音楽ナタリー Power Push - Poet-type.M
“さよなら”が滲む秋盤
門田匡陽(BURGER NUDS / Good Dog Happy Men)のソロプロジェクト、Poet-type.M(以下PtM)から新作CD「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」が届けられた。夜しかない街“Dark & Dark”を舞台に描く春夏秋冬4部作の3枚目で“秋盤”にあたる本作は、ノスタルジックなメロディと洗練されたサウンドメイクを軸にした作品に仕上がっている。今回音楽ナタリーでは「反全体主義、反同調圧力」「別れ」をテーマにした本作、そして10月24日に東京・LIQUIDROOMでファイナルを迎える、門田所属バンドPoet-type.M、BURGER NUDS、Good Dog Happy Menの共演企画「festival M.O.N -美学の勝利-」について聞いた。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 上山陽介
陰のパワー、ダイナミズム、鋭利性
──まずはPoet-type.M、BURGER NUDS、Good Dog Happy Menが出演するイベント「festival M.O.N -美学の勝利-」について聞かせてください。名古屋、大阪の2公演が行われましたが、手応えはどうですか?
まずGood Dog Happy Menについて、今回のライブは6年ぶりになるんですけど、10年前に作った曲とか、できるだけ古い曲をやったんです。それでライブを観てくれた人と話をしたら、みんな異口同音で「当時は早すぎたんだね」って言ってくれて。これまで「わかりづらい」と言われた楽曲が今、みんなもやっと楽しめるようになったことで「全然懐かしくなってない」と確認できました。自分たちの価値観、チョイスは正しかったんだなと感じましたね。僕らがGood Dog Happy Menで一番大事にしていたのは「100年後に聴かれても、ダサいと思われない音楽をやりたい」ということだったんです。そういう物に憧れて僕らはGood Dog Happy Menをやっていたし、当時から「時流に対してビクともしない、気にもかけない音楽をやりたい」と常々話していて。だから「わかりづらい」と言われても、まったく気に留めなかったんですよ。
──そのときは理解されなかったとしても、時代を超える音楽をやっているという確信があった?
そうです。例えば僕は14、15歳のときに音楽に興味を持ち始めて、まずBlurとかOasisなんかを聴いたんです。その後「彼らが影響を受けた音楽はなんだろう?」と思って、デヴィッド・ボウイやThe Beatlesを聴くようになって。つまりリアルタイムの音楽だけがすべてではないということですよね。1960年代の社会に対してThe Beatlesがどんなアクションを起こしたか、どんなインフルエンスを与えたかは実際にはわからないし、想像するしかない。でも、そこを全部取っ払っても純粋に楽しめるのが音楽という文化のいいところだと思うんです。楽しむために文脈や構造を必要としない。Good Dog Happy Menはずっとそこに価値観を置いていたんです。
──BURGER NUDSに関してはどうですか?
BURGER NUDSは真逆で、半分新曲という構成でライブをやりました。2014年の再結成以降に作った曲をかなり入れたんですね。やはり現在進行形のバンドとしての責任というか。ライブに来てくれる人たちはある程度「既存の曲を聴きたい」と思っているだろうし、それに応えるという責任の取り方もあるんだろうけど、自分たちはBURGER NUDSを解散させた10年前のマインドに立ち返りたかったんです。それはBURGER NUDSがどういうものか、なるべく説明できないようにしたい、簡単に言うと「よくわからないものでありたい」ということですね。来てくれた人たちに安心してもらう、当時演奏していた曲を確認してもらうのではなく、「相変わらず、よくわかんないバンドだな」と思ってもらえたらなって。
──なるほど。Poet-type.Mは門田さんの最新のプロジェクトですが、「festival M.O.N」ではどんな立ち位置でしたか?
PtMに関しては名古屋公演のときがすごく印象的で。Good Dog Happy Menの演奏のときはピースフルな雰囲気というか、「やっぱり最高だな。おかえり!」という感じになってたんです。対してPtMは秋盤の1曲目に入っている「だが、ワインは赫(Deep Red Wine)」からスタートさせたんですけど、始まった瞬間空気が変わって。Good Dog Happy Menが象徴するある種の多幸感、陽性のパワーに引けを取らない、陰性のものをPtMが表現できていることを体感しましたね。まず、今のPtMのライブがよいのは当たり前なんですよ。これからリリースする作品を制作しているときって、やっぱり研ぎ澄まされてますから。このイベントでBURGER NUDSの陰のパワー、Good Dog Happy Menのダイナミズム、PtMの鋭利性、それを全部表現できたことは自信にもつながりました。
次のページ » 「アンチ全体主義」または「アンチ同調圧力」
- ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」 / 2015年10月21日発売 / 1620円 / I WILL MUSIC / PtM-1032
- ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」
収録曲
- だが、ワインは赫(Deep Red Wine)
- あのキラキラした綺麗事を(AGAIN)
- ある日、街灯の下(Farewell, My Lovely)
- 双子座のミステリー、孤児のシンパシー(GPS)
- プリンスとプリンセス(Nursery Rhymes ep4)
- 性器を無くしたアンドロイド(Dystopia)
Poet-type.M(ポエットタイプエム)
BURGER NUDS、Good Dog Happy Menの門田匡陽によるソロプロジェクト。2013年4月に活動を開始し、同年10月にアルバム「White White White」を発表した。2015年1月に行われた“独演会”「A Place,Dark&Dark-prologue-」では、「夜しかない街の物語」というコンセプトを掲げ演奏。さらに同コンセプトを反映し、春夏秋冬の4部作で展開される作品集「A Place, Dark & Dark」の制作をスタート。4月に「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」、7月に「A Place, Dark & Dark -ダイヤモンドは傷つかない-」、10月に「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」をリリースした。