ナタリー PowerPush - 陰陽座

無天の誉れを叫ぶ

「ゆきゆきて青し」のスポーティな清々しさ

──カップリングの「ゆきゆきて青し」は、このシリーズを締めくくる曲のように聞こえますね。

瞬火 そうですね。パチンコ台の今後の展開についてはもちろん僕はわかりませんが、家康に天下を譲った伊達政宗という、この「戦乱BurST!」の世界のエンディングテーマと言えるものを意図して作ってますね。主題歌のほうで戦い抜いた政宗の、その直後の心境を切り取っています。

黒猫(Vo)

黒猫 これも本当にラストシーンにふさわしい曲だなと思いましたね。一聴して純粋に好きな曲調だったので、録音前は早く歌いたくてウズウズしました。私は子供の頃、洋楽がすごく好きで熱心に聴いていたんですが、欧米の音楽にいい曲やいい歌があふれていた80年代後半とか90年代初頭の空気というか匂いというか、そういうものを陰陽座流に昇華したような感じの曲で、とても好きですね。

──わかります。曲の構想としてはどのようなものだったんですか?

瞬火 清らかさすら感じさせる戦いの果てに見上げた空の曲ですから、そりゃあもう清々しくないといけない。でも、ただただ清涼感というものだけではなく、力強く、大地に足を踏みしめるかのような充実感を感じさせるものにしたいなと。なんと言うんでしょう? 何もない休日の清々しさよりは、スポーティな清々しさ(笑)。

黒猫 何かがんばったあとのって感じだよね(笑)。

瞬火 そう(笑)。息が切れているか、切れていないかの違い。

黒猫 それはすごく感じましたね。何かをなしたあと、やりきったあとに見る空っていう。

瞬火 ストーリー的にはある意味で感動的なラストではありますけど、エンディングテーマだからといって、いわゆるバラードというもので終わる感じではない物語ですからね。この先に来るべきよき時代のために文字通り“為合う”、つまり試合をして、その時代のために自分が身を退くという、そういうスポーティなさわやかさを物語から感じていたので、リフから音像まで「力強くさわやかに」をモットーにやってみました。この物語の終わりは、この世の終わりではなく新しい時代の始まりということになりますから、それを感じさせる曲にしようと思いました。

密かに込められた“Heart感”

──最後のサビでメロディがちょっと変わって入っていくところなどは、感動を幾重にも増すようなアレンジですよね。これまでにない新鮮さを感じましたが、お2人自身はどう思われますか?

黒猫 「ゆきゆきて青し」では今までにはなかったことをちょっとやったんですよ。私は歌を歌うとき、誰か好きな歌手をイメージして臨むことはないんですけど、この曲ではちょっとある人風にしたいなと思った箇所があって。さて、どこでしょう?(笑)

瞬火 絶対にわからないよ(笑)。

黒猫 わからないよね(笑)。私、Heartのアン・ウィルソンが好きなんですけど、この曲には何か彼女のエッセンスを入れたいと思って、一部意識してみました。ロックだけどさわやかでキャッチーなこの感じは、Heartの中期というか……。

──いわゆるビッグヒットを連発していた時期ですね。アルバムで言えば「Heart」や「BRIGADE」や……。

黒猫 「BAD ANIMALS」とかそのあたりですよね。

瞬火 曲作りの段階で具体的に他人様の楽曲を意識したわけではないですけど、力強くもさわやかな、さっき黒猫が言ったような時代の音楽に通ずる楽曲をという気持ちで作りましたし、そういう時代の音楽の中にHeartは当然存在していますから、たぶんそのHeart感を黒猫が受信してしまったのでしょうね(笑)。

黒猫 Heart感(笑)。

──もしかして、最後のサビですか?

黒猫 あ、そうですね。転調して上がったところの「未来は其処にない」のあたりなんですけど。具体的にまねをしたというわけではなく、アンのイメージをほんのちょっとだけ盛り込んで、自分で勝手に悦に入るということをしていました(笑)。

──言葉でうまく説明できないですが、Heartが好きな人なら言われてから聴けば気付くと思います。

黒猫 そうですね。瞬火が作ってくる曲は常にシンガーに対してハードルを置いてもらえるので、それを飛び越える作業をいつもやらせてもらっているんですね。それが常に新鮮なんです。これだけ長い間やってますけど、新曲ができるたびに驚いて、歌う喜びを感じられる。今回もまたそれを体験できたんですけど、本当にいつも歌い手冥利に尽きるなあ、陰陽座というバンドをやっててよかったなあと思いますね。

瞬火 そう言われるとね、まるで僕が「このハードルを飛んでみろ!」って竹刀を持って……。

黒猫 鬼コーチみたいな? そんなことはないです(笑)。

瞬火 ……と思われがちですけど、僕がどんな気持ちでやってるかといったら、むしろ座布団を敷いて、お茶を置いて、お茶菓子も用意して……という、そういう気持ちで毎回作ってますよ、気持ちとしてはね。でももしかすると、その座布団が普通に敷いたつもりが縦になってハードルになっているのかもしれませんが……。

