小説家が書いて女優が歌う
──前作「シンドローム」前後から、みんなが求める鬼束ちひろと言うか、“鬼束ちひろらしさ”みたいなものを素直に出すようになりましたよね。
そうですね。それしかできないなって思って。
──今作はその純度がさらに上がってる気がします。
うん、俯瞰で作ってるつもりなんですけど「ヒナギク」が完成したとき「私っぽい」って思った。
──わかります。この2曲はどちらもすごく鬼束さんっぽい。
そうですよね。不器用だからこうなっちゃう。今まで書いた曲を振り返ると「ヒナギク」みたいな曲も「Twilight Dreams」みたいな曲もないと思う。でも結局“私”を通してるから、どこか共通点が出てくるんでしょうね。
──曲を書くときに心がけていることはありますか?
不純物を混ぜないようにっていうのは思ってます。明るい曲でも暗い曲でもとことんそっちに寄せる。めっちゃ明るいか、めっちゃ暗いか。中途半端なのはイヤなんで。
──確かにどの曲も純粋で、筋が通ってる印象があります。
漁師の家系だからな。
──えっ?
おじいちゃんもお父さんも漁師だったから。
──その血筋が影響してるんですかね。
うん、おじいちゃんとお父さんと私は性格が似てるので。
──海の男の潔さみたいなことですか?
そういうのがあるのかなってよく思う、曲書いてて。
──曲の主人公は鬼束さん自身ではないんですよね。
全然ない。こないだ見てもらった占いの人によると私は小説家にめちゃくちゃ向いてるらしくて、でも文章はヘタだから歌詞を書いてる。物語を書いてる感覚です。
──歌詞で自分自身を表現するソングライターもいますが、鬼束さんはそうじゃない。
うん、自分で物語を書いて、その主人公になりきって歌ってる感じです。自分ではなんか女優っぽいって思う。昔は女優の話とかもよくあったし。やらなかったけど。
──女優の仕事のオファーが来てたんですか?
シングルマザーのジャズシンガー役とかありましたね。でもそれは女優さんがやってればいいと思う。私は歌うたいだから。
“鬼束ちひろ”を背負ってる
──ところで前回のインタビュー(参照:鬼束ちひろ「シンドローム」インタビュー)では体を鍛えてると言ってましたが、それは続いてるんでしょうか?
もうやってないですね。今は走る暇があったらスタンプ押してる。
──スタンプ?
あの、サンリオにすごいハマってて、サンリオのスタンプセットみたいのを買ったんです。それをずっと押してる。
──サンリオのキャラクターがスタンプになってるんですか?
そう。あと文字のスタンプもあって、それで作品みたいなのを作ってますね。サンリオの結束感ハンパないです。
──そんなに楽しいものなんですか。
シールとかだったら終わりが来るでしょ? でもスタンプは永遠に押せるから。その感覚がいいんです。たぶん女の子はわかると思う。
──それは単に趣味なんですか? どこかで発表するとかじゃなく?
うん、好きなだけです。でも私がやってることに共通してるのは“作る”ってことで。歌いたい曲がないから作るし、靴も履きたい靴がないからカスタムしたりして。家に工具がいっぱいある。
──歌だけじゃなくて、とにかく何かを作りたい人なんですね。
自分で言うのもなんだけど芸術家肌なんでしょうね。歌手になってなかったとしても何かを作ってたと思う。今歌手をやってるのも運がよかっただけで、私より歌がうまい人はいっぱいいますからね。私が歌ってるのは自分が若いとき音楽に救われたんで、その恩返しをしてるだけなんです。
──歌は好きですか?
苦しいときと苦しくないときがある。
──歌うことを苦しく感じるときもあるんですか?
うん、やっぱり“鬼束ちひろ”を背負ってるから。私を全うしなきゃいけないっていつも思っていて、それが負担になるときがある。義務のように感じてる。
──そこから逃げ出したくなるときもある?
でも速く走りすぎてて止まり方がわからないんですよね。一種の病気だと思うんだけど、鏡を見ると「私って形あるんだ」って思うんです。普段から感情だけで動いてて、自分の肉体を忘れることがあるから。逆にほかの人が皮膚の袋に見えるときもあります。
──これまでの活動を振り返っていかがですか?
無駄と思えることも絶対つながるってことが37年生きてきてわかったんです。ヒナギクも無駄に花の名前を覚えてた時期があってそれで知ったし。私は「人生の無駄は心の宝」って思ってて、無駄をすごく大事にしてる。くだらないことを真剣にやる。やらないと気が済まないんですよね。
──じゃあ今の鬼束さんの何気ない生活も、いつか曲になるかもしれないですね。
うん、みんなが私に歌を求めるなら全部いつかつながる。自分でつなげようと思ってるわけじゃないけど、自然とつながって1つのものになるんだと思います。
- 鬼束ちひろ「ヒナギク」
- 2018年8月22日発売 / Victor Entertainment
-
プレミアム・コレクターズ・エディション
[SHM-CD+Blu-ray Disc+フォトブック]
3024円 / VIZL-1430 -
初回限定盤
[CD+DVD]
1836円 / VIZL-1429 -
通常盤
[CD]
1296円 / VICL-37430
- 初回限定盤、通常盤 CD収録曲
-
- ヒナギク
- Twilight Dreams
- 帰り路をなくして(Live at Zepp Nagoya on May 1, 2017)
- ラストメロディー(Live at Zepp Nagoya on May 1, 2017)
- X(Live at Zepp Nagoya on May 1, 2017)
- 初回限定盤 DVD収録内容
-
- ヒナギク(Music Video)
- プレミアム・コレクターズ・エディション
SHM-CD収録曲 -
- ヒナギク
- Twilight Dreams
- 帰り路をなくして(Live at Zepp Nagoya on May 1, 2017)
- ラストメロディー(Live at Zepp Nagoya on May 1, 2017)
- X(Live at Zepp Nagoya on May 1, 2017)
- 火の鳥(Live at Zepp Nagoya on May 1, 2017)
- ヒナギク(instrumental)
- Twilight Dreams(instrumental)
- プレミアム・コレクターズ・エディション
Blu-ray収録内容 -
- ヒナギク(Music Video)
- Music Video メイキング
- 鬼束ちひろ(オニツカチヒロ)
- 1980年生まれ、宮崎県出身のシンガーソングライター。2000年2月にデビューし、2ndシングル「月光」がテレビドラマ「TRICK」の主題歌に採用され大ヒットを記録。翌2001年リリースの1stアルバム「インソムニア」がミリオンセラーとなり、一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。2011年4月に自伝的エッセイ「月の破片」、6thアルバム「剣と楓」を発表し、2012年5月には洋楽カバーを中心としたアルバム「FAMOUS MICROPHONE」をリリースした。2014年9月には自身が率いるバンド「鬼束ちひろ & BILLYS SANDWITCHES」名義で、アルバム「TRICKY SISTERS MAGIC BURGER」をリリース。2015年に花岡なつみに書き下ろし曲「夏の罪」を提供した。2016年11月にビクターエンタテインメント移籍シングル「good bye my love」を、2017年2月に6年ぶりとなるオリジナルアルバム「シンドローム」をリリース。2018年8月にニューシングル「ヒナギク」を発表した。
タグ