作詞をするときに自分らしいものを書かないといけない
──サウンドに負けない、力強いボーカルが響いていますが、パートによっては表情がガラッと変わるところもあって。その緩急が詞世界をより鮮明に届けてくれていますよね。
岡野 仮歌の時点ではすごく強い、言ったらがなるような歌を入れていたんですけど、晴一が書いてきた歌詞と自分の思いをすり合わせていく中で、そのまま強さを残す部分と、情景が変わるように声のチャンネルを変えるところが生まれていった感じでした。曲の構成的にもほぼワンループというか、大サビがちょっと変わっているくらいなので、ボーカル面で起伏を作っていくべきだという判断もありましたしね。
──「たとえわずかな一歩でも 進むことだと / 光の国では言うだろう / それさえできない夜はここにおいで」と歌われる大サビは感動的ですよね。聴き手に対してこういう寄り添い方をする曲を僕は聴いたことがなかったです。
新藤 今ふと思い出したんですけど、作詞をするときに自分らしいものを書かないといけないなっていう思いが強くあったんですよ。それは25周年のタイミングに出すということに起因しているかもしれないけど、自分の色は強く意識したかな。大サビはまさにそれがすごく出ているところだと思う。僕は昔から理由もなく背中を押してくる曲があまり好きじゃないので(笑)。
──あははは。晴一さん、ギターのプレイに関してはどうですか? アウトロのギターなんかは聴いていてめちゃくちゃ気持ちいいですけど。
新藤 アレンジャーのtasukuくんはギタリストなんでね、こういう曲のアレンジではカッコいいフレーズをいっぱい盛り込んでくれるんですよ。フレーズに関してはもう信頼してお任せしてます。
──ライブでは演奏する気持ちよさをたっぷり感じられていますか?
新藤 そうですね。今回のツアーでは新曲としてやっているけど、またいつかのツアーではきっと演出も含めて見せられる曲になると思うし。ライブのいいところに置けそうな楽曲、アレンジだと思うので、それも今からすごく楽しみです。
──昭仁さんはライブで歌ってみていかがですか?
岡野 また歌うのがしんどい曲を作っちゃったなっていうのはありますけどね(笑)。レコード芸術というか、音源においてはしっかり表現できるんですけど、それがライブとなるとね、歌うのはすごく大変。でも現状、9本ライブを終えてみて、皆さんにちゃんと喜んでいただけていることを感じられているので、それはよかったなと安心してます。
僕らより下の世代にも伝えられた「アビが鳴く」
──シングルの2曲目には、昨年5月に配信リリースされた「アビが鳴く」が収録されています。この曲は昨年開催された広島サミットの応援ソングとして作られたものでしたね。
新藤 広島サミットをきっかけに、戦争や平和についての曲を書くというのはすごいプレッシャーだったし、実際、うまく書き切れたかどうかはまだわからないですね。歌詞を書くのが本当に難しかった。そういうテーマっていうのは、ズームアップしすぎてしまうとポップソングとして扱えるものではなくなってしまうし、かと言ってズームアウトしすぎると意味が伝わらなくなってしまいますから。
──僕はこの曲を始めて聴いたとき、晴一さんらしい筆致を感じつつも、かなり踏み込んで描かれている印象を受けたんですよね。そこがすごくよかったんです。
新藤 そうですね、うん。それがよかったのか悪かったのか、自分としてはまだわかってないんですけど。この曲ではね、自分らしい歌詞について深く考える余裕もなかったかもしれない。
──こういった楽曲をボーカリストとしてどう表現していくかもまた難しい部分がありそうですよね。昭仁さんはいかがでしたか?
