歳を取ったら消えちゃう感覚に、すがりつきたい気持ち
──結成時の話を聞く限り、当初は2人共「音楽を通して表現したいもの」みたいなことは特に考えていなかったのかなと思うんですが。
西山 そうですね(笑)。
──もう結成して何年か経った今、自分たちの中に「音楽を通して表現したいもの」は何か生まれましたか?
西山 “日常の隣にある非日常”を音楽で表現できたらなって思っていて。前のアルバムも今回のアルバムも、それが全体のベースにあるんです。1stアルバムのジャケット写真は熱海の海に面したジョナサンなんですけど、あそこは観光地だから夜になると真っ暗になって、あの1店舗だけがキラキラ光ってるんです。ファミレスって生活感の象徴みたいなものなのに、そういう非日常感と隣り合わせになっている店で。それがすごく魅力的に感じて、音楽もそういうものにしたいと思っていました。
柴田 身近にあるものの面白さって重要だよね。
西山 今回のアルバムは、前作以上に強く日常と地続きになった風景をイメージしています。「Night Flow」は夕方から朝方までの時間の流れを表現したアルバムなんですけど、夜って、昼間だったら通り過ぎてしまうような些細なものが特別に見える瞬間がある気がするんですよ。信号が赤から青に切り替わる瞬間とか、団地の中で1軒だけ光が点いている窓とか、なんでもないものがすごく感傷的に見えたりする。「普通のものを特別に感じる時間」というのは、言い換えればこれも前作と同じ「日常の隣にある非日常」ですよね。
──確かにそうですね。
西山 夜をテーマにすることにしたときに、クラブにみんなで集まって音楽を聴きながら朝までにぎやかに過ごす夜もあると思うんですけど、自分たちが音楽で表現したいのはそういう夜じゃなくて、住宅街で深夜にちょっと近所のコンビニに買い物に行く時間だと思ったんです。
柴田 僕らは大阪に住んでるんですけど、難波の中心部に近いところではなくて端っこのほうだから、友達と夜に集まって「チャリでどっか行こうぜ」みたいなことを言ってたときに見てた景色って、本当になんてことない住宅街なんですよ。であればそういう風景を曲にするべきだと思って。ジャケットも今回は、熱海のジョナサンのような記号性があるものじゃなくて、どこでもある住宅街の景色にしようって。
──日常にこだわるのはなぜですか?
柴田 例えば、深夜に自動販売機が光ってるだけで変に高揚したりするのも、たぶん若いうちだけのことで、歳を取ったら消えちゃう感覚なんじゃないかなって。それにすがりつきたい気持ちがあるんですよね。
長谷川白紙くんとは置かれてる状況がちょっと似てる
──今回のアルバムに参加したゲストについても話を聞かせてください。「reiji no machi」と「Time to renew」を歌っているイノウエワラビさんは、前作に収録された「Inner Blue」でもボーカルを務めていますが、この方は歌手ではないんですよね?
西山 イラストレーターが本業ですね。地元が近くてもともと知り合いだったんですけど……。
柴田 Instagramにね。
西山 そうそう、彼女が自分で作ったトラックの上で歌った音源をInstagramにアップしてて。それがすごくよくてお声掛けしたんです。イノウエさんの歌のいいところは、感情が必要以上に込もってないところで。声質もフラットだから、何を思いながら歌ってるのか明確に見えないというか。
柴田 “シンガーじゃない”というのが重要ですね。
西山 そうですね。シンガーの方にお願いすると、どうしてもその人が持つキャラクターや、歌っているときの感情が声に乗ると思うんです。けど、自分たちが今回作った曲は夜の街を歩いたときの風景描写とその淡々とした気持ちなので、「この歌を聴いたらこういう気持ちになりますよね?」みたいなことをリスナーに押し付けたくなくて。でも彼女、なんかカラオケに行ったら普通にエモーショナルな曲を歌うらしいんですよね。たぶん僕たちの曲を歌うときは、そういう歌だというのを理解してくれて、感情をフラットにした声を出してくれてるんだと思います。
──「Yukue」を歌っているunmoさんはどんな人なんですか?
