Port of Notes|過去の楽曲と向き合うことで再確認した“変わらないもの”

Port of Notesがニューアルバム「TWO」を7月7日にリリースした。

畠山美由紀(Vo)と小島大介(G)によって1996年に結成されたPort of Notes。ソウル、ジャズ、AOR、ボサノバなど、さまざまな音楽の要素を取り入れた彼ら独自のサウンドは耳の肥えた音楽ファンの間で人気を集めた。12年ぶりのアルバムとなる本作で、2人は「(You are) More Than Paradise」「ほんの少し」「Complaining Too Much」といった過去の代表曲をセルフカバー。歌と演奏はもちろん、録音やミックスまでも2人のみで行ったという本作について、畠山と小島それぞれの自宅をZoomでつなぎインタビューを行った。

取材・文 / 望月哲

「本当に2人だけで大丈夫?」

──Port of Notesでのアルバムリリースは12年ぶりになります。

畠山美由紀(Vo) 怠け者ですねー(笑)。

小島大介(G) ホントだよね(笑)。

──アルバムの話っていつぐらいから出てたんですか?

畠山 2017年に今の事務所に移籍して、それくらいの頃からアルバムを作りたいねという話はしていたんです。最初はオリジナルアルバムを制作する予定だったんですけど、コロナ禍になって、レコーディングがいろいろ難しくなってしまって。それこそスタジオに複数のミュージシャンで入るのは密なんじゃないかとか。そこから紆余曲折を経て、2人だけでアルバムを作ろうという話になったんです。

畠山美由紀(Vo)

小島 ライブのやり方を含めて模索している時期ではあったから、2人だけで作るのも面白いんじゃないかって。

──セルフカバーというアイデアはどういったところから?

小島 事務所の社長からのアイデアですね。「2人だけで、自分たちの楽曲に向き合ってみるのはどうですか?」って。俺自身よくわからなくなっていたんですよね、自分たちの立ち位置みたいなものが。

──立ち位置というと。

小島 キャリアを重ねていく中で、お客さんもどんどん変わっていって、そういう中で自分たちの音楽っていったいどういうものなんだろうって。それをもう1回見つめ直したいなと思ったんです。

──ある種の原点回帰というか。

小島 そうですね。

畠山 私と大ちゃんの中では、アルバムを作るにあたって原点回帰的な発想がなかったから、そういうヒントを周りからもらえたのは、すごくよかったです。ただ最初は、「2人だけで演奏した曲を聴いても、つまらないんじゃないかな?」みたいな気持ちもあったんですよ(笑)。

小島 うんうん、あったよね。

畠山 今までの作品では、ほかのアーティストのエッセンスが入っているのが当たり前だったし、ここ数年はライブでもサポートギタリストとして小池龍平くんに入ってもらっていたから。「本当に2人だけで大丈夫?」って。

小島 特に今回のレコーディングは、あまりにも2人すぎたから(笑)。

──演奏はもちろん、録音やミックスも2人で行われたんですよね。

小島 そうなんです。スタッフも立ち会わず、完全に2人で。

リアルを切り取る

──選曲はどんな感じで進めていったんですか?

小島 2人で話し合って。結局、初期の曲ばかりになりましたね(笑)。12曲中、11曲が初期の曲で。最近の曲は「水桃蜜」だけですね。

畠山 基本的には歌とギターだけで成り立つ曲、というのがあったかな。あとはベスト盤というか、ファンの皆さんがよく知ってくださっている曲を入れたいなと思って。

小島 あんまりハジけた感じの曲は入ってないですね。明るい方向に行こうとするような感じではなかったよね?

畠山 うん、そういう意識はなかったかも。

──それは、ごく自然に?

小島 自分たちの温度感的にこういう選曲になりましたね。やはり今の時代のモードというか。それがなければ、もう少し満遍なく幅広い選曲になったかもしれないですけど。

──再演するにあたって、オリジナルの音源を聴き直したと思うんですが、今改めて聴いてみて、いかがでしたか?

