ナタリー PowerPush - パスピエ

これぞ「幕の内ISM」、コミック&お笑い異世界のあの人と邂逅

大胡田なつき×魚喃キリコ対談

曲を聴いている間は、聴き手をその場所に閉じ込めてしまいたい

魚喃 なつきさんはパスピエで詞を書かれてますが、それはどういうところから生まれてくるの?

大胡田なつきが描いた「幕の内ISM」アートワーク。

大胡田 これ、最近思ったことなんですけど、私にとって表現するってことは、ずっと外に出したいと思っていて、なかなか出すことができなかった昔の自分を、外の世界に出すことかもしれないなって。昔の自分を外の世界で歩かせてみて、周りがどんな反応してくれるのかを見てみたいっていう。あとは、自分から見えている景色みたいなのものを、一瞬でいいから、聴いてくれる人と一緒に見たいというか。曲を聴いている間だけでも、聴き手をその場所に閉じ込めてしまいたい。だから、けっこう自分勝手なところがあるかもしれないですね。

魚喃 パスピエを聴いて思ったのは、なつきさんの書く言葉って、すごく視覚的な描写力があるなって思ったの。「炎天下」って歌ったら、本当に目がチカチカするような真夏の緑が浮かんだり、カゲロウが見えたりとか。たった一言で、そういうものまで目に浮かんでくる。

大胡田 パスピエは、曲ができてから歌詞を書いてるんですけど。

魚喃 え!? そんな難しいことしてるの!?

大胡田 えっ? 難しいですか?

魚喃 ごめん、「難しいこと」とか言われると困っちゃうよね(笑)。でも私、絶対に逆だと思ってたの。変拍子とかがいっぱいあるから、絶対歌詞が先で、あとから曲で、だから早口なところもあればゆっくりなところもあるのかなって。そっか、曲が先だったのね。

大胡田 景色とか視覚的な描写が多いのも、自分が曲を聴いて、そこから浮かんでくるものがまず色とかなんですね。だからなのかなって。キリコさんは、音楽とか、映画とか、絵とか、小説とかから刺激を受けてマンガを描いたりもするんですか?

魚喃キリコ「blue」のワンシーン。 (c)魚喃キリコ / 祥伝社フィールコミックス

魚喃 私がバリバリ毎日のように作品を描いてたときは、音楽は聴いてたけど、映画とか、人の絵とか、小説とか、そういうものは一切見なかった。見ないようにしてました。なぜかというと、無意識にパクったらヤバいから。それを自分の勘違いで、自分が生んだものとして形にしたら、自分が知らない間にパクってることになるからね。だから、そうならないように本当に映画とか観ないようにしてて。唯一、音楽だけを聴いてました。ストーリーを考えるときと絵を書くときって、音楽が一番それと関係ないじゃないですか。だから音楽はいっぱい聴いてた。

自分の声は好きですか?

──どういう音楽を聴くことが多かったんですか?

魚喃 自分が高校の頃、ちょうどニューウェイブの時代だったんですよ。有頂天とかのナゴム(レコード)ものが好きで。それで東京に来たら、東京っ子たちはみんなもっとオシャレな音楽を聴いてて。そこでスカとか、レゲエとか、古いソウルとかR&Bとかにダーッと入っていった感じ?

──じゃあ、リアルタイムで流行っていた洋楽邦楽というよりは、もっと幅広く、過去ものを掘っていた感じですか?

魚喃キリコ「strawberry shortcakes」

魚喃 うん。当時、自分の周りでは、70年代がブームだったんですね。クラブというのができ始めた時代で。まだクラブ(語尾上げる)っていう発音じゃなくて、クラブ(語尾下げる)って言ってる時代だったから(笑)。そういうクラブに行くと、だいたいレゲエとかスカが流れてたりね。そこに、ちょっとモッズっぽい服を着た人が集まったりしてて。服装も音楽も、60年代後半から70年代がブームだった。ちなみに、なつきさんはどういう音楽が好きなの?

大胡田 好きなアーティストとしてよく名前を挙げるのは、小川美潮さんとか、あとフランスのAirっていうグループとか。あと、バンドを始めた頃に一番憧れていたバンドはNUMBER GIRLでしたね。

魚喃 それは日本のバンド?

大胡田 はい、日本です。

魚喃 ロックですか?

大胡田 はい、ロックです。

魚喃 打ち込みはあり?

大胡田 打ち込みはないですね。

──魚喃さんって、90年代後半から2000年代にかけてロック好きの女の子にもすごく支持されていた印象があるんですけど、当時の日本のバンドには疎いのが意外というか、新鮮な発見なんですけど(笑)。

魚喃 疎いというか、あまり固有名詞で覚えないんですよ。周りはバンドをやってる友達ばっかりだったんですけどね(笑)。当時遊んでた友達は、だいたいバンドをやってるか、芝居をやってるか。周りでバンドをやってる男友達は、ロックの香りがムンムンしてるような感じの人が多くて、だから今回パスピエの音楽を聴かせてもらったときは、こんなかわいいロックがあるんだって思った。だから最初は、ちょっとくすぐったい、むずがゆくて、恥ずかしいような感じがしたんだけど、何度も聴いてるうちにそこにカッコよさを見出してきて。だって、あれだけすごい演奏をしてる後ろの男の方たちの音の中で、なつきさんはかわいい声で歌ってる。それってすごい度胸だなと思って。この人はカッコいいんだなって思った。ちなみにね、今回のアルバム「幕の内ISM」で好きなのは、さっき言った「炎天下」が出てくる「とおりゃんせ」と、その次の「MATATABISTEP」。あと、前のアルバムでは「フィーバー」が好き。

大胡田 そんなに聴き込んでいただいて、本当にありがとうございます。

魚喃 それとね、これは聴いてるときに思ったんじゃなくて、外で自転車漕いでるときにふと思ったんだけど、なつきさんがいつか親になったら、いいママになるだろうなあって。

大胡田 そうですか?(笑)

魚喃 だって、物語を作って、そのキレイな声で語り聞かせそうな。そんなことを思ったりした。

大胡田 楽しみですけど。

魚喃 自分の声は好きですか?

