今年は「負けない」ことが重要

──今回の「幕の内ISM」というアルバムは、前作「演出家出演」と方向性は違うものの、この1年間でついた新しいファンを振り落とすような作品ではないと思うんです。それに加えて、今回はこの国のポップスの王道的なエッセンスも詰まっている。大胡田さんの声も唯一無二のものだし、バンドのメンバー同士の関係性も良好だし、もう「最強じゃん」っていう話なんですけど（笑）。今のバンドの状況を、成田さんはどのように捉えてますか？

成田　なんというか、まだ身を固めたくないんですよね（笑）。もっと遊んでたいというか。こう言うと、強がりにとられてしまうかもしれないけど、今はとにかく常にいい曲を発信し続けていきたくて。それは裏を返すと、いわゆるリード的な曲をあまり作りたくないんですよ。アルバムの中で1つの曲だけが「この曲がいい！」みたいな感じになってほしくないというか。

──キラーチューンを作らないようにしたいって、すごく贅沢な課題ですね（笑）。

成田　そういう曲を作ればいいじゃんっていう意見もあると思うんですけど、それができてしまうと、それに一生付きまとわれてしまうんじゃないかって。バンドを続けている以上は常に進化し続けていたいから。

──今でも、ライブでイントロが流れただけでオーディエンスが沸く曲がありますけど、それを次から次へと更新していきたいということですね？

成田　そうですそうです。去年の1年間は、僕らにとって「勝ちにいった年」「勝負に出た年」だと思っていて。でも、今年は「負けない」ことが重要かなって思っていて。

──これはまた、誤解を呼びそうな発言ですが（笑）。

成田　いや、えっと（笑）。去年いろんなフェスに出てみて、一番大きなステージでやってるバンドとそうじゃないバンドの差ってなんだろうなって思ったときに、大きいステージでやってるバンドというのは、どういう人から見られても「負けない」バンドなんだろうなって思ったんですよ。

──なるほど。

成田　バンドって、規模が広がっていくとノーガードな部分も多いぞと思って。そういう意味でも、今回のアルバムでは自分たちのポップな面をかなり広げてみたので、負けないライブアクトになりたいなって。誰が見ても「ああ、なるほど」ってなるようなバンドになりたいなって思うんですよね。

──いやー、面白いなあ。でも作品でいうなら、パスピエにとっての本当の勝負作は、ここまで名前を知られるようになってから初めて出すアルバムとなる、今回の「幕の内ISM」だと思うんですよ。

成田　うん。盤としてはこれですね。

──リスナーの中には、「パスピエ変わったな」っていう人もいるかもしれない。

成田　というか、むしろそう言われ続けることが理想です（笑）。