ナタリー PowerPush - ピロカルピン

時間と生をテーマにした渾身作「宇宙のみなしご」

純粋無垢な透明感を持ち、ストレートに胸に響いてくる強力なボーカル。UKロックを聴き込んだ楽器隊が奏でる、自由奔放でアグレッシブなバンドサウンド。その2つが絡み合って唯一無二の音楽を奏でているのが、今回ナタリー初登場となる男女4人組ギターロックバンド、ピロカルピンだ。

新作ミニアルバム「宇宙のみなしご」は、そんな新感覚の音楽に驚かされるのはもちろん、美しく心地良い耳触りも絶品な1枚。このインタビューでは、バンド結成の経緯や音楽性をひも解くとともに、今作に込められた思いについて、松木智恵子(Vo, G)と岡田慎二郎(G)に話を訊いた。

取材・文/川倉由起子

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最初はバンドを一緒にやってくれる人なら誰でもいいと思ってた(笑)

──初登場ということで、まずはバンド結成の経緯からお願いします。

松木智恵子(Vo, G) もともとは私がバンドをやろうと思って、インターネットのメンバー募集サイトに書き込んだことが始まりです。

──どういうきっかけからバンドをやりたいと思ったんですか?

松木 音楽はずっと人並みに楽しんできた程度だったんですが、なんだろう……自分の中に昔から自己実現欲求みたいなものが強くあったんですよ。ただ、それを“音楽”で実現すると決められるまでには至ってなくて。でも一度就職して社会に出たとき、音楽が持つ力を実感するきっかけがあったんです。

──と、いうのは?

松木 まず、さっき話した自己実現欲求みたいなものを、当時は社会生活の中で満たしていこうと思ったんです。例えば、仕事で出世して……とか。でも実際に働いてみると、あまり自分をよくわかっていなかったのか(笑)、会社で力を発揮していくのはなかなか難しくて。自分に対して少し失望しかけたんですよね。そんなときに、自分の好きな音楽を聴いてパワーをもらって。

──そこから、音楽に向けてパワーを傾けてみようと。

松木 そうですね。でも当時は、音楽だけで食べていけるなんて本当に一握りの人だし、もっと現実的に生きなきゃっていう気持ちもあり。だから、わりと時間に融通が利く仕事に転職して、働きながらバンドを始めることにしたんです。

──メンバー募集をかけたときは、どういう人たちを集めようと思っていましたか?

松木 正直、最初は一緒にやってくれる人なら誰でもいいと思ってたんです(笑)。だから、ネット上でだけでつながった人とまず一斉に下北沢のマックで集まって。いろいろ話をして、とりあえず始めてみようということになりました。でもやっぱり、お互いの音楽性などを知らないまま集めたので、メンバーもどんどん辞めていってたんです。そんな中、ギターの再募集をしたときに連絡をくれたのが岡田さんだったんです。

ピロカルピンの成り立ちは会社と似ている

アーティスト写真

──現メンバーは、松木さんと岡田さん、そしてベースのスズキヒサシさんと、ドラムの鈴木雅人さんですね。スズキさんと鈴木さんは、どの時点で加入されたんですか?

松木 ベースとドラムはずいぶん入れ替わってるんですが、鈴木くんは2008年ごろ、ヒサシさんは去年の夏ですね。

──そうやってバンドの形を変えながら活動してきたことに関しては、どう思います?

松木 女性ボーカルということも理由のひとつなのかもしれないんですが、理想とするメンバーが集まりにくいという現実があったんですよ。言ってしまえば、キャッチーでポップなガールズバンドというイメージを持たれがちだったというか。でも、そうやって人が入れ替わっていく中で、バンドの方向性が明確になった側面はありますね。音楽性や考え方、やりたいことを統一したり共有したりっていう作業をしながら、それに合う人たちが今こうして集まったという感じ。

岡田慎二郎(G) もともとの出会いがネットのメンバー募集なので、僕たちは昔からの仲間が集まってるわけじゃないんです。ということは、お互いをつなげてるのは本当に音楽だけじゃないですか。するとやっぱり、音楽に対する気持ちが弱くなるとみんな離れていっちゃうんですよね。そういう意味では、バンドの成り立ち自体がちょっと会社みたいなのかもしれない。会社が成長していくときに、発展を望むか望まないかで社員が入れ替わっていく感じかな。

松木 そうですね。あとは、それと同時に自分たちも成長していってると思うので、まさに会社に近いところがあるかもしれないです。

──じゃあ、馴れ合いもない?

松木 そうですね。一切ないです!(笑)

岡田 強調したねぇ(笑)。本心は「僕ら、昔からの友達で……」みたいなバンドに憧れたりもするんですけど、逆にそうじゃないメンバーだからこその良さみたいなのもあると思いますね。

3rdアルバム「宇宙のみなしご」 / 2011年3月16日発売 / グララーガ [CD]2100円(税込) / PRKL-1010

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CD収録曲
  1. 時間計
  2. 存在証明
  3. 最終走者
  4. 見えざる手
  5. メソポタミア
  6. 終焉間際のシンポジウム
  7. ベンジャミン
※初回限定盤のみ

メンバー自主制作による未発表新曲を収録した特典ディスクつき2枚組

ピロカルピン

ピロカルピン

松木智恵子(Vo, G)、岡田慎二郎(G)、スズキヒサシ(B)、鈴木雅人(Dr)からなる4ピースバンド。2003年に松木と岡田が出会い、バンドの原型が誕生。その後何度かのメンバーチェンジを経て、2010年8月に現在の編成となる。

2009年7月にタワーレコード限定シングル「人間進化論」とHMV限定シングル「京都」を同時発売しデビュー。2010年11月から2カ月連続でシングル「存在証明」「終焉間際のシンポジウム」を発表し、その繊細な世界観とダイナミックなサウンドで話題を集める。2011年3月、3rdアルバム「宇宙のみなしご」をリリース。このアルバムのタイトルは森絵都の同名小説にちなんだもので、森の快諾により名付けられた。