大胡田なつきが描いた「幕の内ISM」アートワーク。

大胡田 バンドをやり始めた頃はあまり好きじゃなかったんです、自分の声が。自分の好きだったバンドが、ちょっとシャウトとか入ってる男性ボーカルのバンドだったので。でも、私はそういう声があんまり出せないんですよね。練習したりはしたけれど、もとが違いすぎて合わないから。だから、この歌い方になったのは、リーダーの成田(ハネダ)になんとか説得されて、いろいろ騙されてみたいなところがあります(笑)。

魚喃 なんでそれを聞いたかって言ったら、私は自分の声にコンプレックスを持っていて。すっかり大人になった今は自分の声の低さが年齢に合ってるなって思うけど、10代とか20代の頃って自分の年齢と声が合ってなくて、もっとかわいい声になりたいって思ってて。で、目指していた声が、まんまなつきさんの声なのね。私の憧れのものを生まれながらに持ってる人って、自分の声のことをどう思うのかなって思って。

大胡田 だけど、私はキリコさんみたいな声に憧れちゃいますね。ないものねだりなのかもしれないけれど。しゃべっていて心地がいいっていうか、長い間ずっとしゃべっていられそうだなっていうか。

魚喃 そっか。じゃあ、両思いですね(笑)。

大胡田 うれしい!

魚喃 音楽の人に声のこと言われるとうれしい(笑)。私、パスピエの歌を歌おうと思ってちょっとハミングしてみたんですよ、聴きながら。でも、声が違いすぎて全然歌えなかった(笑)。それに、すごく難しくて、半音上がりとか急に下がるとか、かなり音感よくないとできない歌だなって気付いて。なつきさんは、かなり歌が上手ですよね。あの高い声をあんなに透き通って出せるってすごいし、たまに出す低い声も、きちんと怖く響いてきてすごい。

大胡田 ありがとうございます。私、あんまり自分の歌について語ったりしないんですけど、パスピエに入って音楽をやるって決めたときに、自分の声を受け止めなきゃって気持ちになって、けっこう練習しました。まだまだ先は長いですけど。自分が努力してたとか、あまり言いたくなかったんで言ったことなかったんですけど。うーん……やっぱり、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。

魚喃 余裕かましてやってるみたいな感じにしておきたい?

大胡田 小さい頃からそういうところがありました。キリコさんもそういうところがあったりします?

魚喃 いや、私は正直に、自分の弱い部分も含めてそのまんまでいるつもりなんだけど。声が低いせいもあるのかな。周りからは超絶余裕に見られちゃう(笑)。

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大胡田なつき×魚喃キリコ対談
成田ハネダ×うしろシティ対談
パスピエインタビュー
2ndフルアルバム「幕の内ISM」 / 2014年6月18日発売 / unBORDE
2ndフルアルバム「幕の内ISM」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3000円 / WPZL-30860~1
通常盤 [CD] / 2484円 / WPCL-11854
幕の内盤(DISC 1)
  1. YES/NO
  2. トーキョーシティ・アンダーグラウンド
  3. 七色の少年
  4. あの青と青と青
  5. ノルマンディー
  6. 世紀末ガール
  7. とおりゃんせ
  8. MATATABISTEP
  9. アジアン
  10. 誰?
  11. わすれもの
  12. 瞑想
幕の外盤(DISC 2)※初回限定盤のみ

パスピエ TOUR 2013 “印象・日の出外伝” at AKASAKA BLITZ (2013.12.21)

  1. OPENING ~ S.S
  2. デモクラシークレット
  3. トロイメライ
  4. 名前のない鳥
  5. とおりゃんせ
  6. フィーバー
パスピエ

パスピエ

2009年に成田ハネダを中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田ハネダ(Key)、三澤勝洸(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)の5名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定で発表。2011年に1stミニアルバム「わたし開花したわ」、2012年に2ndミニアルバム「ONOMIMONO」をリリースし、卓越した音楽理論とテクニック、ポップセンスで音楽ファンの話題をさらう。2013年3月に初のシングル「フィーバー」、6月にメジャー1stフルアルバム「演出家出演」を発表し、その後数々の大型ロックフェスに出演。また東阪で行われたパスピエ主催によるイベント「印象A」「印象B」や初のワンマンツアーも全公演ソールドアウト。2014年は3月に両A面シングル「MATATABISTEP / あの青と青と青」、6月に2ndフルアルバム「幕の内ISM」をリリースした。

魚喃キリコ(ナナナンキリコ)

魚喃キリコ

1972年新潟県生まれ。1993年、月刊漫画ガロ(青林堂)に「hole」が掲載されデビュー。必要最小限のネームで作品を構成するクールな作風で人気を博す。代表作に「blue」「Strawberry shortcakes」があり、両作は実写映画化に至るヒットを記録している。1998年、Hanako(マガジンハウス)にて連載されていた「ハルチン」の単行本が刊行され、2008年には同作の未刊行分をまとめた「ハルチン2」が祥伝社より刊行された。またフランス語圏での人気も高く、2008年には現地の美術賞を受賞。翌年のアングレーム国際漫画祭では「魚喃キリコ展」も開催された。マンガ家としての活動以外に、NHKラジオ第1放送で2008年まで放送された番組「土曜の夜はケータイ短歌」にて、ふかわりょうとMCを務めていた経験を持つ。


2014年6月26日更新