畠山 自分たちで言うのも変ですけど、楽曲自体に変わらないみずみずしさがあるなと思いました。当時感じた震えみたいなものが同じように感じられて。やっぱり曲として好きだなって。

小島 僕らの歌とギターに、バンドや打ち込みのサウンドが重なって、その混ざり具合が改めて独特だったんだなと思いました。活動初期に所属していたCrue-L Recordsの瀧見憲司さんや、中島ノブユキさんをはじめとする参加ミュージシャンとか、いろんな人のフレイバーが混じり合っていたんだなって。

畠山 曲を聴いてる間に、当時の記憶がよみがえったり。本当にいろんなことがあったなって。そういうときに感じた思いや衝動みたいなものがPort of Notesの曲には込められてるんだなと思いました。

小島 美由紀ちゃんには激情的な部分があって、彼女と一緒に演奏していると一瞬にして、すごいところにトリップさせられることがあるんですよ。その瞬間をいかにして音として記録していくか。それは、ずっと心がけていました。リアルを切り取るっていうか。

ビリー・アイリッシュからの影響

──今回アルバムを作るにあたって、何かインスピレーションを受けたものはありますか?

小島 ビリー・アイリッシュとか?

畠山 そうね。ラジオで彼女の曲が流れているのを偶然聴いて「なんだ、これ!」って(笑)。ボーカルの独特な質感とか、どうやって録音してるんだろうって気になって、YouTubeを観たりして、いろいろ調べました。「こういう機材を組み合わせて、こういう部屋で録ってるんだ」とか。それで大ちゃんにお願いして、同じようなセッティングでレコーディングしたり。ビリー・アイリッシュは、すごーく小さな声で歌ってるんですよね。ニュアンスの捉え方とか、すごくタメになった。

小島 最初はそういうところから入ったね。

畠山 あと優河ちゃんっていうシンガーソングライターがいるんですけど、私、彼女の歌声が大好きで。どうやったら、こんなふうに歌えるんだろうって、自分なりに研究して。最近は年下のシンガーたちへの憧れが強まっていますね(笑)。

歌の一本釣り

──現在、畠山さんは神奈川の鎌倉、小島さんは静岡の伊東にお住まいということですが、レコーディングは、それぞれのご自宅で進めていったんですよね。

Port of Notes

小島 僕は相模湾沿いをドライブして美由紀ちゃんの家まで歌を録りに行ってました。

畠山 私は家で犬たちと一緒に大ちゃんを待って。

小島 そうだったね(笑)。

畠山 レコーディングの時間はすごく短いんですよ。12時半に大ちゃんの家に着いたとして、13時くらいにレコーディングをスタートして、15時半とか16時にはもう帰り支度を始めてたから(笑)。

小島 まあ、でもそんなに長くやってもね。そこも含めて集中力で。

畠山 歌の一本釣りみたいな感じでね(笑)。

小島 そうそう、まさに。本当にフィッシングみたいですよ。釣り竿を持つような感覚で、機材を持って歌を録りに行って。ただ、なかなか釣れない日もあるんですよね。

──そういう場合はどうするんですか?

小島 もちろん諦めた日もあったとは思うんですが、大きな魚を釣る前提で何回か歌を録っていくうちに、「これは」というテイクが必ずあるんです。その日のベストと思えるものが。それでもう十分っていうか。

──スタジオと自宅とでは、歌や演奏に向かうテンションも当然のことながら全然違いますよね。

畠山 そうですね。よくも悪くも。

小島 今回はそこも含めて録音したかったんですよ。自分の中では、平常心でその日のリアルが録れたらいいかなと思っていたので。美由紀ちゃんの家に行って、そのときに起こったことを日々記録していくっていう。

畠山 今回は2人きりだったんで、OKテイクのジャッジメントも難しくて。私は自分の歌に関しては、細かく考えちゃうんですよ。

小島 でも俺が細かく考えてるところで、美由紀ちゃんはけっこう大胆だったりするから(笑)。

──そういう意味でもバランスが取れているのかもしれませんね。

畠山 結局そういうことなんですよね(笑)。あと歌入れに関していうと、16時くらいになると犬たちが「散歩に連れて行け!」って騒ぎだすんですよ。

小島 「もう、十分録れてるでしょ?」って(笑)。

畠山 それまでずっと静かにしてるのに。

小島 で、「確かに、もう散歩の時間だ!」ってレコーディングを切り上げるっていう(笑)。