岡野 そうですね。戦争や平和をどう受け止め、どう歌として表現していくかはやっぱりすごく難しいことでした。ただね、去年の8月6日に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」でこの「アビが鳴く」を歌うことができて。
──ちょうど広島平和記念日だったんですよね。
岡野 そう。会場にいたのはきっと僕らよりも下の世代が主だったと思うんですよ。そこでシンプルに平和への願いを込めて歌ったんですけど、それがすごく明確に伝わっている実感があったんです。僕らよりも、戦争というものをもっともっと遠い昔の出来事として感じているかもしれない世代の子たちが、「私たちもそのときのことをちゃんと伝えてほしかったんです」と言ってくれている気がしたというか。そういうやりとりができたことで、大きなテーマに対して一歩踏み込んでみるのも音楽家としての自分にとって、ひとつの役目なのかもしれないなってすごく思うことができましたね。
変化していく中での自分の価値観を書いた「OLD VILLAGER」
──そしてもう1曲、カップリングとして「OLD VILLAGER」も収められています。「18thライヴサーキット“暁”」のファイナルとなった日本武道館2DAYS(2023年1月23、24日開催)でのみ披露されていた楽曲が約1年を経て音源化されました。
岡野 これはtasukuくんにまずトラックを作ってもらうところからスタートしたんですよ。オーダーとしては「ギターロックを作ってほしい」って伝えましたね。
──武道館でこの曲を演奏する前のMCでは、「ギターが鳴らないこの時代に」といった言葉を添えていましたよね。
岡野 まあ、そこを強く意識していたわけじゃないんですけどね。あくまでも自分の好きなものをやりたかったというか。僕の根本、原体験にはギターがしっかり鳴ってるロックがありますから。で、ふと周りを見渡せばギターがあまり鳴らない曲が増えているよなっていう。
──歌詞に関しては、世の中にはびこるさまざまな“予定調和”に対してめちゃくちゃもの申している感じで。
新藤 サウンド的にディストーションギターがメインになってる曲なんでね、そこでどんな感情を選ぶかといったら、だいたい“怒り”みたいなことになってきますよね(笑)。今、改めて見直してみると「解放区」でしゃべったことと同じように、今と昔を比べて、そこでの変化が影響しているような気がするかな。時代が変化していく中においての自分の価値観を書いているというか。価値観というのは古いから悪いわけではないと思いたい。でもまあ今とは違う、昔の価値観ではあるよねっていうことを書いていきました。
──その昔の価値観を「我こそこのムラの生ける伝説 OLD VILLAGER」と書いているのが、ある種自虐的でもあって。
新藤 自分の実情をそのまま書いているわけではないですけど、若いやつと価値観が違うなというのはよく感じることなので。音楽的にもね、俺らはこういうことしかやってきてないしなっていう。そのへんのニュアンスが出たんでしょうね(笑)。
──この曲のボーカルにもいろんな表情が見えていますよね。ちょっと気だるげに歌う昭仁さんの歌声が曲のメッセージとマッチして、すごくいい雰囲気。
岡野 まあ曲のタイプにもよりますけど、歌に強弱をつけていろんな表情を出したいっていうのが今のモードの1つなんですかね。僕は若い頃、もっとロックボーカリスト然とした、しゃがれた、がなる歌い方をしたい気持ちがすごく強かったんですけど、それがうまくできないことがコンプレックスになっていたんです。でも最近はそれが少しずつできるようになってきたので、メロディや歌詞の雰囲気にマッチするときには、そういうことをふんだんにやりたいっていう(笑)。
ライブ情報
19thライヴサーキット"PG wasn't built in a day"
- 2024年1月13日(土)愛知県 ポートメッセなごや 第1展示館
- 2024年1月14日(日)愛知県 ポートメッセなごや 第1展示館
- 2024年1月20日(土)北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
- 2024年1月30日(火)大阪府 大阪城ホール
- 2024年1月31日(水)大阪府 大阪城ホール
- 2024年2月10日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
- 2024年2月11日(日・祝)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
- 2024年2月17日(土)宮城県 ゼビオアリーナ仙台
- 2024年2月18日(日)宮城県 ゼビオアリーナ仙台
- 2024年2月23日(金・祝)徳島 アスティとくしま
- 2024年3月9日(土)福岡県 福岡国際センター
- 2024年3月10日(日)福岡県 福岡国際センター
- 2024年3月16日(土)広島県 広島グリーンアリーナ
- 2024年3月23日(土)静岡県 エコパアリーナ
- 2024年3月30日(土)東京都 有明アリーナ
- 2024年3月31日(日)東京都 有明アリーナ
プロフィール
ポルノグラフィティ
岡野昭仁(Vo)と新藤晴一(G)からなるロックバンド。1999年9月にシングル「アポロ」でメジャーデビューし、2000年7月リリースのシングル「ミュージック・アワー」がポカリスエットCMソングに採用され大ヒットを記録する。続く「サウダージ」は初のミリオンセールスとなり、一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。その後も「アゲハ蝶」「メリッサ」「ハネウマライダー」「オー!リバル」などヒット曲を連発する。2022年8月に5年ぶりとなるオリジナルアルバム「暁」を発表。デビュー25周年を迎える2024年は1月より全国アリーナツアー「19thライヴサーキット"PG wasn't built in a day"」を開催。3月27日に25周年第1弾シングル「解放区」をリリースした。
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