三月のパンタシア|光と闇の間で揺れる、思春期の心

本当の気持ちと、嘘の気持ち

──リード曲「三月がずっと続けばいい」の原案「三月」は女子高生の切ない先生への片思いを描いた物語です。堀江晶太さんによってポップで疾走感のある楽曲になりました。

三月のパンタシア「三月がずっと続けばいい」リリックビデオより。

そもそもアルバムのタイトルに「ハッピーサッド」という言葉を入れたのは、思春期の女の子の、希望に満ちあふれているはずなのにふとした瞬間に憂鬱になったり、憂鬱な気分の中でもなんとか光をつかみ取ろうとする気持ちを表現したいと思ったからで。私はそういった青春時代のアンバランスな感情にドラマがあると考えています。そんなアルバムのリード曲はどういうものがいいんだろうと考えたときに、アップテンポな曲調だけど歌詞は切ないような、明るく別れを歌う曲にしたいと思ったんですよね。

──では堀江さんから上がってきた曲はまさにイメージ通りだったと。

実はこの曲が上がってくる前に、堀江さんにリード曲用にもう1曲書いていただいていたんです。その曲も、ものすごく素晴らしかったんですよ。でもきっと堀江さんなら、もっと思いっきりポップに振りきって開けた感じの曲を作ってくださるだろうし、そういう曲も聴いてみたいなと思って。

──それでこの曲を作ってもらったんですね。

そうなんです。この曲は歌詞もすごく気に入っていて。Bメロの「あなたに嘘なんてつかないけど 真実はもっと言えないのさ」とか、素直になれない女の子の気持ちが出ていてかわいいんですよ。

三月のパンタシア「三月がずっと続けばいい」リリックビデオより。

──最後の「『なんてね』『じゃあ、さよなら』」というフレーズには、主人公のどういった思いが込められていると解釈していますか?

この曲の歌詞は、鍵括弧が付いている部分と付いていない部分があるんですよ。曲中に何回か出てくる同じフレーズでも、例えば「『三月がずっと続けばいい』」と鍵括弧が付いているところがあれば、「三月がずっと続けばいい」と鍵括弧が付いていないところもある。最初に堀江さんに「これ、ミスじゃないですよね?」と聞いたら、「そうです」と言われて(笑)。

──(笑)。

堀江さんが言うには、鍵括弧が付いている部分は女の子の強がりなんです。つまり鍵括弧が付いていない「三月がずっと続けばいい」は先生と離れたくないから本当に3月が続けばいいという気持ちで言っていて、鍵括弧付きの「『三月がずっと続けばいい』」は卒業した女の子が高校時代の過去を振り返りながら、強がって嘘の気持ちを言っている。最後の「『なんてね』『じゃあ、さよなら』」も堀江さんと鍵括弧を付けるか付けないか協議したんですけど、私は「この女の子は先生に『さよなら』と言いたくないから、これは嘘の気持ちです。この子の強がりです」とお伝えして。じゃあ鍵括弧を付けようかという結論になって、最後まで強がっているようなイメージで歌いました。

──この曲はお客さんがクラップをしたり、一緒に歌えるパートもありますね。

そうなんです。ライブでお客さんと楽しめる曲になったらいいなと思っていたので、クラップを入れてほしいとお伝えしました。けっこうテクニカルなクラップなので、みんなにやってもらえるかわからないんですけど(笑)。この曲は特にライブで披露するのが楽しみです。

活動初期から取って置いた曲

──堀江さんはリード曲のほかにもう1曲、「パステルレイン」を担当されています。

この曲だけ、小説より先に歌詞もメロディもできあがっていたんですよ。

──もともとあった曲ということですか?

そうなんです。三パシが活動を始めた2015年ぐらいの時期に堀江さんに曲を作っていただいたんですが、なかなか出しどころが難しくて、どこかのタイミングで歌いたいなと思いながらずっと取って置いていたんですよ。だから原案の小説はないんですけど、曲が先にあって、その世界観を受けて物語を書いてみるのも面白そうだなと。

──小説「低気圧のせいだ」には大学のサークルで知り合った男の子に片思いする女の子の物語が書かれています。楽曲からどのような印象を受けて物語にしていったんでしょうか?

この曲の女の子は天邪鬼というか、相手のことが好きだし伝えたい思いはあるけど、それをうまく言えずにいる不器用な子なんだろうなと思ったんです。相手に対してなんで気持ちを伝えられないのかと考えると、たぶん根底に叶わない思いがあるんだろうなって。仲よくしてるけど、絶対私のことを恋人にしてくれないだろうなというのは、なんとなく相手の言葉や態度でわかったりするじゃないですか。叶わないんだったら優しくしないで突き放してくれるほうがいいのにと思うけど、そういうところが好きなんだろうな……と、そういった乙女心にフィーチャーして物語を書いてみました(笑)。

──小説ではこの恋は叶わないと思いながらも、ふいに気持ちが高ぶって抑えきれなくなってしまうシーンも描かれています。

普段は「気持ちを伝えるなんて絶対無理。そばにいられるだけでいいんです」と思ってるくせに、それを超えて、どうなってもいいからこの気持ちを伝えないとおかしくなりそうな瞬間があるんですよね。そんな思春期の女の子の気持ちが小説と楽曲で伝わったらうれしいです。

どこにでもある別れの物語

──buzzGさんが作編曲された「ソーダアイス」は勢いのあるギターロックナンバーになっていますね。原案の「冷凍庫にアイスが増えていく」には去ってしまった恋人への未練が描かれています。

この物語は恋人に嫌われたくなくて、いい女を演じようとする女の子の気持ちをテーマにしました。本当は恋人が何をしているのかすごく気になるし、聞きたいことも山ほどあるけど、重いと思われたくないから「私は全然気にしてないですよ」という態度を取り続ける。その結果「あなたは強い人だね」と振られちゃうような別れって、世の中にけっこうあると思うんですよ。

三月のパンタシア「街路、ライトの灯りだけ」リリックビデオより。

──確かに。

私も素直なタイプの人間ではないので、素直に人に甘えられる女性がうらやましいです。そういう女性のほうが男性にかわいいと思ってもらえるんだろうけど、自分はキャラじゃないなと思っちゃったり……そういった感じで言いたいことを言えなくて、自分の中で不安が積み重なっていくうちにどんどん空回りしてうまくいかなくなるような、どこにでもある物語を書いてみました。

──アルバムを通して、言いたいけど言えない、素直になりたいけどなれないという心の揺れは、みあさんが思春期の女の子を描くうえで1つのキーになっているように感じました。

そうかもしれません。そういった心の揺れが原因で恋愛がうまくいかなくなる感じは、大きなテーマになっています。

──「ソーダアイス」はそんな言えなかった気持ちを思いっきり吐き出すような楽曲になっていますが、この曲からはどういった印象を受けましたか?

衝動的な思いや、言いたいことを言えなかった悔しさが力強いサウンドで表現されているなと。それを受けて、私も特にサビは思いっきり感情を吐き出すように歌っています。レコーディングでも歌っていて気持ちよかったですね。