音楽ナタリー PowerPush - 大森靖子×峯田和伸(銀杏BOYZ)
10年目の邂逅
会場を静まり返させるボーカルでいたい
──大森さんは受け手と送り手の違いについてどう捉えていますか?
大森 自分のライブで、特に弾き語りのときはけっこう対等になれるっていうのは感じますね。発信側としてお客さんを支配することができない。っていうのが逆に面白くて。
峯田 へえ。
大森 お客さんのほうが自分の歌の表現より、もっとすごい表情してたりとか。「お前のほうが表現力あるな!」みたいになって、それに自分が飲み込まれるのとかも楽しくて。自分のライブは押しつけたくないっていうか、表現と表現の連鎖で作っていくみたいな感覚がすごいあるんです。みんなで面白いもの作って、意味わかんない空間ができてる。逆に今アイドルとかのライブだとお客さんが強くなってて、お客さんの「オイオイ」言う声のほうがトラックよりデカかったりするじゃないですか。いろんな現場でそのバランスがぐちゃぐちゃになってて。だから自分のライブはバランスを大事にしたいって思ってます。
峯田 なんかあれですね。しっかり周りも見てるんですね。
大森 うふふ(笑)。
峯田 俺もこないださ、ひさしぶりにライブやったの。東京でやんの5年ぶりとかだったんだけど、ステージ立って歌い始めたら、目の前のお客さんの表情が、あの頃と全然変わってなくてさ。来てるやつらは変わってるんだろうけど、ライブ終わってスタッフとも「お客さんの顔、あの表情だよね。懐かしいね」って言ってたりして。うん、なんか面白かった。
大森 音に反応して出る表情が一緒なのかも。
──ステージで歌うときの感覚も5年前と同じでしたか?
峯田 いや、速度を緩めたいっていうのは思うようになったかな。
──速度を緩めたい?
峯田 うん、あの、家でパソコンとかいろいろ見てたりするとあっという間じゃないですか。友達からメール来てそれを返して、テレビ観て、いろんなことやってたらあっという間に時間が過ぎる。でも例えばCDを聴いてる人の時間は、固まっててほしいっていうか。まあライブでもいいんだけど。あのさ、最近のバンドの男のボーカルって、みんな声高いじゃないですか。
大森 そうですね。不思議。
峯田 たぶんね、普通の声だと、後ろで鳴ってる爆音に負けちゃうから。そこで声が高いと効果的なんだと思うんですけど、なんか自分のボーカルは爆音とか、ワーワー言ってる会場を静まり返させるボーカルでいたいっていうか。わかります? 言ってること。
大森 わかります。
峯田 「ちょっと黙ってろ、お前ら」っていう感じ。そういう表現をしたいんだよね。ワーッてなって、早く過ぎてく時間をストップさせたい。
大森 私もアイドルのイベント出たとき思いました。あんなに「オイオイ」言って騒いでた人たちが、私が歌った瞬間にシーンってなって、15分ずっと黙って聴いてくれてたんですよ。「あっ、すごい!」と思って(笑)。あの感動がずっと忘れられなくて。
峯田 世の中のデジタル化が進んで速度が速くなっていくほど、そういう空間って貴重になるような気がして。音楽で特別な空間を作れる気がする。
大森 なんか単純に声と歌の力を信じてない人たちがけっこう多いんだな、っていうのはフェスとか出ても思いましたね。歌を聴きたいのに歌がない。
峯田 その歌って歌詞がいいとかメロディがいいとかじゃなく……。
大森 うん、その人の声が聴きたいっていうことだと思う。
峯田 やっぱりお客さんがワーキャー騒いでる状況で歌うのと、真剣に聴いてくれてる状況で歌うのとは、絶対違って聞こえると思うんですよ。歌自体は変わんなくても、ちょっとした緊張感っていうか、状況がちょっと変わるだけで音楽の響き方は変わると思う。その状況を作れる人がアーティストなんだと思うんですよね。わかんないけど。
メジャーに行って増えた楽しいこと
──2人の活動を見ていると、生の感情を吐き出すと同時にエンタテインメントでもありたい、という姿勢が共通点としてある気がします。そのあたりはどうですか?