黒猫 ははは(笑)。もちろんしごかれてるとは思ってないですよ(笑)。ボーっとしながらでも歌えるようなものだったら面白くないですし、成長もできないので、すごくありがたい環境だなと思いますね。

次のアルバムは……

──今後の活動も気になるところですが、すでに次のアルバムのレコーディング作業が進みつつあるという話は公になっていますよね。

瞬火 とにかく次の新作を形にして放たないと、もう何事も話にならないので。少しでもよいものをきっちりお届けできるように鋭意録音中という感じですね。

──言える範囲で構いませんが、現時点でどんなアルバムになりそうでしょうか?

瞬火 昨年末のベストアルバム「龍凰珠玉」に収録されていた新曲「吹けよ風、轟けよ雷」はいろんな意味で新作を照らしたものですし、このシングルも例外ではありません。1つ言えるのは、例えば「吹けよ風、轟けよ雷」も「青天の三日月」にも、今まで陰陽座が培ってきたもの、積み上げてきたものをまったく崩さずに、もう1つ突き抜けるような印象をおそらく持っていただけたと思うので、新作には当然その部分を期待していただいていいと思います。といってもアルバム全体が同じ系統の曲ということは今までもありませんでしたから、いろいろと想像していただいて、その予想は裏切って期待には応えたいという感じですね。しかし……「今回のアルバムはどんなアルバムですか」と聞かれて、みんなどんなふうに答えるんですかね?「しっとりした感じのアルバム」とか「元気なアルバム」とか……? でも、そういう曲しか入ってないアルバム、っていうほうが少ないと思うんですけどね……だから「いろいろな曲が入った、素敵なアルバムです」としか言えないんですが。

──いや、それならそれで、そう言ってもらえれば(笑)。

瞬火 だって、本当にいろいろだもん。

黒猫 いろいろですねえ(笑)。

瞬火 僕の脳と皆さんの聴覚をダイレクトに接続できるのであれば今すぐ全曲お聴かせしたいくらいですけど、お待たせしたからには「待った甲斐があった!」と言ってもらわないといけませんので、本当に抜かりなく、たゆみなく作っているところです。発売はちょっと先ですけど、大変よいものたちができあがりつつありますのでお楽しみに。

ニューシングル「青天の三日月」/ 2014年3月19日発売 / KING RECORDS / KICM-1509
[CD] 1200円 / KICM-1509
収録曲
  1. 青天の三日月
  2. ゆきゆきて青し
  3. 青天の三日月(インストゥルメンタル)
  4. ゆきゆきて青し(インストゥルメンタル)
ベストアルバム「龍凰珠玉」/ 2013年12月4日発売 / KING RECORDS / 3200円 / KICS-1990~1
[CD2枚組] 3200円 / KICS-1990~1
DISC「龍」 収録曲
  1. 吹けよ風、轟けよ雷
  2. 紺碧の双刃
  3. 組曲「鬼子母神」~徨
  4. 蒼き独眼
  5. がしゃ髑髏
  6. 組曲「九尾」~玉藻前
  7. 組曲「鬼子母神」~鬼拵ノ唄
  8. 紅き群闇
  9. 相剋
  10. 生きもの狂い
  11. 鎮魂の歌
  12. 序曲
  13. 魔王
  14. 喰らいあう
DISC「凰」 収録曲
  1. 甲賀忍法帖(龍凰Remix)
  2. 組曲「義経」~悪忌判官
  3. 黒衣の天女
  4. 組曲「鬼子母神」~鬼子母人
  5. ひょうすべ
  6. 組曲「鬼子母神」~月光
  7. 紅葉
  8. 道成寺蛇ノ獄
  9. 組曲「鬼子母神」~鬼哭
  10. 慟哭
  11. 焔之鳥
  12. 鳳翼天翔
  13. 悪路王
  14. にょろにょろ
  15. 生きることとみつけたり
陰陽座(おんみょうざ)

1999年に大阪にて瞬火(B, Vo)、黒猫(Vo)、招鬼(G)、狩姦(G)の4人で結成。“妖怪ヘヴィメタル”というコンセプトのもと、人間のあらゆる感情を映す“妖怪”を題材とした楽曲を男女ツインボーカル&ツインギターで表現するスタイルが高い評価を集め、2001年にキングレコードよりメジャーデビューを果たす。コンスタントに楽曲をリリースしながら精力的にライブ活動を行い、現時点で全都道府県を2周回っている。現在までに通算10枚のオリジナルアルバムを発表しており、2013年12月には2枚目のベストアルバム「龍凰珠玉」をリリース。2014年3月には16枚目のシングル「青天の三日月」を発表した。