音楽ナタリー Power Push - 後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)×クリス・ウォラ×マシュー・カーズ(Nada Surf)
3人が語る幸福な音楽活動
インディーズで活動する意味
──後藤さん、クリスさん、マシューさん3人の共通点として、インディーズレーベルで活動されているということがあると思います。後藤さんの場合、ASIAN KUNG-FU GENERATIONではメジャーレーベルに所属している形になりますが。
マシュー うん。Nada Surfのデビューはメジャーレーベルからだったけどね。ただ、僕らは本当は最初からインディーズで活動したかったんだ。でも、インディーズレーベルで興味を示してくれるところがなくて、逆に大手のメジャーレーベルから声がかかったんだよ。で、あるときDeath Cab for Cutieのライブに行って、会場で彼らのCDを手に取ったときにそのジャケットに感銘を受けたんだ。ジャケットに描かれているフォントがシンプルで、バンドの思いがパッケージにも表れてるようで。そういうところに惹かれて、Death Cab for Cutieが所属してたBarsuk Recordsに連絡して、そこから「Let Go」(2002年リリースのアルバム)を出したんだよ。以降、Nada Surfはそのレーベルに所属しているけど居心地がいいね。自分たちの思いをきちんと形にできているし。インディーズレーベルで活動する楽しさはそういうところだね。
クリス そうだね。インディーズの語源であるインディペンデントっていう言葉の意味を考えたとき、「自由」っていうのも付いてくると思う。自由な環境だからこそ、選択肢が生まれてくると思うし。メジャーレーベルにいると、どうしてもいろんな人が関わってくるから自由さはなくなると思う。僕が思うに、自分の直感を貫きやすい環境がインディーズなんじゃないかな。例えば曲を作って、リスナーに届けたいと思ったときに、ダイレクトに伝えることができる気がする。もちろんメジャーが悪いとは思わない。作品の内容によっては大掛かりな仕掛けや、プロモーションが必要なときもあると思うから。それにそれぞれ向き不向きもあると思うし、どんなアーティストでもインディーズに向いているわけではない。ただ、僕はインディーズで活動するのが一番合ってるかな。でもゴッチはメジャーとインディーズの両方で活動してるよね? 実際のところどうなの?
後藤 アジカンで活動しているときは、メンバーやスタッフと一緒に巨大なマシンに乗っているような感じなんだよね。一方で、ソロでは本当に生身の自分の音楽性が出ているというか。
クリス わかるよ。でも、2つの環境に並行して身を置いて音楽活動できるのは、すごく健全なことだと思うな。両方のメリットもデメリットもわかるわけだし。
後藤 そうだといいんだけどね(笑)。よくインディーズはインディペンデントだって言うけど、実際のところ音楽ってそもそもが人間のインディペンデントな思いから生まれるものだから、あんまり差があっちゃいけない気がするんだよ。いつの間にか音楽産業がややこしくなりすぎた。特に、日本の場合は海外と違って会社とかレーベルに対する帰属意識が高いんだよね。
クリス そうなんだ。
後藤 日本の場合は特にそうかもしれない。ミュージシャンが自ら契約に縛られている感じがある。例えば、ソロだったら自分がアップしたいときに動画をYouTubeで公開できるけど、アジカンだったらレーベルとの契約の関係で動画1つですら自由にアップできなかったりして……。しかもアジカンのミュージックビデオは海外では視聴できなかったし。そういう契約によって、自分の音楽活動に影響が出るのは厳しいなと。だから自分個人の作品は、自分のレーベルから出そうっていう気になったんだ。
音楽があふれる時代
クリス YouTubeがあれば、アメリカにいながらにして自分の音楽を世界に発信していくことができるし、例えばハンガリーのアーティストの音楽を聴くことができるし、ものすごい便利なツールなんだけどね。それが国によって観られないというのはもどかしいね。実際に僕もYouTubeである日本のアーティストを検索したときに、動画が出てこなくて困ったことがあるよ。
後藤 残念ながらリージョンコードがあるんだよ。去年、ヨーロッパと南米にツアーで行ったんだけど、現地の人たちはASIAN KUNG-FU GENERATIONの公式MVをYouTubeで観られなかったんだよ。冗談みたいな話でしょ? だから各地域のファンが自分たちでYouTubeに動画をアップしてて。そのおかげでライブ会場でみんな歌ってくれるんだよ(笑)。
マシュー そうなのか。っていうか、今の時代の子供のステレオ代わりだよね、YouTubeって。
後藤 そう思う。僕は田舎出身なんだけど、学生の頃はレコードショップとか友達同士のコミュニティでしか最新の音楽を共有することができなくて。今は誰もが平等に音楽を楽しめる。だからいい時代になったと思うよ。
クリス・マシュー ハハハハ(笑)。
クリス まあ、音楽の聴かれ方もYouTubeの普及によって変わってきたよね。僕が12歳くらいの頃は、1枚のシングルを買ったら何回も聴いてたもんだけど、今の若い世代は、ストリーミングサービスもあるしいろんな音楽を好きなように何回でも聴ける。
マシュー ただ情報過多な部分もあると思うんだよ。いろいろあるから混乱してしまう部分があるだろうし。
クリス その通り! 音楽って世の中にあふれてるから。僕らの時代は、誰のレビューを読んで、どの友達の意見を信頼するかで買うCDを決めてたからね。そこからミックステープを作ったりしてさ。選択肢が限られている中で、さらに選んでいかなくちゃいけなかった。音楽を聴くのにお金もかかったし。今はあらゆるところで音楽が流れてて、しかも無料で聴けるからね。音楽が聞こえないのは、このインタビューの瞬間くらいなんじゃないかってくらいあふれてる。そうなってくると音楽が、水や土、空気のような存在になってくるんじゃないかな。
後藤 確かに、そんな気がするね。
音楽制作における幸せな瞬間
──皆さん音楽活動をする中で、幸せだと感じるときはどんなときですか?