峯田 お金払ってくれてるお客さんに、つまらんものは見せたくないっていうのはありますよね。ライブ来て「ホント観てよかったね」って思ってほしい。若い人からしたら3200円くらいのチケットも高いじゃないですか。でも無理してチケット買って、なんなら40歳になっても「あのとき、15歳のとき観たライブ忘れられないね」って思えるような、そういうライブがしたいんですよ。
──大森さんは自分のエンタテインメント性について意識していますか?
大森 そうですね。そのためのメジャーデビューだし(笑)。単純にお金かけれるし、思いついたこと全部できる。
峯田 それができるんだったらメジャーもいいよね。
大森 思いついたことやろうとしたら、やっぱりお金かかることもあるから。それを面白がってやってくれる人がいるから、今のところ楽しいです。エンタテインメントっていうか「オモロいからやろう!」ぐらいの感じですけど。
──メジャー契約してしばらく経ちますけど、今は好調ですか?
大森 だんだんよくなってます。1人のほうがいろいろ早いし、人を介すとかはめんどくせーって思って、最初はすごい混乱してたんですけど、だんだんそれも許せるようになってきた。関わる人が増えて最初の形が曲がっちゃっても、そのまま出しちゃって、勘違いされて、それも私の責任になるけど、でもそれもいいよみたいな(笑)。気持ちの余裕がちょっとだけ生まれた。
──今回のシングルも、バンドサウンドや弾き語りとは違う、これまでにないアプローチですよね。
大森 うん、別に何か変わったわけじゃないんですけど、今までは弾き語りだとあんまりよくないから、このメロディはやめようって除外してたこともあったんです。それをしないで済むようになったから。それでけっこうラクになりました。
──じゃあメジャーならではの制約はあまり感じない?
大森 そのぶん音楽的に楽しいことが増えたから。いろんなミュージシャンと作品作るの楽しいし、いろんな音と出会えるし。それが一番楽しいですね。
- メジャーデビューシングル「きゅるきゅる」 / 2014年9月18日発売 / エイベックス・エンタテインメント
- CD+DVD / 3780円 / AVCD-83080/B
- CD / 1080円 / AVCD-83081
CD収録曲
- きゅるきゅる
- 私は面白い絶対面白いたぶん
- 裏
DVD収録内容
- きゅるきゅる(Video Clip)
- 絶対少女ツアーファイナル in 恵比寿 LIQUIDROOM
大森靖子(オオモリセイコ)
愛媛県生まれのシンガーソングライター。弾き語りスタイルでの激情的な歌が耳の早い音楽ファンの間で話題を集め、2012年4月にミニアルバム「PINK」をリリース。2013年3月に1stフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」を発表し、同年5月に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを実施。レーベルや事務所に所属しないままチケットをソールドアウトさせ大成功に収める。その後12月には直枝政広(カーネーション)プロデュースによる2ndフルアルバム「絶対少女」をリリース。レコ発ツアーファイナルを2014年3月、東京・LIQUIDROOM ebisuにて開催する。同年9月にはシングル「きゅるきゅる」でエイベックスからメジャーデビュー。自身がボーカルを務めるロックバンド、THEピンクトカレフでの活動も継続中。
銀杏BOYZ(ギンナンボーイズ)
2003年1月、GOING STEADYを突然解散させた峯田和伸(Vo, G)が、当初ソロ名義で「銀杏BOYZ」を始動させる。のちに同じくGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、 新メンバーのチン中村(G)を加え、2003年5月から本格的にバンドとしての活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時発売し、続くツアーやフェス出演では骨折、延期、逮捕など多くの事件を巻き起こす。2007年からはDVD「僕たちは世界を変えることができない」や「あいどんわなだい」「光」といったシングル作品をリリースし、2011年夏のツアーを最後にライブ活動を休止。しばしの沈黙を経て2014年1月に約9年ぶりとなるニューアルバム「光のなかに立っていてね」とライブリミックスアルバム「BEACH」を2枚同時リリースした。チン、安孫子、村井はアルバムの完成に前後してバンドを脱退しており、現在は峯田1人で活動を行っている。