劇場アニメ「プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章」が4月10日に全国公開される。
2017年にテレビシリーズが放送された「プリンセス・プリンシパル」は、19世紀末、東西に分断されたアルビオン王国の首都・ロンドンを舞台にしたオリジナルスパイアクションアニメ。高橋諒のソロプロジェクト・Void_Chordsによる全編英語詞のオープニングテーマ「The Other Side of the Wall」は、一般的な“アニソン”のイメージからはかけ離れた、ジャジーなサウンドアプローチにより、大きな話題を集めた。また、同じくVoid_Chordsが手がけ、メインキャストの今村彩夏、関根明良、大地葉、影山灯、古木のぞみが歌唱するエンディングテーマ「A Page of My Story」ではまったく異なる世界観を描き出し、音楽的なクオリティの高さをアニメファンにアピールしてみせた。
新たに全6章の劇場版が制作されることが決定した「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」。本作でも音楽へのこだわりは変わることがなく、テレビシリーズ同様にVoid_Chordsが書き下ろしたオープニングテーマ「LIES & TIES」とエンディングテーマ「Nowhere Land」がストーリーにしっかりと寄り添いながら鮮やかな音を鳴らしている。
音楽ナタリーでは、テレビシリーズからオープニング、エンディングテーマの作編曲を手がけてきた高橋諒(Void_Chords)、作詞および歌唱ディレクションを担当したKonnie Aoki、そしてバンダイナムコアーツ音楽プロデューサーである関根陽一へのインタビューを企画。多くのファンを惹き付ける「プリンセス・プリンシパル」の音楽、その裏にあるこだわりを紐解いていく。
※9/24追記:本作の公開は2021年2月11日に延期となりました。
取材・文 / もりひでゆき
高橋さんから上がってきたデモに衝撃
──アニメ「プリンセス・プリンシパル」の音楽性の高さは、2017年に放送されたテレビシリーズで決定付けられたものだと思います。まずは、オープニングテーマ「The Other Side of the Wall」とエンディングテーマ「A Page of My Story」がどんな流れで生まれたのかを聞かせてください。
関根陽一 まずは、“スチームパンク”や“スパイ”というキーワードを持ったオリジナルのアニメ作品である「プリプリ」にマッチするのはどんな音楽なんだろうという模索から始まった感じでしたね。“スチームパンク”という音楽ジャンルはないので、例えばクラシカルなメタルロックでもジャジーなものでも、わりとどんなサウンドでもハマっちゃうところがあって。一方の“スパイ”という部分を考えても、ジェームズ・ボンド(「007」シリーズ)のようにジャジーな雰囲気も合うけど、「ミッション:インポッシブル」のようにドラムンベースもハマる。だったらアニメの舞台であるロンドンを取っかかりにして、ブリティッシュなサウンドを要素として入れていったらどうだろう……みたいな感じで、非常に手探りで試行錯誤しながら作っていった感じではありました。結果、そこで生まれた楽曲が“プリプリの音楽”という1つのブランドとして認知されたことはすごくうれしかったです。
高橋諒(Void_Chords) 関根さんがおっしゃったように手探りで作っていった感じではあったけど、僕の自由なアイデアを柔軟に受け入れてもらえていただける現場でもあったからすごく作りやすかったし、楽しかったんですよね。作曲家、編曲家としてアーティストへの提供曲とはまた違った、一歩踏み込んだアプローチを自分自身のアーティスト名義でできる喜びもあったし、アニメ自体の質がものすごく高かったから安心して乗っかっていけるところもよかったなっていう。
──アニソンという固定概念にとらわれない音楽であることが1つのテーマになっていたそうですね。
高橋 そうそう。いろんなところで話してますけど、最初はオープニングテーマなのに「インストでもいいよ」というところからのスタートだったので。
関根 もちろん映像ありきで、そこにハマるような音楽という意味では、完全にアニソンの方程式を無視したわけではないですけどね。比較的、自由度の高い制作でした。ただ、アニメサイドのプロデューサーからの期待がものすごく大きかったから、プレッシャーはかなりありましたよ。「この作品はオープニング映像でまず勝負するんだ!」という方針でしたから(笑)。
