「プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章」特集 第2回 音楽家インタビュー Void_Chords(高橋諒)、Konnie Aoki、関根陽一|アニソンの枠にとらわれない「プリプリ」音楽の真髄

さらなる狂気をはらんだ「Nowhere Land」

──一方、劇場版のエンディングテーマとなるのはチーム白鳩が歌う「Nowhere Land」です。

関根 先ほども言いましたが、テレビシリーズのときにはほっこりさせるつもりがさらなる狂気を呼ぶという結果になったので(笑)、「だったら劇場版では最初から狂気を狙って作ろうよ」みたいなところでスタートしたんですよね。前回の「A Page of My Story」はThe Beatlesの「Ob-La-Di, Ob-La-Da」のイメージだったから、今回は一見ほっこりしてるけど北欧の森の暗さを感じさせる「ノルウェーの森」でいこうかっていう。

劇場アニメ「プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章」より。

高橋 湿度が高い感じですよね。The Beatlesは好きなので、イメージはすでにありました。希望は多少あるけど、でも全体的にはすごく内省的な感じというか。ボーカルの掛け合いの部分も、終着点が見えづらいようなあいまいなメロディを絡ませたりしてみました。アレンジに関しては、「これはもうメロトロンだろう」みたいな(笑)。

関根 そうそう。メロトロンは絶対使いたいよねって話はしましたね(笑)。

──この曲は歌詞で救いが見える感じですよね。

Konnie まさしくそうですね。絆が芽生えた5人だからこそたどり着けた、この5人にしかたどり着けない特別な場所っていう意味を込めて「Nowhere Land」っていうタイトルにしました。「私たちこんなところまで来られたんだね」みたいな希望を感じてもらえたらいいなと。ちなみにこのタイトル、個人的にThe Beatlesの「Nowhere Man」に引っかけたところもありました(笑)。

キャラ感と英語発音のバランス

──「Nowhere Land」のレコーディングはいかがでしたか?

Konnie テレビシリーズのときよりも、めちゃめちゃ上手になってました。一度戦いを経験し、成長してまた戻ってきた戦士のような(笑)。「英語曲? 私大丈夫です!」みたいな余裕すら感じましたよ。

関根 余裕は感じましたね。テレビシリーズのエンディングテーマを歌ったあと、それぞれのキャラソンもあったんでね、「プリプリ」における歌の表現に慣れてくれたところがあったんだと思いますよ。キャラのまま英語をしっかり歌えていましたから。

Konnie 確かに前は英語を意識しすぎると、キャラ感が少し薄れてしまう瞬間がありましたよね。でも今回は英語の発音とキャラとしての声をちゃんと両立できていて。

関根 例えば、ちせ(CV:古木のぞみ)は日本人で英語がおぼつかない設定なんだけど、ちゃんとそういう歌になっていましたしね。微妙にカタカナ感のある発音っていう。それがすごいなって思った。

──アンジェ役の古賀葵さんは劇場版からの参加になるので、「プリプリ」楽曲を歌うのは初だったわけですよね。そこはまた一からディレクションした感じですか?

劇場アニメ「プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章」より。

Konnie そうですね。最初に歌ってもらったときに、地声が出すぎて少し違和感がある瞬間があったんですよ。なので、アンジェがよく言う「私は黒トカゲ星から来たの……」みたいなセリフを1回言ってもらってから歌ってもらったんですよね。そうしたら、ちゃんとアンジェの歌になったんです。全体の歌のニュアンスの方向性を決める段階でもちょっと時間はかかりましたけど、でも雰囲気をつかんでからはスムーズに進みましたね。古賀さん的にも全部英語の曲を歌うのは初めてだったらしいのですが、適応力に驚きました。

高橋 今回も声優の方々の歌は素晴らしいのひと言でした。テレビシリーズからの雰囲気も大事にしつつ、しっかりスキルアップされていたので。同時に、新たな魅力も今回の曲では見えているような気がしていて。テレビシリーズのときは5人が1つの塊になって歌っている印象があったけど、今回はわりと各キャラクターの声がしっかり立っているんですよね。そういった違いに注目して聴いてもらうのもいいと思います。

関根 そうですね。「A Page of My Story」からキャラソンを経て、今回の劇場版に至る流れを感じながら聴いてもらうと面白いんじゃないかな。

大いなる挑戦

──では最後に。その世界観を音楽で彩る皆さんにとって、「プリンセス・プリンシパル」とはどんな作品ですか?

関根 自分たちが聴いてきた音楽知識を思う存分詰め込ませてもらえて、やりたいことをやらせてもらえる貴重な場であり、同時にものすごく大きなプレッシャーを与えられる場でもありますね(笑)。自分の中にある引き出しをフルに活用することで、設けられた高いハードルをどう乗り越えてやろうかという挑戦ができることが純粋に楽しいです。その結果として生み出されたものを聴いてくださった方々が、「『プリプリ』の音楽って新しいよね」という感想を抱いてくれたら、僕らにとってそれほどうれしいことはないですね。

Konnie 「プリプリ」は本当にいい作品なんで、事あるごとに何回も観返してるんですけど、その度に新たな発見があるんですよ。そういう意味ではこの先、何十年経っても飽きることなく楽しめる作品でもあると思うんです。僕らがThe Beatlesの「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」やPink Floydの曲を何十年経っても愛し続けられているように。そんな作品にはそうそう出会えるものではないんですけど、「プリプリ」には自分自身が関わらせていただけているというミラクルもありますしね。そういったことへ感謝をしつつ、同時に今回の劇場版をきっかけにもっとたくさんの人たちに「プリプリ」が届いてくれたらいいなと思います。

劇場アニメ「プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章」より。

高橋 作品に対する思いはほぼお二人に言っていただいた通りなんですが、個人的なことで言えば、Void_Chordsというプロジェクトを始めるきっかけでもあり、「プリプリ」の曲が1stシングルになったという意味ですごく特別な作品ではありますね。原作のないオリジナルアニメということは、ある意味、自分の音楽が全体の世界観に大きな影響を与える可能性があるわけで。それを任せていただいたことは自分にとって大きな挑戦にもなったので、本当にうれしかったです。

──「プリプリ」の世界は今回の劇場版をきっかけに、まだまだ広がっていくわけですよね。

関根 そうですね。僕としてはもっといろいろな音楽展開を作っていきたいなとは思っているんですよ。曲が増えていけば、またライブもできるでしょうし。いろんなことをやっても、それをしっかり全部受け止めてくれる懐の深さが「プリプリ」にはありますね。「プリプリ」を通して、「あ、音楽って楽しいな」って思ってもらえるようなことを今後もやっていきたいと思ってます。その際はまたご一緒していただけますか?

高橋 ぜひ!

Konnie 御意!


2021年2月4日更新