大友良英|音楽だけでも成立する劇伴、“大きく包み込む音楽”でドラマを盛り上げる

現場がグルーヴしてくる

──この取材をさせていただいている7月中旬現在、ドラマもまた面白くなってきていますね。

大友良英

うんうん。前半とはまた違う意味で素晴らしくなっていると自負してます。宮藤(官九郎)さんの脚本ってハードルの高い脚本だと思うんだけど、ようやくそれを乗りこなせるようになってきた感じかなあ。前半は脚本をどう映像にしていくかがポイントだったと思うけど、だんだんと監督たちも乗りこなし方が見えてきて、より遊べるというか深いところまで切り込んで来るようになったなって感じてます。人見絹枝の回とか、この先ある2・26の回とかすごいですよ。いだてん独特のグルーヴをし出した感じがしました。ドラマがうまくいってると、回を重ねるごとにどんどん現場がグルーヴしてくるんだけど、それが始まり出した感じがしてます。最初はてんやわんやで大変だったし、なによりこの規模にみんな慣れるまで時間がかかった感じがしてます。いつもはもっと小さい規模でやっている人たちだから(笑)。

──普段はオルタナティブな世界の人たちが。

そうそう(笑)。オルタナティブな人たちが、オルタナティブじゃない規模でやることになったわけだけど、そのサイズ感を乗りこなせるようになって、どんどんとグルーヴしてきた感じがする。

「ニュー・シネマ・パラダイス作戦」の発明

──「あまちゃん」は音楽劇と言っても過言ではないドラマでしたけど、「いだてん」はそういう打ち出しもなく。とはいえ、すごく音楽的な何かを感じさせます。

ただでさえ難しい脚本だから、音楽をうまく付けないと非常にわかりにくくなるかな、と思いました。とにかく、“大きく包むように”しなきゃ観にくくなるかなって。あのドラマ、カットアップ的にシーンがどんどん切り替わっていくし、しかも1960年代になってみたり、明治や大正になってみたり、いろいろな時代に行ったり来たりするような感じなので、そこをどう考えるか、悩みましたよ。

──そうですね。

それに合わせていちいち音楽もガンガン変えていくと、相当わかりにくくなっていくぞ、と。だから、シーンがどう変わろうが曲はドーンと通して付けないと、作品全体の雰囲気やムードを出せなくなってしまう。ただその雰囲気の付け方は難しいなって思いました。今回ドラマの音響チームが発明してくれたなと思ってることがあるんです。例えばものすごくグッとくるシーンがあるとして、でもそのシーンが30秒しかないと。だとしたら、そのシーンで着地するような音楽をその前のシーンから付けるんです。例えその前のシーンが全然違うものであれ、ね。そうすると最初は「なんでこのシーンにこの音楽が付いているんだろう?」と思ってしまうかもしれないけど、気付くとちゃんと着地しているので、前のシーンとグッとくるシーンがちゃんと連なって見えるという。そういうことに音響チームも演出チームも気付いてやってくれたおかげで音楽が生きてくれているんだと思います。だから音楽はいろいろな理屈は置いておいて、とりあえず泣けるものとか、盛り上がるものとかを用意しておく、っていう。俺はそれを「ニュー・シネマ・パラダイス作戦」って勝手に呼んでいるんだけど(笑)。

──シーンのつながりを一旦置いておいて、曲を考えていったんですね。

大友良英

通常のドラマに比べて難易度がはるかに高くなっているような気がしたんで、逆に音楽はそのハードルをグッと下げるのが役割の1つかな、と。ものすごくいいドラマですから、ある程度間口を広くするように意識しました。それと、安易に結論付けるような曲は作らないこと。単純に曲として聴いてもすごくいいというくらいのクオリティを持たせないと、このドラマには対応できないっていうか。ドラマ自体の強度がすごく強くて、濃いのでそれを殺さないようにって思いました。

──改めてドラマのラストに向かって、音楽の方向性はどのようにイメージされていますか?

今まさに、具体的に譜面を書いているところ。金栗編から田畑編になるときにガンッと変わったでしょ? 最後はその2つが大きく混ざったものになる、そんなふうに感じました。時代はどんどん現代に近くなる。近くなるったって今から50年も60年も前だけど、俺がもう生まれた頃の話になっていく。そこにどう持っていくかを考えています。もしかしたら前編のようなものになるかもしれないし、だけど時代ははるかに進んでいるし……まあこれからですね。ちなみに脚本はほぼ確定しましたよ。「最終回、これかー!」って感じになっています。さすが宮藤さん、あとは言えません(笑)。

──まだ終わっていない中でこの質問も変かもしれませんが、大友さん、今回のプロジェクトはいかがでした?

足かけ3年でしたから、中学校に入学して、卒業するまでですよね。すでに寂しくなってます。最終回の本とか「終わらないで!」って思いながら読んでるもん。寂しさは朝ドラ以上です。普通のワンクールのドラマだと、録音は1回、せいぜい2日で終わる。ま、曲を提供して終わる感じです。それでさえ作曲にいたるまでには本を読み込んだり撮影現場を見たり映像を観ながらいろいろ時間をかけますが、大河は準備に2年近くかけた上に、撮影が始まってからもコラボし続けますから。だから本当に寂しいです。

──このドラマが終わると、世の中的にはいよいよ「2020年東京オリンピック」への機運が高まっていくんでしょうね。

まあ自分的にはそうはならないので(笑)、「いだてん」が終わったらもう俺の中でオリンピックは終わりかなあ。“ノイズオリンピック”的なイベントをやりたい、みたいなしょうもないアイデアはあるんだけどね(笑)。

──ははは(笑)。それもよさそうです。それともし実現したら、サントラの完結編も楽しみです。

作りたいなあ。あ、そういえばね、この作品のジャケは横尾忠則さんのデザインなんですけど、これも大好きなんです。自分が出してきたこれまでの作品の中でも特に好きなジャケ。まったく大河ドラマっぽくなくて、まるで清涼飲料水の広告(笑)。もう横尾さん本当に最高です。

──一般的にイメージされる大河ドラマっぽさはないですよね(笑)。

でしょ? 本当にカッコよすぎます。横尾さん、俺の子供の頃から「これはこうでしょ」って期待をいつも裏切ってくる。今回も、かつて横尾さんが作っていた状況劇場のポスターのようなコラージュみたいなものになるのかなと思ってたら裏切られて。どんどん踏み込んでくる勇気というか、捨てっぷりというか……これ、大河感ゼロだもんね。このジャケに比べたら、俺の音楽なんてまだ大河感が2、3割は残っちゃってる(笑)。いやあ、横尾さん本当にカッコいいな。