ナタリー PowerPush - 陰陽座

無天の誉れを叫ぶ

「草薙の太刀」のメタファー

──歌詞の作りもまた凝ったものになっていて、例えばサビの冒頭の「耀ふ 闇と 闇がる 光を」の対比構造には惹き付けられるものがあります。

瞬火 徳川家康が天下を取り、江戸幕府を立てて300年、泰平の世が続くと僕たちは学校で習うわけですよね。ただ、僕がいろんな曲で繰り返し描いていることに通じますけど、ここで言っているのは「明るく見えているのが本当に光なのか、暗く沈んでいるものが本当に闇なのか、闇に紛れた光というものはないのか、偽りの光を放っている暗黒はないのか」という話ですね。つまり、この戦いの渦中ではまだ家康が光なのか闇なのかはわからないからこそ、それを見極めるための戦いが行われている、ということですね。

──「草薙の太刀で 慥かみて」というフレーズでは、なぜここで草薙の太刀が登場したのでしょう? 神話の世界では、草薙とはいわゆる三種の神器として知られているものだそうですが。

狩姦(G)

瞬火 日本武尊が草薙の剣で草を薙いで活路を開き火から逃れたという話と、“もしも家康が天下人たり得ない器だった場合は天下泰平の道を開くために斬り捨てなければならない”ということをかけたメタフォリックな表現です。

──調べているといろいろ見えてきますね。草薙の太刀には“天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)”という別名があるそうで、そう考えると陰陽座のデビューシングル「月に叢雲花に風」と同じ文字が出てきたり、“薙”の中にある“雉”は「紺碧の双刃」で日本を表すモチーフとして使われていたりとか。

瞬火 深読みしますねえ(笑)。それが全部入っているということにしてもいいんですけど(笑)、一番の意味は活路を開いた剣ということで、別の言い方をすれば“危険=魔”を退ける刀の象徴として使っているんです。家康が天下泰平と言いながら天下を我がものにしようとする魔だとしたら、それを退けんがために草薙の剣を選んだと。

──そのあとに「其の手の 附子を 喰らえども」とありますが、「附子」とは劇薬、毒薬といった意味ですよね。

瞬火 狂言の「附子」にも出てくるトリカブトのことですね。家康は「東北の一領地はやるから、おとなしくしろよ」と政宗に言いたいわけですが、政宗がそれを突っぱねたら戦争になってしまう。だから政宗は故郷の平穏を守るためにその差し出された饅頭をありがたくいただかないといけないかもしれないけど、その中には附子が入っていて、殺そうとしているかもしれない。でも仮にそんなものを食らったとしても、自分の瞳の奥の光は消せませんよと。

抗う武士の自問自答

──2度目のAメロは「涅染(くりそめ)の爪牙」というフレーズで始まりますが、音的には最初のAメロにある「仮初(かりそめ)の従」と頭韻の構成を持ち込んだ陰陽座らしさがありますよね。ここではなぜ「涅染」という色を選んだんですか?

瞬火 要するに政宗は家康のことを半分は黒いと疑っていて、確かめる必要があると思っている。それを表したものですね。そのあとに出てくる「狸」は、要は化かすということですから「天下泰平というのは嘘なんじゃないのか? 本当はそういう黒い気持ちでいるんじゃないのか?」というところを疑っている様子ですね。政宗が「もう冗談抜きで、腹の中を全部この戦で見せろ」と家康に言っているわけです。

──その次のサビには「裁きの奉仕(ぶし)は 厭わねど」とありますが、これは何の裁きなんでしょう?

瞬火 かりそめにも一度従うと言ったあとですから、これは明らかな反逆ですよね。当然裁きがあるでしょう。それはお家取り潰しなのか、首謀者のみ斬首されるのか。いずれにせよこの戦いに関しては覚悟があるということですよね。

──なるほど。琴の音に導かれて展開していくBメロには「遠き 聲が 時勢を容れよと 諭す」とありますよね。これは誰の声ととらえればいいんでしょう?

