音楽ナタリー Power Push - Poet-type.M

“さよなら”が滲む秋盤

「アンチ全体主義」または「アンチ同調圧力」

──東京公演も楽しみです。では、今回のミニアルバム「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」について。夜しかない街“Dark & Dark”を舞台にした4部作の第3弾となるわけですが、歌の要素を前面に押し出したように受けました。何よりも曲がいいですよね。

僕も「秋盤」はすごくいいと思います。それには2つ理由があって、1つ目は自分の作家性、表現したいことに対して、春盤、夏盤よりも僕自身がワガママになってきたことなんです。マイナーキーの楽曲(「だが、ワインは赫(Deep Red Wine)」)で始まることも、今日のロックシーンではなかなかないことですから。もう1つは「秋盤」で表現したいことが、今世の中で起こっていることと非常に深く重なったことで。

──確かにそうですね。“Dark & Dark”は架空の街ですが、現実世界とも強くリンクしている印象があります。

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特に音楽は時代と密着している文化だから、それを反映せざるを得ない部分があって。そこで感じたことをTwitter、Facebookなどで発言しようという気にはならなくて、作品に込めるのが筋だと思ったんです。2011年に大災害、大事故が起きて以来、政治について発言したり、自分の意思を表明したりすることが美徳とされているけれど、僕は違うと感じているんですね。そういうことを考えることは必ずしも正義ではないし、強制されることでもない。そんな自分の感情を僕は「アンチ全体主義」または「アンチ同調圧力」という言葉で定義していて。今政治的な発言をすることは反体制でもなければ、リベラルでもない。そこに関しての憤り、気持ち悪さが秋盤にはすごく出ていると思います。

──タイトル曲「性器を無くしたアンドロイド」には“Dystopia”というタイトルが付いていますね。門田さんには現在の社会がディストピアに見えているんでしょうか。

そうですね。ジャケットに関してもそれを強く意識しました。僕の作品に月が出てくるときは、ユーモラスであったり、優しい雰囲気であることが多かったんです。例えばGood Dog Happy Menだと、月が方舟に乗り遅れた海亀を見ながら「大丈夫かね?」ってタバコをくわえて出てきたり。でも、今回の月は全体主義の象徴で、鬱陶しいくらいデカい顔をして、すべてを見下ろしている。そこから感じられる滑稽さが、今の社会に合ってるのかなという気がしています。

──作品を通して、全体主義的な社会に警告したいという気持ちもある?

いや、誰が何を言っても「それは間違ってるよ」とは言わないですし、ただ「俺はそうじゃない」と言ってるだけで。生き方の違いですから。誰かに「お前は間違ってる」と言われても、自分の生き方を変える気もないしね。だって、変えられないから(笑)。

──門田さんのそういうスタンスは、BURGER NUDSのときから一貫してますからね。

はい。これは声を大にして言いたいんだけど、それこそがロックなんですよ。ロックを聴き始めたときって「俺は絶対、人と違うはずだ」と思ってたし、その気持ちを表現するために一番手っ取り早くて、効果的なのがロックでしたし。

新しいサイケデリックサウンドを定義

──なるほど。ただ、今回のアルバムは決して暗くて重いだけではなくて、非常にメロディアスだし、ポップですよね。

特に2曲目(「あのキラキラした綺麗事を(AGAIN)」)、3曲目(「ある日、街灯の下(Farewell, My Lovely)」の流れは非常にポップだと思います。表現したいことが心の中でグツグツ沸き起こって、それが気持ち悪ければ悪いほど、そのぶん曲はポップになっていくんですよ。「だが、ワインは赫(Deep Red Wine)」もそう。すごくダークなパワーがあるんだけど、歌ってることは一番前向きだったりするので。そういう反作用はすごく感じたし、そういうシーソーみたいなバランスは僕にとって最低限のルールなのかもしれないですね。

──「だが、ワインは赫(Deep Red Wine)」「性器を無くしたアンドロイド(Dystopia)」のストリングスも素晴らしいですね。

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ポップミュージックにとってストリングスは諸刃の剣なんですよ。ただキレイになるだけというか、風景になってしまうこともありますから。そういう取って付けたようなアレンジはダサいし。もし入れるんだったら、それは楽曲の心臓にならないといけないと思っていて。「だが、ワインは赫(Deep Red Wine)」のサイケデリックな曲調って、当初はもう少しビートルズライクだったんです。なのでフレンチホルンやチューバ、シタールなどを入れたりしてたんですけど、デモを作って楢やん(共同アレンジャーの楢原英介)と話しているうちに「ストリングスを生で入れるなら、ほかの楽器はすべてカットしないと」ということになって。最終的にはギター、ドラム、ベース、鍵盤、ストリングスだけになりました。新しいサイケデリックサウンドを定義できたと自負してますね。

ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」 / 2015年10月21日発売 / 1620円 / I WILL MUSIC / PtM-1032
ミニアルバム「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」
収録曲
  1. だが、ワインは赫(Deep Red Wine)
  2. あのキラキラした綺麗事を(AGAIN)
  3. ある日、街灯の下(Farewell, My Lovely)
  4. 双子座のミステリー、孤児のシンパシー(GPS)
  5. プリンスとプリンセス(Nursery Rhymes ep4)
  6. 性器を無くしたアンドロイド(Dystopia)
Poet-type.M(ポエットタイプエム)

BURGER NUDS、Good Dog Happy Menの門田匡陽によるソロプロジェクト。2013年4月に活動を開始し、同年10月にアルバム「White White White」を発表した。2015年1月に行われた“独演会”「A Place,Dark&Dark-prologue-」では、「夜しかない街の物語」というコンセプトを掲げ演奏。さらに同コンセプトを反映し、春夏秋冬の4部作で展開される作品集「A Place, Dark & Dark」の制作をスタート。4月に「A Place, Dark & Dark -観た事のないものを好きなだけ-」、7月に「A Place, Dark & Dark -ダイヤモンドは傷つかない-」、10月に「A Place, Dark & Dark -性器を無くしたアンドロイド-」をリリースした。