新しいオレンジスパイニクラブを象徴する1曲

──ここからは収録曲について具体的に聞かせてください。まずは1曲目の「ルージュ」。軽やかで、新鮮味のある曲ですね。

ナオト　平成初期っぽさがありますよね。この雰囲気は僕が作ったデモの段階からあって、トオミさんにデモをお渡ししたときにも「スクラッチを入れたいです」と伝えました。今回のアルバムは「オレンジスパイニクラブらしさ」を意識しながら作った曲が多いんですよ。さっきも話したように、「オレンジスパイニクラブのよさを伝えたい」という気持ちが強かったので。だけどこの曲ではそういうことを意識せず、自分たちの好きなように、好きな音楽を作ろうと思いました。その結果、今までの自分たちとは違う曲ができたので、新しいオレンジスパイニクラブを象徴する曲としてアルバムの1曲目にしました。

──デモの時点で新しさのある曲だったんですね。ナオトさんからこの曲を受け取ったとき、ほかのメンバーの皆さんはどう思いましたか？

ゆりと　僕はリズムがタイトな曲が好きなので、「好きなことができる曲、来た！」って思いました。

──ユウスケさんはいかがですか？ Dメロはキーがかなり高いですし、ボーカリストにとっては今までより広い音域を求められる曲かと思います。

ユウスケ　確かにDメロは苦労しましたけど、この曲もトオミさんがレコーディングに立ち会ってくれたから歌録りはわりと早く終わったし……キーが高いこと自体はそんなにって感じですね。

ゆっきー　ナオトのいいところは、新しさを恐れないことなんですよ。「これをやったらオレスパっぽくなくなるんじゃないか」という壁が俺らよりもちょっと薄い気がしていて。だからこういう曲を書いてくるのもわかるというか、新鮮でめっちゃいいなと思いました。「ルージュ」はアルバムリリースの発表直後に配信した曲なんですけど、「どの曲を配信しようか」という話し合いを始めてからわりとすぐに「ルージュ」に決まった覚えがあります。ナオトも言っていたように、新しいオレスパを象徴する曲なので。

初めて兄弟で共作した「Crop」

──表題曲の「Crop」は作詞がユウスケさん、作曲がナオトさんという初の共作曲です。なぜこのタイミングで共作を？

ナオト　今までは共作を避けてきたんですよ。というのも、僕は自分の曲は作詞も作曲も自分でやりたいという気持ちが強かったし、たぶん、ユウスケもそうなので。だけどアルバムを作るにあたり、どうしても行き詰まってきちゃって、これはもう仲よくやろうと（笑）。

ユウスケ　（笑）。12年くらいこのバンドやってますけど、一緒に曲を書いたのは本当に初めてなんですよ。

ゆりと　だから激熱コラボですよね。「NARUTO」で言うと、ナルトの螺旋丸とサスケの千鳥の合体技のような。

ユウスケ　普通同じバンド内でコラボとは言わないんだよ（笑）。

ゆりと　自分で言うのもあれですけど、名曲が生まれてしまったなと思ってます。何年かあとに「あの曲は名曲だったな」「そういえばあれって兄弟で一緒に作ってたよな」と思い返すことになりそうだなって。

ゆっきー　共作すると聞いて、どうやって作るのかなと俺も気になっていたんですよ。結果、ナオトの書いたいいメロディにユウスケさんのやさしい歌詞が乗って、すごくいい収まり方をしたなと。

ユウスケ　この歌詞は「母親のことを書こうかな」と思いながら書き始めたんですよ。だからいつもは二人称を「君」にするけど、この曲では「あなた」と書いていて。

ナオトの心境の変化が表れた「hug.」

──ナオトさんが作詞作曲したアルバムのラストナンバー「hug.」についても聞かせてください。想像上の人物の視点から曲を書くタイプだと言っていたナオトさんがこの曲ではご自身の気持ちを素直につづっているように感じたので、どのように生まれた曲なのか気になりました。

