音楽ナタリー Power Push - 鬼束ちひろ

孤高の歌姫、原点回帰

鬼束ちひろが6年ぶりとなるオリジナルアルバム「シンドローム」を発表する。

2016年11月にリリースしたビクターエンタテインメント移籍シングル「good bye my love」で、デビュー時を思わせる圧倒的な歌声を聴かせた彼女。同時に公開されたナチュラルで凛としたビジュアルも話題を呼び、多くのリスナーが“鬼束ちひろの原点回帰”を歓迎した。

「good bye my love」の流れを汲む形でリリースされるニューアルバムも、鬼束の歌を堪能できる濃密な1作に仕上がっている。デビューから17年を経て、今、彼女はどんなモードなのか。じっくり話を聞いた。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 草場雄介

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不器用だから原点回帰

──今回のアルバムは、歌を中心に据えたシンプルで力強い内容になりました。「こういう鬼束ちひろを待っていた」という人は多いんじゃないでしょうか。

鬼束ちひろ

はい、原点回帰って感じですね。

──今回こういう作品が生まれたきっかけは?

そこは今のディレクターさん(ビクターエンタテインメントの木谷徹氏)との出会いが大きいです。今までは全部自分でプロデュースしたいっていう気持ちがあったんですけど、人に任せることも大事だなって今回気が付いて。だから私は詞と曲と歌に専念して、曲のチョイスから曲順までほとんどお任せしようって。

──出会いはいつ頃だったんですか?

2年前かな、花岡なつみさんに「夏の罪」っていう曲を提供したときに出会ったディレクターさんなんですけど、私がもともと持ってるいいところを自然に伝えてくださる方で。木谷さんに出会って、やっぱり私不器用だし、あんまりいろんなことはできないのかなって思うようになった。原点回帰でいいんだって思ったんです。

──新しいアーティスト写真もナチュラルなイメージですね。ここ数年が派手なメイクやファッションも含めて表現の幅を広げてきた時期だとしたら、今はあえてフォーカスを絞って核の部分を見せている印象があります。

この前36歳になったんですけど、やっぱり20代後半の頃は、自分の潜在能力みたいなものを試してみたい気持ちがあったんですよね。後悔してるわけじゃないけど、やってみて失敗したりとか、そういうのもいっぱい経験してきて。あとは虚勢っていうか強がりみたいなものもあったと思う。例えば以前はスタッフから「ちひろちゃんの野生の部分も出してみようよ」って言われたら、じゃあ期待に応えてやってみようかなって、無意識のうちにすごくがんばってたんです。私の悪い癖なんですけど期待されてるなら応えたいっていう変なサービス精神があって。そういうのが今はすーっとなくなった。

──野生の鬼束さんも魅力的でしたけどね。

でも最後のほうはしんどかった。撮影も私服が多くなってメイクも自分で、みたいな感じになってきて、そうすると音楽のほうがおろそかになっていくんですよ。不器用だからそんな一度になんでもはできなくて。それがすごく身に染みた。がんばるのはパフォーマンスだけで十分なんだって最近改めて感じてます。

みんなが求める鬼束ちひろ像に応えたい

──移籍直後で初めて一緒に作業するディレクターに多くを委ねることに不安はなかったですか?

あの、これは全然批判とかじゃないんですけど、今のアーティストって自分で全部プロデュースする人が多いじゃないですか。

──というと?

鬼束ちひろ

世界観を作り込んで、それを演出するのがうまい人が多い。そういうアーティストもいていいと思うけど、私みたいなアーティストもいていいと思うんです。詞と曲と歌だけに専念しますっていう。

──以前は自分で全部プロデュースしたいという気持ちがあった?

気持ちがあったっていうか、しなきゃいけないのかなって思ってた。そういう人が周りにたくさんいたから、そうあるべきなのかなって思ってた。

──でもそうじゃないんだと。

うん、自分はそんな器用じゃないってわかったので(笑)。今は自分をガンガン出すっていうより、みんなが求めてる鬼束ちひろ像に応えるっていうことをすごく重視してます。そこらへんが柔軟になってきた。

──でもやっぱりアーティストとして、自分自身を作品で表現したいという気持ちもあるのでは?

