Oval|個性×3のバンド力で完成した“究極の9曲”

オーダー通りです

関口シンゴ(G)

──皆さんが作るデモは、かなり細かいところまで決め込んだ完成に近いものを制作して共有されるんですか?

関口 わりとデモから大きく変わらないよね。

Suzukimabanua うん。

mabanua 僕はニュアンスにすごくこだわっています。「Dark Gold」にトランペットとかホーンを入れてもらったんですけど、クレッシェンドしていく感じとか、ちょっとビブラートになる瞬間みたいなものも全部打ち込んで。その通りに吹いてくれないとちょっと納得いかないみたいな(笑)。

関口 細かいところだよね。

mabanua そうそう。音が“パー”なのか“ッパー”なのかみたいな違い。それってなかなかスタジオミュージシャンの人に頼んでも、すぐにはできない部分というか。だから類家(心平)さんとか栗原(健)さんとか、僕らの好みをよく知っている人にお願いすることが多くて。譜面通りかつ、デモ通りのニュアンスを同時に再現してくれる。デモをそのままのニュアンスで差し替えていく作業みたいなのが、僕の場合のレコーディング法なんです。

──とあるバンドは、1人のコンポーザーが作ったデモ曲をメンバーが再現するという過程がOvallと一緒なんですが、肉体的にぎりぎり追いつけないぐらいのフレーズを入れていくらしいです。

mabanua Ovallは肉体的に追いつけないみたいなフレーズはないかな。

Suzuki 僕らはいかにポケットがあって、ユニークなグルーヴがあるかというタイプの音楽だから、むしろそのグルーヴが演奏できるかどうかのほうが大きい。肉体的な限界というよりはノリの限界を目指しているというか。

mabanua 全然YouTuber向きではないよね(笑)。僕らの演奏で「チャンネル登録よろしくね」って言えない(笑)。

──(笑)。関口さんが激しいギターソロを弾いている曲もありますよね。そこはある程度アドリブで弾いているんでしょうか?

関口 あれはmabanuaデモの曲で、最後のソロはファズを使うことまで決まっていたよね。

mabanua スウェディッシュポップみたいな潰れたファズのギターを入れてほしいと話して、それをそのまま弾いてもらっています(笑)。

関口 そういうときも「こういう音色を狙っているんだろうな」とか「これ以上弾きすぎないようにしよう」という塩梅においては阿吽の呼吸がありますね。頼み方は明確なんだけど、たぶん違う人が演奏したら全然違うものになるし、そのあたりの共通認識が濃くなってきているのかなと思いました。2テイクくらいしか録っていないし。

──てっきりそういうところは個々人のプレイヤーの色を出しているのかと思いました。

関口 オーダー通りです(笑)。

──そうなんですね(笑)。3人共作曲をされますが、アルバム収録曲の選定バランスはどうやって決まるんですか?

Suzuki 今作ではみんながインストを強めにしたいという気持ちになっていて。僕とセッキーは歌モノ方向に寄っちゃう傾向があるんですけど、インストは山ちゃんがいい感じの曲を作ってくれるんです。それぞれストックは出し合ったんですけど、僕のはボーカルが乗ることで完成しそうな曲が多くて。

関口 けっこうあったよね。ボーカルが乗ればよさそうっていう曲が(笑)。

Suzuki ただ今回のアルバムはバンド力というか、原点に立ち返るというコンセプトだったので、インストで強く見せたいよねという話になって。

mabanua 制作の途中で話したんです。このままいくとフィーチャリングゲストに頼らざるを得なくなるって。もともとOvallってインストバンドで始まったということもあるし、ライブを想定したときに、ボーカルをどうしようという話にもなるだろうし。

迷いのない音

Shingo Suzuki(B)

──そういう意味でも、セルフタイトルにしたと言えるわけですね。

Suzuki 主張するべき単語がないと言えばないというか。インストだったから抽象的にもなってくるし、これって素直に僕らですよねって言える作品だなと。あとは聴く人に委ねたいという気持ちもありました。それならセルフタイトルにしたほうが想像力が豊かに働くんじゃないかって。

mabanua 特に言葉として伝えたいタイトルがなかったんですよね。

Suzuki 世の中に対して、強く主張したい言葉というのは正直ないかもしれない。むしろ純粋に音楽を楽しんでほしい。ピュアに僕らの音楽というものを表したときに一番腑に落ちるというか。だからアーティスト写真もジャケットもモノクロで統一したシンプルなものにしました。世の中が派手な感じのトレンドの中で、こうしてシンプルにいける歳になったかなと。

mabanua 最初の話に出た「良い音とは何か」というのも、精神的なことで言うと“迷いのない音”みたいなことだと思っていて。音質がよくても、いい楽器を使っていても、ミュージシャン同士で「あー、ちょっと今あいつの演奏悩んでいるよね」というのはすごくわかるんです。迷いのない音を追求したというのもセルフタイトルの由来なのかなと思います。

関口 よくフィギュアスケートとかで、すごい人の演技のことを「指先まで神経が行き届いている」みたいに表現しますよね。スタジオで本当に聴こえないぐらいの低音の帯域まで意図してコントロールしているかどうかが、いい音かどうかの部分につながってくる。そこまでちゃんとわかったうえで「こうしたいから、こうしていますよ」とできているのがいい音なのかなという気がします。

mabanua 機材に300万円出していい音にしましたという意味とは違います(笑)。

関口 高音質とはまた意味合いが違ってくるからね。別にチープな楽器でも、狙ってその音だったらいい音だと思うし。ファズで潰したギターの音もチープな音だけど、それが狙いとしてあるから、結果的にアンサンブルの中でいい音になっているのかなって。


2019年12月4日更新