ナオト　この曲の歌詞は本当に悩みました。曲自体は前からあって、メンバーにデモを渡していたんですよ。だけど歌詞が全然できなくて。

ゆっきー　ライブの日も楽屋でずっと考えてたよね。

ナオト　考えてたね。頭掻きすぎて、ヘアメイクのときに「頭に傷があるよ」って言われたくらい（笑）。結局、歌録りの前日までひと言も書けず……。前日も自分の家で考えていたけど、1人でいたら気が狂いそうだったのでユウスケに電話したんですよ。「今からユウスケの家で歌詞を書かせてくれ」って。

ユウスケ　そうそう。僕も一緒に考えたので何かひと言くらい入るかなと思いきや、まったく採用されてなかったのでびっくりしたんですけど（笑）。

ナオト　残念ながら（笑）。で、ユウスケにそばにいてもらっても、やっぱり書けなかったんですよ。これはヤバいぞということで「どうすればいいかな」と聞いたら、ユウスケから「誰か実在する人に向けて書けばいいんじゃない？」「親父とかに書けばいいんじゃないの？」と言われて。「確かに、書いたことないからアリかな」と思いました。だけど結局その日は歌詞が書けないまま終わってしまったんです。「もうダメだ、明日のレコーディングは中止だ」「スタッフさんに電話して、『書けませんでした』と正直に言おう」と思っていたんですけど、次の日起きたら一気に書けて。しかも、レコーディングに間に合わせるために何かをあきらめたり妥協したわけでもなく、自分が書きたかったことがすらすらと出てきたんですよ。あれはすごい体験でしたね。

──「十代などすぐに終わってく 今だって居場所を探している 気づかずに自分を壊してる 生まれて 来た意味を探してる 本当はもうとっくに知ってる 自分も愛さなきゃ」という歌詞からは、昔の自分も変わりつつある自分も認めようという気持ちが読み取れます。こういう言葉は年齢を重ねた今だからこそ出てくるものなのではと思いますが。

ナオト　ここも無意識的に書いていたので、今説明しようと思っても難しいんですけど……こういう歌詞が書けるんだなと、自分でもびっくりしましたね。

ゆっきー　「最初で最後の最愛の人」とか、ここまで正直な歌詞は今までなかったよね。

ユウスケ　この曲の歌詞には、ナオトの優しさが出ているなと思います。前作の「理由」からなんとなく感じていたけど、普段隠れていたナオトの優しさがやっと歌詞になって現れたなって。言葉の使い方が大人になったように感じました。

ナオト　確かに。より慎重にはなりましたね。

ユウスケ　「二人重ねた失敗の歴史も消せるが 消せないよ 君だってそうだろ」ってところ、「ナオトが俺に言ってるんじゃないの？」って思ったんですよ。バンドの今までの歴史や軌跡を物語っているように聞こえて……あ、でも親父に書いた曲なのか。考えすぎ？（笑）

ナオト　（笑）。でも確かに、ここの歌詞はバンドのことも思いながら書きました。

日常を切り取って音楽に

──最後に「Crop」というアルバムタイトルの由来を教えてください。

ゆっきー　車の中でしりとりをしたんですよ。タイトルになりそうな単語をみんなで出し合おうって。そしたらナオトが「トリミング」って言って。トリミングには“切り取る”という意味があるから、「いいんじゃない？」「日常を切り取るって、オレスパの曲の話にもすごく通ずるものがあるよね」という話になったんですよ。だけど犬のトリミングと被っちゃうから、同じような意味を持つ言葉を探して。それで「Crop」にたどり着きました。

ナオト　親父や母親を思い浮かべながら書いた曲もありますけど、それはあくまで曲を書くときのきっかけの話なので。街にいるいろいろな人の生活を切り取って曲にしたいという気持ちはずっとあります。

──タイトルを考えるときにしりとりをするんですね。

ゆっきー　そうですね。言葉を出すためにたまにみんなでしりとりしてます。

ユウスケ　カッコいいタイトルとかもあったよね。

ゆっきー　いろいろあったよ。「オレンジ」とか「スマイル」とか。「スマイル」はゆりとが出したんですけど。

ゆりと　いいですよね、「スマイル」。本当にいいタイトルなのになって、今でも思っているんですけど。

ユウスケ　あれ？ まだあきらめてないんだ！（笑）