音楽ナタリー PowerPush - 大森靖子×峯田和伸(銀杏BOYZ)
10年目の邂逅
道重さんに対する気持ちとまったく一緒
──大森さんはどういう気持ちで毎日メールを送ってたんですか?
大森 うーん、読んでほしいけど、でも読まれたくないみたいな気持ちだったんですよ。よくわかんないですね。で、送るときもブルブルブルブルしながら送るんです。勝手に世界を作り上げてるんですよ、私。峯田さんのことを、道重(さゆみ)さんに対する気持ちとまったく一緒の気持ちで好きだから。だから会ってもあんま話せない。なんか自分の中だけで勝手に進行してるんですよね(笑)。
──完全にファンの心理ですね。
大森 自分みたいな人に対してメールは返してないって言ったけど、峯田さんは責任感持ってライブなり音楽なりで答えみたいなものをちゃんと提示してたと思うんです。そういうのに対して「悪いな」っていつも思ってたし、そういう自分が気持ち悪いって思われるだろうなと思ってあんましゃべりたくなかったんで。そういうのと関係ないところで早く音楽してほしいっていうのをずっと思ってたから。でもこの前アルバムが9年ぶりに出たじゃないですか。「9年? なんで?」って思ったんですよ。自分は10年とかそういうキリのいいとこで出すって勝手に思ってたから。でもそこからちゃんと外れて来てくれたんだっていうのもなんかいいなと思ったんですよね。
峯田 何言ってんのか全然わかんない。
大森 (笑)。これ完全に妄想ですからね。
──大森さんの中では、銀杏BOYZの新しいアルバムは例えば10年っていう区切りの年に出るはずだというイメージがあった?
大森 いや、なんですかね。なんかふわっとした時期にポンッて出た感じがあったんですけど、でもこれ全部自分の中でそう思ったっていう話なんで。ああ、私、勝手なことばっかり言っちゃってる。今日この対談は無理だなあって思いながら来たんですけど、やっぱ無理だ! 私、これ気持ち悪いですよね?
峯田 うん(笑)。
大森 もう、この対談、誰が考えたんですか?(笑)
いつもタイトルは「大森靖子」
──峯田さんはアーティストとしての大森さんの存在を知ったのはいつですか?
峯田 誰かに聞いたんだよね。大森靖子っていう名前のミュージシャンがいて、面白いんだよって。いつだっけな。けっこう前に聞いて「大森靖子ってあの、俺にメールくれてた人かな?」と思って。
──名前を覚えてたんですね。
峯田 うん。だっていつもメールのタイトル「大森靖子」だったから。
──そうなんですか?(笑)
大森 いや、わかりやすいかなと思って(笑)。
峯田 だから覚えてて。でもすごいよね。俺も20代からずっとやってて、もう36歳だし。自分であんま自覚ないけどさ。何年もやってきてて、それを見てた人が今度やるほうの立場になって。なんかすごい。やってみるもんだなあって思ってる。
──銀杏BOYZから何かを受け取って、表現を始めた人は大森さんのほかにもたくさんいると思うんですが、峯田さん自身それを感じることはあります?
峯田 さっぱりない(笑)。「聴いてました」って言われてもさ、なんかあんまりリアリティなくて。うれしいけどね。なんかうまく説明できないんだよね。
──そういうものなんですね。
峯田 結局、1曲作って人前でやった時点で、もう先輩とか後輩とか関係ないからね。いいもの作れる人が評価されるべきだし。俺もメンバー3人いなくなって「またゼロからだなあ」って思うからさ。過去の功績とかはわかんないし、そこにあぐらかいててもダサいし。もう1回ちゃんとやんないとなあってずっと春くらいから思ってる。
温和な感じの中で死ぬのはやだなって
──大森さんは自分が峯田さんからなんらかの影響を受けてると思いますか?
大森 どうなんですかね。自分でもわからないです。音楽の内容とかはあんまり関係ないと思うんですけど、でも銀杏BOYZ聴いてなかったら、東京来てないんじゃないんですかね。
峯田 東京に来たのは何がきっかけだったんですか? 大学?
