ラップにとにかく大苦戦

──そして「私は最強」は、Mrs. GREEN APPLEが手がけたロック系のナンバーです。起伏に富んだメロディライン、特にサビの高音ファルセットはインパクトが強いですね。

デモ音源はご本人（Mrs. GREEN APPLEの大森元貴）が歌ってくださっていたのですが、音域がすごく高くて。「こんな音が出せるって、すごいな」と驚きつつ、がんばって歌いました。「新時代」とはまた違った“希望感”があって。爽快だし、背中をグワーッと押してくれる感じがあります。すべてを巻き込みながら、「みんな幸せになっちゃえ！」というようなパワーがあるし、私自身も歌っていて楽しかったです。歌詞にもウタらしい愛らしさ、おてんばで元気な感じが描かれていると感じました。ただ、映画のストーリーとともに聴くと、“最強”が違った意味に聞こえてきて……。そのことに気付いたときは度肝を抜かれました。映画の公開前に配信されるので、楽曲を聴いてから映画を観てもらえたら、より楽しんでいただけると思います。

──Vaundyさんが手がけた「逆光」は、攻撃的なサウンド、ダークな雰囲気のメロディが突き刺さるアッパーチューンです。激しくシャウトするパートもあり、Adoさんの本来のボーカルを生かせた曲なのかなと。

確かに、得意なところかもしれないです。こういう曲を歌姫であるウタが歌うのは、ちょっと意外だったのですが、「逆光」の中にある怒りの感情というのは私自身にもあって。自分の人生や中身と重ねやすかったし、ウタという役にグッと入り込めた感じもありました。

──怒りが自分のモチベーションになってる部分もある、と。

そうですね。昔とはその怒りの種類がちょっと違った気もするんですが、今もあると思います。「逆光」は純粋にカッコいい曲だし、完成したものを聴いたときも、「カッコいいな！」という手応えがありました。

──続いて「ウタカタララバイ」は、FAKE TYPE.が制作したナンバーです。ジャズや歌謡のテイストを交えたサウンドと、ラップを取り入れたボーカルのバランスが素晴らしいですね。

「ウタカタララバイ」も、「ウタ、こういう曲も歌うんだ？」と感じた曲ですね。私自身、ここまで本格的なラップに挑戦するのは初めてでした。「踊」のようなゆったりしたラップは経験があったのですが、こんなに言葉が詰まっていて、マシンガンのようなラップは歌ったことがなかったです。最初は「どどど、どうしよう？」という感じだったものの、何回も何回もデモ音源を聴いて、いろんなニュアンスを試してみて。最初は歌詞を見ながら歌っていたのですが、途中で「これはダメだ……」と。言葉の意味を一旦置いておいて、聞こえてくる音を頼りに歌ってみたりして、とにかく大苦戦でした。結果的にいい形に仕上がってよかったです。

──そのほか、ウタとして歌っている楽曲には壮大なバラードなどがありますが、やはりシンガーとして新たなトライが多かったですか？

そうですね。ラップもそうですし、「私は最強」みたいな曲も歌ったことがなかったですし。自分としては「バラードは得意じゃない」と思っていたので、やっぱりウタとして歌うことでかなり成長した部分があったのかなと感じています。

自分の可能性、まだまだあるかも

──映画の中で、ウタは自らの意思で歌を発信し、世界中に大きな影響を与えます。Adoさんもご自分で歌い手として活動を始め、「うっせぇわ」のヒットをきっかけに社会現象を巻き起こしましたが、ブレイクしたあと、歌に対する意識に変化はありましたか？

全然有名じゃなかった頃は、応援してくれていた方がいたにも関わらず、“自分中心”というところが強かったかもしれないです。いろんな方に歌を聴いてもらえるようになってからは、「さらに驚いてもらいたい」「もっと喜んでもらいたい」という思いが出てきて。今、応援してくださっている方に喜んでほしいのはもちろんですし、まだ私のことを知らない方にも伝えたいという気持ちも生まれてきました。自分中心ではなく、“自分以外”という感覚が強くなったと言いますか。

──いい意味で欲が出てきた、と。

そうですね、いい欲だと思います。これまでは先のことなんてわからなかったし、とにかく自分を信じて、現状をがんばるしかなかったのですが、今はたくさんの方に聴いてもらえているからこそ、自分のいろんな部分を出していきたくて。レコーディングするときも、「こういう声を出したら、みんな驚いてくれるかな？」とか、「これまでとは違う歌い方をやってみよう」と思うし、いい意味で迷いが多くなりました。歌に関しては、ちょっと自信が出てきました。

──「自分が試行錯誤することで、リスナーの皆さんも喜んでくれるはずだ」という確信が持てた？

自分の歌声を客観的に聴けるようになったのかもしれないですね。「これは得意」「これは苦手」という判断ができるようになったり、「これだとキツく聞こえるかな」と考えたり。あと、「どういう感じに歌えば気持ちよく聞こえるかな？」ということも少しずつ自分なりにわかってきました。それが聴き手に本当に伝わっているかはわからないですが、ある程度は自分の声をコントロールできるようになってきたのかなと思います。

──なるほど。「ONE PIECE FILM RED」に参加したことで、表現の幅はさらに広がりそうですね。

2カ月くらいかけてレコーディングしたのも初めてですし、なんといってもウタという役として歌わせてもらったことは、本当にいい経験になりました。役の中に感情があり、悲しみ、怒り、喜びを歌うことができて。「自分の可能性、まだまだあるかもしれない」と感じました。

──映画を楽しみにしている「ONE PIECE」のファンの方々に対しては、どんな思いがありますか？

本当にたくさんの方に愛されている作品ですし、「本当に私で大丈夫でしたか？」という気持ちもあります。もちろん最善を尽くして、すべて全力で歌わせていただきましたし、とにかく7組のアーティストの方々が提供してくださった楽曲が素晴らしいので、楽しんでいただけたらなと思っています。ウタというキャラクターを通し、自分の歌声がいろんな方に届くのも本当にうれしいです。映画を観てくださった方々からの感想も楽しみです。