PEOPLE 1アルバム「星巡り、君に金星」インタビュー|さまざまな変化を経て、たどり着いたその先に (3/3)

「俺はもう駄目だけど、みんなは幸せになってくれ」

──アルバムの後半には新曲が続きますが、まず、「ハートブレイク・ダンスミュージック」という、心が砕け散ったあとで「もう踊れないや」と歌いながらサウンド自体はめちゃくちゃダンサブルな曲があり、Deuさんのルーツであるガレージロックのテイストが色濃く出た「高円寺にて」という純粋なロックソングがあり、そして、「君に金星」と「鈴々」という2曲がアルバムの終着点になります。まずタイトルトラックとも言える「君に金星」は、これこそDeuさんの内面が吐露された、ひとり言のような曲だと思いました。Deuさんにとってはどのような曲ですか?

Deu 自分が本当にそう思ってることを書いた曲ですね。それはこの2年間だけの話ではなくて、人生単位で思っていることでもある。本当に「俺が余計なことをしているだけだ」と思っているし、「みんなが楽しく暮らすことができればいい」と思う。俺は本当に「世界が平和になればいい」と願ってるし、「そこに俺がいなければいいな」と思っているということですね。

──Deuさんの中には世界平和を本気で願うようなロマンティシズムがあって、そのロマンこそが、Deuさんを暗く寂しくさせている要因でもありますよね。

Deu そうだと思いますよ。でも、そういうロマンティシズムがなかったらなんの意味もなくなる。人間の脳みそなんて電気信号に過ぎないわけで、それだって科学の力で同じような働きができてしまうわけだから。そういう考え方で進んでいくと、本当に心が必要な理由なんて1つもなくなる。そういうことを受け入れて生きていくのは、怖すぎる。我々人間は、不確かなものを前提に生きているわけだから。だったら、ある程度のロマンティシズムはないと息苦しいですよね。僕みたいなタイプは特に。

Deu(Vo, G, B, Other)

Deu(Vo, G, B, Other)

──「君に金星」にも「鈴々」にも、歌詞の中に「君」という言葉が出てきます。もちろんほかの曲の歌詞にも、「君」という言葉はよく出てくる。Deuさんが歌詞に「君」という言葉を書くとき、どのようなことを感じたり考えたりしながら書くものですか?

Deu 基本的には「幸福であれ」と思いながら書いています。僕の歌詞の特徴として、やはり「読まれる」ということを前提として書いている部分があって。本当の感情の発露ではなくて、あらゆることが意識的に書かれている。そういう意味では、「君」もその中の装置の1つだと思います。

──Itoさんは「君」という言葉を歌うとき、考えることや思うことはありますか?

Ito どう思うというか、ドキッとはしますよね。いろんな裏側を知っていると、ドキッとする部分はある。ただ……正直、この言葉をそこまで意識したことはなかったかな。いろんな捉え方ができる言葉だとは思います。「君」は特定の誰かということではないのかもしれないし、近い人のことなのかもしれないし、まったく知らないどこかの誰かなのかもしれない……。

Deu 「これ、俺のことか?」って(笑)。

Ito Itoのことかもしれないし(笑)。……ただ思うのは、Deuさんは、誰かに何かを与えようとしていると思うんですよね。与えるというか、置いて出ていくというか。受け取ることを強要はしないと思うんですよ。無理やり手を出させて握らせるということはしない。でも、空間にものを置いて、去って行く。そんなイメージの人なんですよ、Deuさんは。歌詞に出てくる「君」という言葉を通して思うのは、そういうことですね。

──何かを与えようとしている、置いて出て行く。Itoさんがおっしゃったそういう感覚をDeuさん自身はどう思われますか?

Deu それが第一目的ではないけど、その通りだと思いますよ。マイノリティには優しくしたいと思うので。「もうちょっと認知されていいのに。そうすれば、この人たちはもっと生きやすくなるのに」と思うような人たちが、この世の中にはたくさんいるから。マジでいろんな人たちがいるということを、みんなもっとわかったほうがいいと思っています。全員が同じことを考えているわけでも、考えられるわけでもないし、同じものを見ることができるわけでもない。そういうことは、もうちょっとわかってほしいなと思います。そうしたら、もうちょっとみんな生きやすくなるのに。

──世界が平和になることを祈ったうえで、「そこに自分がいなければいい」と思うことを「自己犠牲的」と言われたら、その言葉はDeuさんにとってしっくりきますか? それとも「それは違う」と思う?

Deu 自己犠牲的だと思いますよ。自己犠牲的な曲は恥ずかしいから嫌だと、ずっと思っていたんですけど。結局、そこにたどり着いてしまいました(笑)。

──今の話も含めたうえで改めて、最後の「鈴々」にたどり着く流れの中で、この「星巡り、君に金星」というアルバムはどのような場所に着地するアルバムなのだと思いますか?

Deu 「俺は心が砕けたよ」というメッセージと、それはそれとして、PEOPLE 1を聴いている人にはなるべく幸せになってほしいという思い。「鈴々」は珍しく、リスナーに向けて作った曲でもあります。「俺はもう駄目だけど、みんなは幸せになってくれ」って。

PEOPLE 1

PEOPLE 1

PEOPLE 1が向き合う大衆音楽

──このアルバムがリリースされる頃、PEOPLE 1は「LOVE2」と「僕らのパーティーゲーム」という2つのツアーを同時並行で開催している最中でもありますが、2つのツアーを同時開催することによって、PEOPLE 1というバンドの複雑さや2面性を表現しているという部分はあると思いますか?

