音楽ナタリー Power Push - Poet-type.M
“さよなら”が滲む秋盤
ひょっとしたら、あるとき急に終わりが来るのかもしれない
──「双子座のミステリー、孤児のシンパシー(GPS)」「プリンスとプリンセス(Nursery Rhymes ep4)」など、別れを想起させる楽曲も今回のアルバムのポイントだと思います。
秋盤に入っている曲はどの曲も別れを体現しているんです。表面に出ているのはさっき言った「反全体主義」「反同調圧力」に対する素直な気持ちなんだけど、すべてに“さよなら”が滲んでしまっている。それは正直、自分で選んだテーマではないです。アルバムができてみると、すべて別れについての曲になっていたという。
──今振り返ってみて、作品全体に“別れ”が滲んでしまったのはなぜだと思いますか?
そうですね……。秋盤の制作過程はすごくヘビーだったんですよ。「楽しいね」っていう雰囲気はまったくなかった。それは今回のアルバムのテーマのせいもあるし、たまたま個人的にもいろんなことが重なったこともあって。10年連れ添った猫が死んでしまったり、身内が病気になったり。世の中の雰囲気の変化も感じていたし、音楽以外の部分が非常にシリアスだったんですよね。そうすると必然的に、いろんなことに対する“さよなら”を自覚せざるを得なくなったんだと思います。これは本当に初めてだったんですけど、「人生って永遠じゃないんだな」って感じたんですよ。今までは「30年後も50年後もずっとこのまま続いていくだろう」と思ってたところがあるんだけど(笑)、「ひょっとしたら、あるとき急に終わりが来るのかもしれない」って。
──まさに「永遠も半ばを過ぎて」(「あのキラキラした綺麗事を(AGAIN)」の一節)ですね。
うん、本当にそういうことだと思います。何かを深く信じたり、強く依存していれば、当然別れは悲しいです。ずっと笑い合ったり、楽しい時間を過ごした相手がいなくなるわけですから。でも、その反面「楽しかった日々を思い返せば、心の中はすごく温かくなる」ということも強く信じていて。実は夏盤(「A Place, Dark & Dark -ダイヤモンドは傷つかない-」)に入っていた「ダイヤモンドは傷つかない」もそういう曲なんです。「In Memory Of Louis」というサブタイトルが付いていて、曲の中にLouisというキャラクターが出てくるんですが、それは僕が飼っていた猫がモデルなんですよ。本当はルイジという名前だったんだけど。僕は死ぬまでルイジのことを忘れないし、ずっと「ありがとう」を言い続けると思う。どんなときでも、ルイジのことを思い出すと口角が上がりますからね。ほかの人にとっては単なるきれいごとかもしれないけど、僕はそれを心から信じることができる。それをもっと素直に表現したのが、今回の「あのキラキラした綺麗事を(AGAIN)」なんです。
──生活の中で起きた出来事、それに伴う人生観の変化も楽曲に反映されているんですね。ソングライターとしては、当たり前のことかもしれないけど。
以前よりも装飾がなくなったのかもしれないです。前はエッセンスとして出していたんだけど、今は「とりあえず、思っていることを全部出そう」という感じなので。「あのキラキラした綺麗事を(AGAIN)」も、僕にしては少し素直過ぎますからね。
「今が一番よくない」って思って生きている
──より素直な表現に向かい始めたのは、年齢も関係している?
どうだろう? 今話したことは、20歳くらいのときからわかっていた気もするし。ただ年齢を重ねていくと、それを確認する体験は増えていきますよね。そういう意味では、年齢も無関係ではないかもしれない。
──別れの経験も増えますからね。身近な人もそうだし、例えば好きだったアーティストや作家が亡くなったり。
ルー・リードも亡くなったし……。でも彼らが望んでいるのは、たぶん音楽が残ることだと思うんですよ。悲しむべきことがあるとすれば新曲が聴けないというだけで。彼らは死んでも曲を作っていたいと思っていたはずですから。
──門田さんは何事に対してもポジティブですよね。どれだけシリアスな状況があっても、絶対に絶望しないというか。
僕は人間や文化というものに対して、非常に楽観的なんですよ。今日よりも明日のほうが絶対によくなるはずだって、基本的には考えています。逆に言ったら「今が一番よくない」ってずっと思って生きているんだけど(笑)。そういう意味では、いつも次の世代のリスナーに期待しているところはあります。だからスタッフや周りの人にずっと言われてるんですよ。「君がやろうとしていることは、たぶん早いんだよ」って。それをずっとやり続けてるんですよね。でも「僕は人とは違っています。新しいことをやっています」という態度ではダメなんです。先進性に意味を持たせるのはよくないですから。いい曲、いい歌がすべてなので。マンガに例えると「少年ジャンプ」みたいなわかりやすさでやらないと。
──しかも門田さんは時期によって大きくスタイルを変えてますからね。BURGER NUDS、Good Dog Happy Men、そしてPtM。これから門田さんの音楽に触れる人は、かなり驚くと思いますよ。
そうですね(笑)。すごくいろんな要素が楽しめるミュージシャンだと思いますよ。
──最後にこの後のPtMについて。次作の冬盤で“夜しかない街”の物語は完結しますね。
制作は進んでいて、これから最後のワンピースを作るところです。たぶん、「festival M.O.N」が終わってからかな。こんなイベントは自分の人生の中でもそんなにないことだし、それまでは常に3人の自分が存在しているので。
──4部作が完結したら、ぜひ“夜しかない街”を表現するライブをやってほしいですね。
うん。それはやったほうがいいと思っています。ただ冬盤を作ってみないとどうなるかわからないですね。ちゃんと完結すればいいけど、まだ“Dark & Dark”の中に僕の魂が残るかもしれないし……。
──え、まだ結末が決まってないんですか?
最初は決めてたんですけど、自分の中で“Dark & Dark”の重力が強くなってきたんですよね。もっと軽い絵空事のつもりだったんだけど、現実とのコミットが濃くなりすぎて。結末がどうなるかはまだわからないです、正直言って。
- ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」 / 2015年10月21日発売 / 1620円 / I WILL MUSIC / PtM-1032
- ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」
収録曲
- だが、ワインは赫(Deep Red Wine)
- あのキラキラした綺麗事を(AGAIN)
- ある日、街灯の下(Farewell, My Lovely)
- 双子座のミステリー、孤児のシンパシー(GPS)
- プリンスとプリンセス(Nursery Rhymes ep4)
- 性器を無くしたアンドロイド(Dystopia)
Poet-type.M(ポエットタイプエム)
BURGER NUDS、Good Dog Happy Menの門田匡陽によるソロプロジェクト。2013年4月に活動を開始し、同年10月にアルバム「White White White」を発表した。2015年1月に行われた“独演会”「A Place,Dark&Dark-prologue-」では、「夜しかない街の物語」というコンセプトを掲げ演奏。さらに同コンセプトを反映し、春夏秋冬の4部作で展開される作品集「A Place, Dark & Dark」の制作をスタート。4月に「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」、7月に「A Place, Dark & Dark -ダイヤモンドは傷つかない-」、10月に「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」をリリースした。