柴田 beef fantasyさんっていう方がいらっしゃいまして。
西山 ネットベースで活動している、DTMで曲を作ってるシンガーなんですけど。
柴田 その人の曲にボーカルとして参加してたんですよね。
西山 あと、Local VisionsっていうネットレーベルからリリースしてるTsudio Studioさんと“her”というユニットを組んでらっしゃたりとか、インターネット上でunmoさんの名前を聞くことが増えていて。
柴田 unmoさんの声って、ウィスパーっぽいけど芯があるんですよ。だからささやき声なのに幼くならずに大人な感じがして。夜をテーマにアルバムを作るときに、儚さと寄り添うような優しさを持ち合わせた声が欲しかったので、unmoさんを指名させていただきました。
──そしてラストの「hikari」を歌っている長谷川白紙さん。彼とは以前から付き合いがあったんですよね?
柴田 インターネットでコンピレーションアルバムを作る「FOGPAK」っていう企画があって、僕たちはそこで長谷川白紙くんが2016年頃に出した音源を聴いて「なんかめっちゃヤバいやついるやん」とか言ってたんです。そしたら彼も僕たちの曲をSoundCloudで聴いてくれていたらしく、僕たちが初めて東京でライブをしたときに観に来てくれて。それ以来、イベントで会ったときに話したりTwitterとかでやりとりするようになりました。
西山 音楽性に共通項が多いわけではないんですけど、どちらも始まりはインターネットでの活動だったこととか、世代的な面で近い部分があるんですよ。
柴田 置かれてる状況がちょっと似てるんよね、たぶん。
西山 だから聴いてくれてるお客さんの層も共通している気がするし。
柴田 彼の場合は別にインターネットの力がなくても全然上に行ける人だと思うんですけどね。たまたま出発点が一緒だったことで、僕たちは今回みたいなコラボも気軽にできる仲になれたのかなと思います。
──コラボをやってみてどうでした?
柴田 彼の声のよさが改めてわかりました。彼の音楽を聴いているとき、コードだったりリズムだったりに耳の興味を引かれてたんですが、実は声も飛びぬけていいんじゃないかと思って。本人はどちらかというと自分の生の声がそんなに好きじゃないみたいなんですが、めっちゃいい声ですよね。
海外の人がこれを聴いたらどう感じるんだろうか
──今後パソコン音楽クラブとして、どういう活動をしていきたいと考えていますか?
柴田 「部活的な活動でありたい」というのはあります。
西山 「この人のアーティスト性はこういうものです」というのに縛られてしまうと、それとはまったく違う別のものを作りたくなったときに、名義を変えなきゃいけなかったりすることもあると思うんですけど、部活みたいな姿勢で活動ができれば……。
柴田 気が楽というか(笑)。たぶん、自分がやりたいことってその時々で変わると思うので、それに対して「別に何をやってもいいだろう」と思えるような、自分が創作に対してフラットでいられる状態で活動していきたいです。
西山 今まで通り、「自分が作りたいものを作る」ということを今後も続けていけるんじゃないかなと思ってるんです。ただ、作った曲をいろんな人に聴いてもらえるのはうれしいので、例えば「海外の人がこれを聴いたらどう感じるんだろうか」と思うことはあって。
──確かに、パソコン音楽クラブの曲からリスナーが受け取るイメージはすごく日本的な郷愁だと思うので、別の国の人がこれを聴いたときに、日本人と同じような感じ方はしないかもしれませんね。
柴田 どう思われるかよくわかんないですよね(笑)。
──とはいえ、ヴェイパーウェイブやフューチャーファンクが海外で人気なのであれば、このアルバムも同じように面白がられるだろうなという気がします。
西山 あんまり海外にある音楽ではないとは思うので、どう受け取ってもらえるのかなという興味はあります。そういうことも含めて、いろんな人にちょっとずつこの音楽が広がっていったらなと思ってます。
ライブ情報
- パソコン音楽クラブ「"Night Flow" Release Party」
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2019年9月7日(土)大阪府 Socore Factory
OPEN 17:00 / START 18:00<出演者> パソコン音楽クラブ / 長谷川白紙 -
2019年10月12日(土)京都府 METRO
OPEN・START 22:00<出演者> パソコン音楽クラブ / 寺田創一(House Set) / seaketa / SEKITOVA / ©ool Japan / Stones Taro(NC4K) -
2019年10月26日(土)東京都 WWW
OPEN 17:00 / START 17:30<出演者> パソコン音楽クラブ / 長谷川白紙
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2019年9月7日(土)大阪府 Socore Factory