PELICAN FANCLUBが11月7日に新作ミニアルバム「Boys just want to be culture」でKi/oon Musicよりメジャーデビューする。
PELICAN FANCLUBの濃密な世界観が計8曲を通して伝わってくる今作。唯一無二の言葉とサウンドが絡み合う彼らの音楽は、どのような制作過程を経て作られているのか? 音楽ナタリーではメンバー全員に話を聞き、彼らの感性を紐解いた。
取材・文 / 清本千尋 撮影 / 石井小太郎
メジャーデビューにふさわしい名刺代わりの1枚
──PELICAN FANCLUBは、4月にギタリストがバンドを脱退して3人体制になりました。ギターフレーズの印象が強いPELICAN FANCLUBからギタリストが脱退と聞いて、サポートメンバーを入れてやっていくのかと思いきや、そのままスリーピースバンドとして活動していて驚きました。3人体制になったことはバンドにどんな影響を及ぼしましたか?
エンドウアンリ(Vo, G) 今まで4等分だったものが、3等分になって1人ひとりにかかる負荷が大きくなった分、個性は強くなったと思います。それぞれに強い責任感が生まれました。
カミヤマリョウタツ(B) 4人のときは4人でやっと1つのアーティストだった気がするんですが、3人になってそれぞれの個が強くなって、プレイヤーとしての意識が高まったことで、3人のプレイヤーの集合体みたいな感じになったと思います。1人ひとりがプレイヤー然としてきたなと。
シミズヒロフミ(Dr) プレイヤー然としたことで、個々が鳴らす音がバンドとしてのサウンドに対して責任を強く帯びてきたんですよね。それはライブだけじゃなくて、制作の時点から影響していて、今回のアルバムに入っている曲はどれもそれぞれのフレーズが際立つ音作りになっています。アレンジする前から「ここはドラムソロを入れる」とか「ここはベースだけ」とか、それを前提にした構成になっていて、今までのPELICAN FANCLUBの楽曲にないような曲もたくさん生まれました。
──4人時代のPELICAN FANCLUBも素晴らしいバンドでしたが、3人で作った今回のアルバムを聴くと、研ぎ澄まされた感じと言いますか、洗練された印象を受けて。歌詞とメロディがくっきりと伝わってきました。エンドウさんはこのアルバムについて、ご自身のブログで「中学生の頃に問われていた『自分らしさ』を今問われたとしたら迷わずこの作品を突き出すでしょう」とつづっていましたね。
エンドウ はい。迷わずこのアルバムを突き出します。僕はコンプレックスが多くて、自信を持って人に見せられるものってあまり持ってないんです。でもこの作品ができて、胸を張って「自信がある」と言えるものは音楽だって確信を持てた。この自信っていうのは中学生の頃……音楽に目覚めた頃に憧れていた人物像に自分が近付くことができたことも大きいんです。中学時代の自分にこのアルバムを差し出したらきっと、今の僕に憧れの眼差しを向けると思います。
──中学時代のエンドウ少年が憧れていたのはどんな人物像だったんでしょう?
エンドウ 自分に自信を持って、責任を持って音楽を鳴らしている人。3人になって個が強くなって、僕はもっと自分自身に頼ってもいいんだなと思えたんです。ギタリストとボーカリストという2本の柱を自分の中に立てて、しっかりと楽曲の基礎を築くと言うか。それに寄り添う形で2人がリズムを付けて、それぞれの旨味を引き出すようなバランスが今のPELICAN FANCLUBなんだって自信を持てたんです。
──エンドウさん個人としても、バンドとしても自信を持てたんですね。
エンドウ そうですね。今回は「どうしたらこのパートが際立つのか」を引き算で追求していくようになって。「今までのPELICAN FANCLUBとはまた違う新しいPELICAN FANCLUBなんだ」っていう感覚が強い。このアルバムは3人でのリスタートにふさわしい、名刺代わりの1枚になったと自負しています。
初期ナンバー「Telepath Telepath」を入れた理由
──3人で再び出発するこのタイミングにメジャーデビューが重なったことは、バンドにとって追い風になりましたか?(参照:PELICAN FANCLUB、Ki/oonから今秋メジャーデビュー)
エンドウ そうですね。実は環境が変わることによってアウトプットされる内容が今までとは変わって別物になってしまうんじゃないかっていう不安もあったんです。でも自分にとってこの環境の変化はいい意味で自分自身を開放できるきっかけになったんですよね。それがバンドのスタンスや音楽性の開放にもつながった気がします。メンバー1人ひとりが自分が鳴らす音に責任を持って制作することは僕らには合っていたみたいで、個々が自分自身としっかり向き合って探求していくことで、それぞれのスキルが向上してバンドにいい変化をもたらしたんじゃないかって。こういう状態ってバンドとしてけっこう理想形だなと思っています。
──かと言って、過去の作品や活動を否定するわけじゃないですよね。
エンドウ もちろん。今のPELICAN FANCLUBがあるのは「Home Electronics」までの作品を出したPELICAN FANCLUBがあるからなので。いろいろと紆余曲折があって信頼関係が築けたし、それがあったからこそ今作が自信作だと言えるものになったと思います。
──そんな自信作の1曲目は、2013年に発表したデモ音源「pelican fanclub」に収録されていた「Telepath Telepath」を3人で再レコーディングしたバージョンですね。
エンドウ 3人になって今後どういう音楽をやっていこうかと考えているときに、自然な流れで「Telepath Telepath」が挙がったんですよ。今この3人で鳴らしたらカッコよくなるんじゃないかって。最近のライブでもよく演奏していて、気付いたら今の僕らにとってすごく大事な立ち位置の曲になっていたので、このタイミングでちゃんとみんなに聴いてもらいたいなと思い、レコーディングしました。
シミズ スタジオでひさしぶりに合わせてみたときにすごくよかったんだよね。
エンドウ 演奏していてゾクゾクしたよね。
シミズ ゾクゾクした。だからライブでやりつつ音源にも入れたいねっていう話になって。
カミヤマ 3人で既存曲をいろいろ演奏してみたんですけど、3人編成でそのままは演奏できないからリアレンジしようっていうパターンと、むしろこれはこのまま行ったほうがグルーヴ感が出るなっていうパターンがあって。「Telepath Telepath」は少しアレンジは加えましたけど、大きな変更はなくほぼそのままです。自然とハマったんですよね。
エンドウ あとシミくんが加入した2015年によくライブでやっていた曲だから、僕らの原点に帰るような気持ちがあったんでしょうね。スタートラインに立つと言うか。
シミズ 当時は今と同じでエンドウから自然に生まれてきたものをやっていたから、今の俺らがやりたいこととマッチしたんだと思う。歌が際立って、ギターのフレーズが耳に残ると言うか。今この3人で演奏したときに、当時とはまた違う新しいグルーヴが生まれたよね。
カミヤマ 色褪せない曲だからね。これが好きなら今の僕らを好きになってもらえると思うし。
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