それは詞と曲を書いてる時点で十分にやらせてもらってるので。ディレクターさんも詞曲に関しては何も言わないんですよね。そこは譲れないものがあるし、土台さえしっかりしてればいいって思うんです。

──一方で、自分が作りたいものを作れればファンがどう思うかは関係ない、というアーティストもいますよね。

あ、今はそういうのもないです。媚びるつもりはないし、なんか悪い言い方かもしれないですけど、私が作ってるのは商品ですから。ファンの人たちはどんな鬼束ちひろが好きなんだろうって、そっちのほうが大事だなって思いました。だからやらされてる感みたいなのも全然ないんです。

身体を楽器みたいに鳴らしたい

──今の鬼束さんはボーカルや体調も含め、いいコンディションで活動できている感じがしますね。

鬼束ちひろ

たぶん運動の成果です。鍛えていって、もっと身体を楽器みたいに鳴らしたいんです。まあ飽き性だからいつまで続くかわかんないですけど。

──日々の健康管理にも気を遣っていますか?

健康管理は全然してない。お菓子食べ放題。

──運動してる人は、日常生活全般ストイックになりそうなものですけど。

それだとただのオシャレな人になっちゃうんで。“リンネル女子”みたいになるのはイヤなんです。どっかで野生児みたいなのがテーマだから。

──野生の部分は捨ててないんですね。

基本は全然変わんないです。

──30代半ばを迎えて落ち着いてきたところもありますか?

あの、これアーティストが言っていいかどうかわかんないけど、疲れたんだろうなって思います。

──ああ、確かに以前のあのアッパーなテンションのまま一生やっていくのは無理ですもんね。

鬼束ちひろ

そう感じてたときに出会ったのが今のディレクターさんで。新しいアルバムは、その疲れがいい形で出たなって私は思ってるんです。変わらずハイな自分もいるんですけど、方向性がちょっと違うというか。

──「疲れた」と言うと誤解を招きそうですが、平熱を取り戻したというか、奇をてらったことをしなくても、詞と曲と歌がよかったらそれでいいということですよね。

うん、結局それしかできないんです。

ニューアルバム「シンドローム」2017年2月1日発売 / Victor Entertainment
初回限定盤 [CD2枚組]3996円 / VIZL-1087
通常盤 [CD] 3024円 / VICL-64691
CD収録曲
DISC 1
  1. good bye my love
  2. 碧の方舟
  3. 弦葬曲
  4. Sweet Hi-Five
  5. ULTIMATE FICTION
  6. 悲しみの気球
  7. シャンデリア
  8. 火の鳥
  9. good bye my love(acoustic version)
DISC 2(初回限定盤のみ)

LIVE 2016 BEST SELECTION ~TIGERLILY

  1. 月光 ※
  2. 眩暈 ※
  3. 流星群 ※
  4. 私とワルツを *
  5. MAGICAL WORLD ※
  6. everyhome *
  7. 蛍 ※
  8. 帰り路をなくして ※
  9. 惑星の森 *
  10. 夏の罪 ※

*Live at 大阪サンケイホールブリーゼ on July 22, 2016
※Live at 東京中野サンプラザホール on November 4, 2016

ライブ情報
鬼束ちひろ コンサートツアー[シンドローム]
  • 2017年4月13日(木)神奈川県 CLUB CITTA'
  • 2017年5月1日(月)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2017年5月16日(火)大阪府 Zepp Namba
  • 2017年5月28日(日)宮城県 電力ホール
  • 2017年6月9日(金)福岡県 福岡国際会議場メインホール
  • 2017年6月23日(金)沖縄県 ミュージックタウン音市場
  • 2017年7月7日(金)北海道 Zepp Sapporo
  • 2017年7月12日(水)東京都 中野サンプラザホール
鬼束ちひろ(オニツカチヒロ)
鬼束ちひろ

1980年生まれ、宮崎県出身のシンガーソングライター。2000年2月にデビューし、2ndシングル「月光」がテレビドラマ「TRICK」の主題歌に採用され大ヒットを記録。翌2001年リリースの1stアルバム「インソムニア」がミリオンセラーとなり、一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。2011年4月に自伝的エッセイ「月の破片」、6thアルバム「剣と楓」を発表し、2012年5月には洋楽カバーを中心としたアルバム「FAMOUS MICROPHONE」をリリースした。2014年9月には自身が率いるバンド「鬼束ちひろ & BILLYS SANDWITCHES」名義で、アルバム「TRICKY SISTERS MAGIC BURGER」をリリース。2015年に花岡なつみに書き下ろし曲「夏の罪」を提供した。2016年11月にビクターエンタテインメント移籍シングル「good bye my love」を発表。2017年2月に6年ぶりとなるオリジナルアルバム「シンドローム」をリリースする。