クリス 作った音楽を、自分が最初に思い描いた通りに聴く人に届けられたときかな。だからインディーズで活動している今の状況は、自分にはぴったりだね。それでも音楽を作っていく過程で妥協しなきゃいけないことは多々あるわけで。その妥協点を自分の意思で決められることが大事かな。例えば作品を作る中で、発売時期をレーベルに決められちゃったり、完成には程遠いのにレーベルに急かされて発売されることになったりするようなことは自分が納得できない妥協なので。そういう状況にならないように、スタッフとのコミュニケーションは大切にしないとね。あと自分が作った音楽が、誰かの気持ちに寄り添えるようなものになることが理想だね。
マシュー 僕の場合は、自分が音楽を作っているときや、ライブをしているときのワクワクした気持ちを保てている状態のときかな。何かに集中してるときに、それが途切れてしまうと、幸せにつながらないと思うんだよ。まあ、基本的に音楽を作ってるときは幸せなんだけどね(笑)。ゴッチはどう?
後藤 そうだなあ……音楽を作っているときは、生まれた場所も年齢も全然違う人たちと一緒に美しいハーモニーを奏でられる。そういう時間を過ごしているときが僕にとっては幸せ。例えばライブでオーディエンスと一緒に時間を共有しているときも幸せだし。でも、僕たちが作った音楽は、200年後には等しくゴミになるから。僕が尊敬する坂本龍一さんですら「100年後に僕の音楽は残るかな?」って言ってるし。
クリス まあね。
後藤 そういったことを考えると、やればやるほど音楽のことが好きになって、愛おしくなって。音っていうのは鳴ったそばから消えていくものだけど、最高の音を鳴らした瞬間をちゃんとつかまえたいっていつもレコーディングの現場では思ってる。それと音楽があふれてる今の時代だからこそ、僕らは根源的なところに戻っていくべきなんじゃないかなと思う。音楽はもともと何かを祝ったり喜んだり、鎮魂するときに存在するものだったと思うし、なによりもタダだったわけじゃない? それと音楽は目的であって、手段じゃないから。お金を儲けるために音楽をやってるわけでもないし、有名になるために音楽をやってるわけじゃない。そういうことを忘れないことが、音楽活動をしていく上で一番大事だと思う。
マシュー まったくその通り!
Gotch 2ndソロアルバム「タイトル未定」初夏リリース予定
後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)主宰レーベルonly in dreamsよりGotch 2ndソロアルバム(タイトル未定)初夏リリース予定!
- Nada Surf ニューアルバム「You Know Who You Are」[CD2枚組] 2016年3月16日発売 / 2400円 / only in dreams / ODCP-013
- 「You Know Who You Are」
収録曲
- Cold To See Clear
- Believe You're Mine
- Friend Hospital
- New Bird
- Out Of The Dark
- Rushing
- Animal
- You Know Who You Are
- Gold Sounds
- Victory's Yours
日本初回盤限定特典 ボーナス・ディスク収録曲
- No Quick Fix
- From The Rooftop Down
- Fools
- Concrete Bed (original)
- Au Fond Du Rêve Doré
- Whose Authority (acoustic)
- I Like What You Say (acoustic)
- I Wanna Take You Home
- Everyone's On Tour
- Je T'Attendais
- The Future (acoustic)
- Looking Through (acoustic)
- When I Was Young (acoustic)
- Waiting For Something (acoustic)
- Clear Eye Clouded Mind (acoustic)
収録曲
- Kanta's Theme
- Introductions
- I Believe In the Night
- Goodbye
- Flytoget
後藤正文(ゴトウマサフミ)
1976年生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマンとして2003年にメジャーデビューする。2010年にインディーズレーベルonly in dreamsを立ち上げ、国内外のアーティストの作品を同レーベルよりリリース。2012年8月に7inchアナログ「LOST」をGotch名義で発表し、2014年4月に1stソロアルバム「Can't Be Forever Young」をリリースする。また新聞「The Future Times」の編集長を務めたり、コラム集「ゴッチ語録-GOTCH GO ROCK!」「ゴッチ語録 A to Z」を上梓するなど音楽以外の活動も活発に展開している。
クリス・ウォラ
1975年生まれ、アメリカ・ワシントン出身のアーティスト。Death Cab for Cutieのギタリスト兼ソングライターとして17年間にわたって活躍し、バンド在籍中の2008年に1stソロアルバム「Field Manual」を発表した。2014年にDeath Cab for Cutieを脱退し、翌2015年12月に2ndソロアルバム「Tape Loops」をリリースした。Nada SurfやSuicide Medicineといったバンドのプロデュースも手がける。
マシュー・カーズ
1967年生まれ。アメリカ・ニューヨーク出身のバンドNada Surfのギタリスト兼ボーカリスト。1992年にNada Surfを結成し、1996年にデビューアルバム「High/Low」をメジャーレーベルからリリースする。2000年代に入ってからインディーズに拠点を移し、2005年に元Death Cab for Cutieのクリス・ウォラのプロデュースによるアルバム「The Weight Is a Gift」を発表。2016年3月にNada Surfにとって通算8枚目となるオリジナルアルバム「You Know Who You Are」をリリースした。