Konnie Aoki 最初の楽曲打ち合わせから僕も参加させてもらったんですけど、そこではThe Chemical BrothersやThe Prodigyのようなビートに、スパイをイメージしたジャジーなテイストを合わせようという流れになっていて。どんな曲になるんだろうと思ってたから、後日、高橋さんからめっちゃすごいのが上がってきて。「なんだこれ!?」みたいな。そこで非常に大きな衝撃を受けつつ、同時に「あ、これは歌詞でもがんばんないとな」って僕もかなり熱くなったのを覚えてます。
これはすごい曲になるぞという予感
──歌詞はオープニング、エンディングテーマ共にすべて英語詞になっていますよね。
Konnie 「プリプリ」は独特な世界観を持った作品だし、僕自身が英語で歌詞を書くのが得意だったりもするので、「これは英語詞もアリだね」という流れになったんですよ。あと、高橋さんが作ってきてくれるデモの仮歌が言葉の響きを非常に大事にしたもので。でたらめ英語みたいな感じなんですけど、イメージがバッと広がるから、それを生かすには英語のほうがしっくりくるというのもあったんですよね。
関根 高橋さんの仮歌はめちゃくちゃカッコいいですからね。そのよさを日本語にすることで壊しちゃうのはもったいないなっていう。
高橋 意味はまったくないんですけどね(笑)。ただ、「ここのメロディには丸い感じの言葉」、「ここはとがった感じの言葉がハマる」みたいなイメージがしっかり伝わるようには歌っていて。で、Konnieさんはそんな僕のイメージをそのまま生かして、意味のある歌詞にしてくれるんですよ。そんな人には出会ったことがなかったから、これは本当にすごいぞ、と思って。
Konnie 毎回悶絶しながら書いてますけどね(笑)。アニメの脚本を読み込み、何度も曲を聴き、また脚本を読んでいくことで、例えば高橋さんの仮歌に出てくる“シャー”というフレーズが「あ、ここは“Shine”だな」みたいな感じで見えてくるんですよ。そうやっていくつもの点を作り、最終的にそれらをスーッとつないで線にしていくっていう。
──そういう作詞のアプローチだと、やっぱり英語のほうがマッチするのかもしれませんね。
Konnie そうなんですよね。しかも高橋さんの作る曲はアニソンという枠にも全然ハマらないし、純粋なJ-POPでもなければ、かといって洋楽でもない。いろんな音楽ジャンルを超えた“何か”みたいな感じじゃないですか。
関根 あははは(笑)。確かにそうですよね。
高橋 “何か”ですね(笑)。
Konnie そうなるとやっぱり地球上でもっとも使われている言語である英語で歌うのがいいんじゃないかってことになるんですよね。
関根 高橋さんの楽曲に対する英語のハマりのよさがより顕著に出たのがテレビシリーズのエンディングテーマでもあって。あれはキャラソンであり、声優さんが歌うから、最初は日本語のほうがいいんじゃないかっていう話もあったんですよ。でも、高橋さんの仮歌を聴いたアニメの監督やプロデューサーが「これは英語だろう」と。ただね、僕としては非常にドキドキしたんです。果たして声優さんが英語で歌ってくれるのだろうか、そしてそれが世間に受け入れられるのだろうかと思いがあったから。でも結果的にはばっちりハマったし、いい形で視聴者の方々に受け入れていただけた実感はあって。
高橋 声優の皆さんもすごくがんばってくださいましたよね。
Konnie けっこう英語を詰め込んだ歌詞にしちゃったので、めっちゃカタカナ英語感のある歌になったらどうしようって怖さもあったんですよ。でも実際は皆さんしっかり練習してきてくれたし、何かディレクションすればすぐに適応してくれるんです。声優さんはやっぱり耳がいいんだなってすごく思いましたね。5人全員の歌を録り終えたときに、これはすごい曲になるぞって確信して、関根さんと握手した記憶があります(笑)。
関根 スタジオで握手しましたね(笑)。で、このエンディングテーマには予想外だったこともあって。当初はね、アニメ本編がけっこう重たい内容だから、最後はちょっとほっこりしてもらう狙いを持って作ったんだけど、実際は本編の内容とエンディングの明るさのコントラストによって、より狂気を感じさせることになってしまって(笑)。
高橋 僕も実際の放送を観たときに感じましたね。「えー? ああ……」って切なくなってくるというか(笑)。
Konnie “チーム白鳩の5人がスパイではなく普通の少女だったら”というテーマでほっこりした歌詞を書いたんですけど、まさか本編との相乗効果でここまでクレイジーさを感じさせるとはっていうね(笑)。そこでも「『プリプリ』すげえな!」って感じましたけど。
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“ヒューマンウェーブ”を感じるサウンド
2021年2月4日更新