校の同期生だった宮崎一晴(Vo, G)、山本薫(G)、佐伯隼也(B)、秦愛翔(Dr)の4人によって2017年6月に結成されたバンド。音楽コンテスト「Tokyo Music Rise 2019 Spring」や高校軽音楽部の全国大会で優勝した実力を持つ。その後もロッキング・オン主催「RO JACK」オーディションで優勝し「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」に出演。直後に「出れんの!?サマソニ!? 2019」オーディションを勝ち抜き「SUMMER SONIC 2019」にも出演するなど、耳の早い音楽ファンの間で話題となる。近年は「ファンタジーを創るバンド」をキャッチコピーに掲げ、絵本や童話のような世界観を追求した楽曲やライブ演出を打ち出している。2023年5月にメジャーデビューEPをリリースすることが決定しており、2022年12月に“プレデビュー曲”第1弾「踊ろう命ある限り」、2023年3月に“プレデビュー曲”第2弾「ハナガサクラゲ」を配信した。