Port of Notes|過去の楽曲と向き合うことで再確認した“変わらないもの”

聴き手を緊張させないような作品

──小島さんは理想の制作環境を実現するために東京から伊東に引っ越されたんですよね?

小島 そうです。ずっと自然のあふれる環境で制作をしたいという気持ちがあって。今は山の中腹くらいにある一軒家で暮らしています。引っ越して5年半くらいになるのかな。いろいろ試行錯誤しながら制作してます。

畠山 あのへんって別荘地なんでしょ?

小島 そう。

──ちなみにさっきからずっと聞こえてる鳥の鳴き声って……。

小島 近所で鳴いてる山鳥の鳴き声ですね。このへんはウグイスが多いんですよ。今回、曲によっては鳥の鳴き声も入ってるんじゃないかな(笑)。

──そうなんですか(笑)。

小島 歌やギターの音で埋もれてわからなくなってるけど。「(You are) More Than Paradise」の前奏部分では明らかにピヨピヨいってたんで、そこはカットしました(笑)。でも、今回はそういう空気感も含めてレコーディングしたかったんで。あえてユルいものを作りたかったというか、聴き手を緊張させないような作品がいいなと思ったんです。

畠山 聴きながら子供が寝ちゃうような、耳と心に優しい作品というか。私の中にも今はそういう音楽を聴きたいっていう気持ちがありましたね。そういえば先日、自分のラジオ番組でアルバムの曲をかけたんですけど、ほかのアーティストさんの曲とあまりにも音の質感が違っていて、びっくりしました。すごくソフトな音で……悪く言えば地味(笑)。

小島 ははは。そうだね。

畠山 ラジオとかって、リスナーの心を一瞬でつかむようなパワーのある曲が目立ちがちじゃないですか。このアルバムの曲には、それがないというか(笑)。一瞬「ん?」って思うんだけど、でも聴いてるうちに、すごく気持ちよくなってくるんですよね。そういう意味では入り込むまでに、ちょっと時間がかかるのかも。

小島 この地味さに慣れるまでは、ちょっと時間がかかるかもしれないね(笑)。

──確かに派手さはないですけど、そのぶん何度も繰り返して聴けるような耳なじみのいいサウンドに仕上げられていますよね。温かみのあるオーガニックな音像で、世の中にあふれるインパクト重視のサウンドとは明らかに一線を画しているなと思います。

畠山 よかったー。

小島 そう言ってもらえると、うれしいです。自分でも、繰り返し聴いてもらえるような作品にしたかったから。コロナ禍だからってことだけじゃないですけど、フレッシュでありながら優しい耳触りの音楽を自分自身、欲しているところがあったんですよね。今回作業をしながら、それを自分で味わえるのが最高で(笑)。そこから外れないような音作りを心がけました。

“コードの森”でのやりとり

──今回のアルバムを聴いて、Port of Notesの楽曲には時代を超えて聴き手の心を捉えるようなタイムレスな魅力があるなと改めて感じました。

畠山小島 ありがとうございます。

──以前インタビューで小島さんが「トレンドに寄せて音楽を作ることは否定しないけど、自分たちはそういうものとは違う音楽を作ろうと思って戦い続けてきた」とおっしゃっていたのが、すごく印象に残っていて。そういう強い思いが込められているからこそ、楽曲の普遍性が保たれているのかなとも思ったんです。

小島 トレンドとかに乗ってしまえば、もう少し楽に曲を作れるのかもしれないんですけど。適当に、勢いだけでパッと作れないというか。ある意味、正直な作り方をしちゃってるから、どうしても時間がかかるんですよね。

畠山 腑に落ちるまでね。

小島 そう。腑に落ちるまでってなると、すごく時間がかかる。1曲1曲に、その時々の偽りのない感情が宿っているので、そういう意味で、楽曲に普遍性のようなものが生まれているとしたら、自分でも理想的だなと思います。