大森 大学ですけど、やっぱり愛媛っていう場所に対する違和感みたいなのがずっとあったんです。過ごしやすいところなんですよ。みんな優しいし。
峯田 うん。
大森 でもその温和な感じの中で、このまま生きていって死ぬのはやだなって思っちゃったんですよね。銀杏BOYZ聴いてて。
──大森さんは銀杏BOYZの音楽のどこに惹かれたんですか?
大森 これもっと気持ち悪い話になりますけど、大丈夫ですか?(笑)
──お願いします(笑)。
大森 (笑)。あの、銀杏BOYZを聴いたときに、初めて「この人は自分に向けて歌ってるのかもしれない」って思ったんですよ。
──峯田さんが自分のことを歌ってるということ?
大森 あはは、こんな話するの本当にイヤ(笑)。
峯田 大森さん、これも仕事だからね。
大森 はい(笑)。それまでマンガ読んでも絵を見ても音楽聴いても、全部自分と関係ない世界の話だと思ってて、共感っていうものをしたことがなかったんです。でも「SEXTEEN」っていう曲の歌詞で、街にミカンが降ってくるっていうのがあって。私、愛媛だったから(笑)、なんか曲が初めて自分の世界に入ってきた感じがしたんですよね。あ、こんなことあるんだと思って。
峯田 俺もあるよそういうの。高校のときに「さくらの唄」っていうマンガがあって。そのマンガで、主人公も高校生で、放課後に教室にちょっと残って、窓辺にひじを置いて、下を歩いてる女子生徒とかを見ながらボーッと考えてるシーンがあって。それ見て「あ、これ俺だけのためのマンガだな」って思った。作者の安達哲先生がどう思って描いたのかはわかんないけど、なんかね、特別になっちゃった。内容ももちろん好きなんですけど、あの1ページのあのワンカットを見たときの、あの感覚はどう説明したらいいかわかんない。
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- メジャーデビューシングル「きゅるきゅる」 / 2014年9月18日発売 / エイベックス・エンタテインメント
- CD+DVD / 3780円 / AVCD-83080/B
- CD / 1080円 / AVCD-83081
CD収録曲
- きゅるきゅる
- 私は面白い絶対面白いたぶん
- 裏
DVD収録内容
- きゅるきゅる(Video Clip)
- 絶対少女ツアーファイナル in 恵比寿 LIQUIDROOM
大森靖子(オオモリセイコ)
愛媛県生まれのシンガーソングライター。弾き語りスタイルでの激情的な歌が耳の早い音楽ファンの間で話題を集め、2012年4月にミニアルバム「PINK」をリリース。2013年3月に1stフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」を発表し、同年5月に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを実施。レーベルや事務所に所属しないままチケットをソールドアウトさせ大成功に収める。その後12月には直枝政広(カーネーション)プロデュースによる2ndフルアルバム「絶対少女」をリリース。レコ発ツアーファイナルを2014年3月、東京・LIQUIDROOM ebisuにて開催する。同年9月にはシングル「きゅるきゅる」でエイベックスからメジャーデビュー。自身がボーカルを務めるロックバンド、THEピンクトカレフでの活動も継続中。
銀杏BOYZ(ギンナンボーイズ)
2003年1月、GOING STEADYを突然解散させた峯田和伸(Vo, G)が、当初ソロ名義で「銀杏BOYZ」を始動させる。のちに同じくGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、 新メンバーのチン中村(G)を加え、2003年5月から本格的にバンドとしての活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時発売し、続くツアーやフェス出演では骨折、延期、逮捕など多くの事件を巻き起こす。2007年からはDVD「僕たちは世界を変えることができない」や「あいどんわなだい」「光」といったシングル作品をリリースし、2011年夏のツアーを最後にライブ活動を休止。しばしの沈黙を経て2014年1月に約9年ぶりとなるニューアルバム「光のなかに立っていてね」とライブリミックスアルバム「BEACH」を2枚同時リリースした。チン、安孫子、村井はアルバムの完成に前後してバンドを脱退しており、現在は峯田1人で活動を行っている。