瞬火 それは自分(政宗)ですよ。天下を治めるのはほぼ家康と確定している中で、その真贋を見定めようと抗ってみている自分に対して「こんな無駄な戦いはやめたほうがいいのでは。おとなしく時勢を受け入れるほうが賢明なのでは」と。そういう自らの声はもう半ば聞こえていながらも、同じ天下泰平を望む武人として最後の見極めをするのが自分の役目なんじゃないのかという自問自答ですよね。まさにここで政宗は青天の三日月になる覚悟を固めようとしてるんですよ。家康の時代が来てもいい、コイツでいいと選んで自分は身を引くという展開が必要なので、ここがまさにこのタイトルに至る核心の部分ですね。

無天の誉れを叫びたい

──その締めくくりとして最後のサビに「能わぬ 武士は 去りゆくも」と出てきて、「最後に 叫ぶ 無天の 誉れを」と結ばれる。無冠の帝王的な印象もすごく受けますね。

瞬火 「無天」は「無冠」をアレンジした造語で天下を取ったことがない、という意味ですけど、まさに伊達政宗ほど無天の将として名高いものはないですからね。少なくともその後300年間、一応の泰平が訪れたという結果から言えば、このとき政宗が無理に抗わず家康にその時代を渡したことは正しかった。そうすると、政宗が天下を望まなかったことこそ誉れであるべきなので……。歴史上の人物の覚悟や意志と自分のそれとを重ねるのは陰陽座の悪い癖ですが、この曲を最後に陰陽座が世に能わぬバンドとして去りゆくとしても、最後に無天の誉れを叫びたいという気持ちがここに充ち満ちていますね。

──ええ。この最後の一節は、紛うことなき瞬火流の美学ですよね。本質をいかに見失うことなく歩むかといった。

瞬火 そうですね。この先何がどう転がったって、陰陽座が無天のバンドなのは決定してますから、その宣言ですらありますね。何をもって天下とするかという話ではありますが、数字的な頂点に立つということを天下とするならば、陰陽座がその天をいただかないことは明らかでしょう。自らの理念に基づいた音楽をやり続けることで存在し続けられること自体が天下を取るに等しく価値のあることだという信念と、それに対する感謝の気持ちを込め、このやり方を貫くという意味で無天を宣言したいということです。

──日本征圧じゃありませんが、すでに全都道府県をツアーで2周しているバンドでもありますけどね(笑)。

瞬火 いやいや、中央に居ながら号令1つで天下を震わすのが天下人。全国津々浦々を回るということ自体が天下人ではない証です。それこそが陰陽座の誉れであると思っています。

ニューシングル「青天の三日月」/ 2014年3月19日発売 / KING RECORDS / KICM-1509
[CD] 1200円 / KICM-1509
収録曲
  1. 青天の三日月
  2. ゆきゆきて青し
  3. 青天の三日月(インストゥルメンタル)
  4. ゆきゆきて青し(インストゥルメンタル)
ベストアルバム「龍凰珠玉」/ 2013年12月4日発売 / KING RECORDS / 3200円 / KICS-1990~1
[CD2枚組] 3200円 / KICS-1990~1
DISC「龍」 収録曲
  1. 吹けよ風、轟けよ雷
  2. 紺碧の双刃
  3. 組曲「鬼子母神」~徨
  4. 蒼き独眼
  5. がしゃ髑髏
  6. 組曲「九尾」~玉藻前
  7. 組曲「鬼子母神」~鬼拵ノ唄
  8. 紅き群闇
  9. 相剋
  10. 生きもの狂い
  11. 鎮魂の歌
  12. 序曲
  13. 魔王
  14. 喰らいあう
DISC「凰」 収録曲
  1. 甲賀忍法帖(龍凰Remix)
  2. 組曲「義経」~悪忌判官
  3. 黒衣の天女
  4. 組曲「鬼子母神」~鬼子母人
  5. ひょうすべ
  6. 組曲「鬼子母神」~月光
  7. 紅葉
  8. 道成寺蛇ノ獄
  9. 組曲「鬼子母神」~鬼哭
  10. 慟哭
  11. 焔之鳥
  12. 鳳翼天翔
  13. 悪路王
  14. にょろにょろ
  15. 生きることとみつけたり
陰陽座(おんみょうざ)

1999年に大阪にて瞬火(B, Vo)、黒猫(Vo)、招鬼(G)、狩姦(G)の4人で結成。“妖怪ヘヴィメタル”というコンセプトのもと、人間のあらゆる感情を映す“妖怪”を題材とした楽曲を男女ツインボーカル&ツインギターで表現するスタイルが高い評価を集め、2001年にキングレコードよりメジャーデビューを果たす。コンスタントに楽曲をリリースしながら精力的にライブ活動を行い、現時点で全都道府県を2周回っている。現在までに通算10枚のオリジナルアルバムを発表しており、2013年12月には2枚目のベストアルバム「龍凰珠玉」をリリース。2014年3月には16枚目のシングル「青天の三日月」を発表した。