畠山 でも私の中では、大ちゃんが弾くギターの音色が楽曲の普遍性のようなものにつながっていると思うんですよね。

──畠山さんは常々、小島さんが奏でるギターの和音にインスピレーションを受けるとおっしゃっていますよね。

畠山 私は“コードの森”と呼んでるんですけど(笑)。“コードの森”に身を置くと、自分が歌の中で思い描く風景が、いつでも鮮明に浮かび上がってくるんですよね。切ない思い出とか、ときめいた瞬間とか、そういう記憶がブリリアントに再生されて。大ちゃんが弾く和音にはタイムマシン的な不思議な力があるんです。

小島 僕はリフが好きなので、リフと美由紀ちゃんの歌声から曲のイメージを膨らませることが多いんです。“コードの森”の話に例えると、彼女の歌声が入ってきた瞬間、木々の色合いがはっきりして、ぼんやりとしか見えていなかった風景が一気にクリアになるんですよね。それに湿度みたいなものも感じられるようになるというか。どこか同じ景色を共有できているような感覚があるんですよね。

畠山 そういう意味では、私もすごく安心感があって。曲作りのときに、自分の中から出てきたメロディを人前で初めて歌うときって、すごく不安なんですよ。でも、大ちゃんだったら受け入れてくれるんじゃないかなっていう気持ちがどこかにあって。それで自信を持って、自分なりの道筋でメロディを形にしていくことができるんです。

基本的な部分は変わっていない

──今作で、お二人それぞれお気に入りのテイクを挙げるとすると?

小島大介(G)

小島 1曲に絞るのは難しいんですけど、俺は「夏風の行きつく果て」ですかね。マスタリングエンジニアが、自分が想像していたよりも音圧をかけていて、最初は派手に聞こえたんだけど、結果として美由紀ちゃんの歌詞の世界観も含めて、楽曲の持つ凛とした佇まいが際立って。あれはすごいなと思いました。あと、地元のコミュニティラジオに出たとき、パーソナリティの人が「『水蜜桃』が好きです」と言ってくれて。あの曲は今回のアルバムの中で唯一最近の曲なんですよね。一発録りなんですけど、確かにみずみずしく録れているなと思いました。

──畠山さんは?

畠山 うーん……聴くたびにお気に入りが変わっちゃうんですけど、今の気分でいえば「Duet With Birds」かな。

小島 確かに、あのテイクには独特な空気感があるね。

畠山 あとは「Hope and Falsity」もいいなって思う。

小島 うん、いいよね……って、こうやって話してると結局、全部いいよねってなっちゃう(笑)。でも、できあがった作品を自分たちで聴いても、ネガティブなことを感じなかったんで、すごくいいものができたなと思います。

畠山 本当にそうだよね。オリジナル版のテイクを録音したときは、自分の歌もまだまだ未熟だったので今聴くと、曲によっては「もっとできたかな」と感じることもあったんです。でも今回のレコーディングで、じっくり楽曲に向き合って改めて歌入れできたから、ずっと喉に引っかかっていた魚の小骨が取れたような感覚があって(笑)。自分自身すごく満足感がありますね。

──今このタイミングで過去の楽曲と向き合って、改めて気付かされたことはありますか?

小島 変わらないなーっていう(笑)。もちろん当時の音源には若さゆえの勢いみたいなものはありますけど、基本的な部分では全然変わっていないんだなと思いました。

畠山 今後2人で作っていく新曲に対して、新たな脚力みたいなものが生まれた気がしますね。次の一歩に走り出していくぞっていう(笑)。すごく独特な曲を作ることができるということを再認識したので、そこに向かう体力を養って次に向かっていきたいです。

小島 あと2人だけで作品を作ったことで、周りのスタッフやアーティストたちからの影響がいかに大きかったかということにも改めて気付くことができて。新たな出会いも含めて、いろんな人たちから音楽的なインフルエンスを受けて、さらにミュージシャンとして成長していきたいなという気持ちにもなりましたね。

ライブ情報

Port of Notes 「TWO」 Release One Man Live
  • 2021年7月30日(金) 神奈川県 Billboard Live YOKOHAMA [1部]OPEN 14:30 / START 15:30 [2部]OPEN 17:30 / START 18:30