Deu 「LOVE2」は“愛”をテーマにした公演なんですけど、基本的にPEOPLE 1は愛のことしか歌っていない。なので、曲に寄り添った方向性であり、PEOPLE 1というバンドとして「こうあるべきだろう」と思う姿を表現するものとして、「LOVE2」というツアーを先に考えていたんです。でも、俺自身はとにかくカルチャーが好きで、音楽が好きだっただけの人間で、そんなに愛とか難しいことをゴチャゴチャ考えていないんですよ。そういうことを踏まえると「LOVE2」だけだと「愛がなくてもいい」ということを表現できないなと思ったんですよね。それで、愛では表現できないものを詰め合わせたのが「僕らのパーティーゲーム」。

──なるほど。

Deu 欠片もエモくないものだってあっていいわけで。俺自身がライブに行くときはひたすら楽しいのが好きだし、感動しに行くわけではないし、そういうライブも大切にしないといけないなと思った。マイノリティのことを歌い続けるとマジョリティが置き去りになってしまうけど、俺にもマジョリティな部分はあるから。そこはそこで切り離すつもりはないということですね。

──裏を返すと、そんなDeuさんでも曲を作るときは愛について書き続けている。それはなぜだと思いますか?

Deu それがなくなると、なんの意味もないから。電気信号の塊でしかなくなるから。愛があることを前提にしていないと、なんのお話もできなくなってしまう。

──2年前の取材でDeuさんは「大衆音楽を作って、バンドはやめる」という旨の発言をされていましたが、そこに関して、今はどのようなお気持ちなんですか?

Deu 大衆音楽は作る気でいますよ。それまでは俺のエゴが邪魔をしていただけで、PEOPLE 1は大衆音楽を作ること自体は得意だなとわかりました。何をやってもOKだし、クオリティを高くする努力をみんながするから中途半端なものにはならない。そのうえで終わらせます。

Ito (笑)。

Deu むしろ「終わろう」とより思いました、このアルバムで。「大衆音楽を作って終ろう」という気持ちが、より明確になりましたね。絶対に叶えようって。

──そこは、より強い思いになったんですね。

Deu 「心が砕けるだろう」と思って始めたことではあったんです。でも、作家としてのプライドはあるし、カルチャーは好きなので。「誰もが見たことがないもの、聴いたことがない曲を作ろう」という意地はある。せっかく絶望している分、曲は書けるわけだから。そこから新しいものを生み出そうという意地があります。

──未来に対して、Itoさんはどうですか?

Ito 非常に難しいんですよね。「PEOPLE 1のIto」として生きていく選択を自分でしたはずなのに、「こう生きていかなければならないのか?」と思う自分もいるし、「自分で選んだのに、なんでこんなに迷うんだろう?」と一歩引いている自分もいる。未来というものが、僕には全然わからないです。ただ、PEOPLE 1が進んで行く過程で、自分なりに「ここはよかったな」と目や耳でわかる成長をしないと、自分は終われないと思っていますね。

──Takeuchiさんは?

Takeuchi 未来かあ……。「closer」「君に金星」「鈴々」あたりは、今Deuくんが思っていること、見ている先、エイムがどこに合っているのかが、なんとなくわかる楽曲たちだと思っていて。心が折れてあきらめて、下は向いていなくても、終わりについてより露骨に考え始めている。そういうことは、如実に伝わってきてはいて。

Ito ははははは。

Deu 「こいつ、やめるな」って?(笑)

Takeuchi でも、それは最初から言っていたことだから。僕も、Itoくんも、Deuくんも、PEOPLE 1がハッピーに終われるようにはしたいです。だから、この先もやることは変わらないのかなと思います。ただ、僕やItoくんが楽しそうに活動していることがDeuくんの幸せの1つになっているのであれば、僕らは全力で楽しむことが、彼に報いることになるのかなと思っています。

──最後に、「星巡り、君に金星」というタイトルに込めた思いを教えてください。

Deu 「星巡り」は、歌詞の中に星がいっぱい出てくるというのもあるし、自分で自分のことを「ちょっと宮沢賢治の『よだかの星』みたいだな」と思うんです。そして「君に金星」という曲が、俺なりの結論。この2年間に対するものという以上に、「PEOPLE」から続くことへの自分の中での結論ですね。

PEOPLE 1

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プロフィール

PEOPLE 1(ピープルワン)

Deu(Vo, G, B, Other)、Takeuchi(Dr)、Ito(Vo, G)からなるバンド。2019年12月に初の音源集「大衆音楽」をリリースして活動を開始すると、ジャンルレスかつ文学的な楽曲と、独創的な世界観を表現したミュージックビデオ / アートワークがインターネット上で注目された。2021年11月に1stフルアルバム「PEOPLE」をリリース。2022年には楽曲「DOGLAND」がアニメ「チェンソーマン」第10話のエンディングテーマに使用され大きな話題に。2023年5月にアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」オープニングテーマを表題曲として収めた「GOLD」を、初のCDシングルとしてリリース。2024年1月には2ndアルバム「星巡り、君に金星」を発表し、初のアリーナ公演を神奈川・ぴあアリーナMMにて行った。