ポルノグラフィティ|“メジャー志向”を貫いた20年の証

今年9月にデビュー20周年を迎えるポルノグラフィティが、7月31日にニューシングル「VS」をリリースした。

シングルCDとしては約1年ぶりのリリースとなる本作。表題曲は放送中のテレビアニメ「MIX」の主題歌として書き下ろされたもので、過去の自分と現在の自分を対比させながら、未来に向けた尽きることのない夢と希望を描き出したドラマチックなナンバーとなっている。またカップリングには、この9月でデビュー20周年を迎える彼らが今の思いを注ぎ込んで書き上げた「プリズム」「一雫」という2曲も収録。岡野昭仁(Vo)と新藤晴一(G)のそれぞれが赤裸々に紡いだ楽曲たちは、大きな節目を力強く、鮮やかに彩るはずだ。

音楽ナタリーでは、9月7日とデビュー記念日である翌8日に東京ドーム公演「20th Anniversary Special LIVE “NIPPONロマンスポルノ'19~神VS神~”」を開催するポルノにインタビュー。本作の制作について、そしてその過程で改めて確信したというバンドとしてのアイデンティティについてじっくりと話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき

僕らにはあだち充先生の世界観がしみ込んでる

──新曲「VS」は、あだち充さん原作のアニメ「MIX」の主題歌として書き下ろされたそうですね。作詞、作曲は晴一さんが手がけられています。

新藤晴一(G) 僕の中には「タッチ」の頃からあだち充先生の世界観がしみ込んでいるところがあって。浅倉南のような幼なじみが欲しかったな……とかね(笑)、ソワソワしたり、もどかしくなったり、いろんな感情を教えてもらってきたわけですよ。で、「MIX」に関してもそういった魅力が変わらずにあるので、それを受け取ってそのまま曲に落とし込んでいった感じで。普段、タイアップのときは作品に引っ張られすぎないようにあまり資料を読み込んだりはしないんですけど、今回に限っては原作を一気に最後まで読んでしまいましたからね、楽しすぎて(笑)。

岡野昭仁(Vo) 僕も「MIX」は読ませてもらってますけど、変わることなくあだち充ワールド全開なのがうれしいんですよね。それこそ「ナイン」や「タッチ」の頃から物語の描き方の手法はそこまで大きく変わっていないように思うけど、決して過去作の焼き回しのようにはならず、常に新鮮な楽しさを味わせてくれるのはやっぱりすごいことだなって思います。

──歌詞は“VS(バーサス)”をキーワードとしながら、青春時代の自分を今の自分が眺めているような描き方をされていますよね。

新藤 よき仲間であり、よきライバルでもある主人公・投馬と走一郎の2人をイメージしつつ、自分自身と戦うといった意味も込めて書いていきました。このあとに控えている東京ドーム公演のタイトルに“VS”というワードを使っていたので、そこを念頭に置きながら「MIX」の世界に絡めていったところもありましたね。結果、ちゃんと流れを考えてた感が出てるでしょ?(笑)

──ですね(笑)。この曲ありきでドームのタイトルに“VS”を掲げていたのかと。

新藤 実際はいいタイアップのお話をいただけたことでつながったわけです。だからね、当初はタイトルの“神VS神”は“かみたいかみ”って読んでたけど、こっそりと“かみバーサスかみ”って読むように変えたりもしました(笑)。

──今回の歌詞はデビュー当初のご自身たちを、今の視点から見ているようにも受け止められますよね。そういう部分でも、20周年とドーム公演を間近に控える今のタイミングにふさわしい曲になっているなと思ったのですが。

新藤 うん、そういう気持ちも少しは入ってます。サビの最後の「あの少年よ こっちも戦ってんだよ」っていうフレーズをドームで歌えたらよさそうだなと思ったりもしたし。今の僕らにシンクロする部分はありますね。とは言え、歌詞全体に関してはやっぱり「MIX」の主題歌のために書いたという気持ちのほうが強かったかな。今の自分たちの気持ちに関しては今回、カップリング曲でしっかり書こうって決めていたりもしたので。

“メジャー志向”を大事にしてきた20年

──アレンジはそこはかとない郷愁感がありつつも、全体的には爽快な広がりを感じさせるものになっています。

新藤 郷愁感みたいな部分はね、あだち充先生の世界だから(笑)。聴いている人がアンニュイでアイロニカルな気持ちになってもらうところは絶対必要だなと。そのうえで全体的には曲が進むにつれて世界が大きく広がっていくようなサウンドにしたかったんです。で、そのイメージをアレンジャーの近藤(隆史)さんと田中(ユウスケ)くんに伝えたところ、サビがすごくキラキラしたサウンドになっていって。それを聴いたときに、やっぱりポルノグラフィティにはそういったキラキラしたイメージがあるんだなと改めて思わされたというか。

──自分たちの持ち味を、今回はアレンジャーからの視点で気付かされることになったと。

新藤 そうそう。ああ、うちらはやっぱりこういう感じなんだなって、妙に納得できたというかね(笑)。自分が書いた歌詞やメロディに関してもそういったポップ感は絶対的に入っていると思うし。この曲はシングルの表題曲だから、そこはなおさらですよね。

岡野 この「VS」はすごく僕ららしいポップソングになったなと思うんです。過去にはポップという言葉がイヤな時代もあったけど、いろいろな人に共感してもらえるであろう思いを歌い、それをたくさんの人に届けてナンボでしょという気持ちでやってきたポルノグラフィティは、結局ずっとポップソングを作り続けてきたということだと思うんです。それを20周年という区切りのタイミングで再確認できたことはすごくよかったなって。

──ポルノの魅力であるポップネスは、言い換えるならばメジャー感でもありますよね。

新藤 うん。今もそういう言葉があるかどうかは知らないですけど、僕らは“メジャー志向”を大事にしてここまで来たわけですよ。だからメジャーのレコード会社と契約するとか、大きな会場でライブをするとか、テレビの音楽番組にたくさん出るとか、そういう部分が1つの大きなアイデンティティになってるんですよね。そういった精神、気持ちに関しては20年間ブレずにやってきたような気はしますけどね。振り返ってみれば。