オーイシマサヨシ|「コップクラフト」OPに散りばめられたオマージュの数々を明かす

オマージュとして、笑ってもらえるかな?

──オーイシさんの楽曲は毎度イントロもめちゃくちゃ凝っていますよね。

「楽園都市」はもう完全に、いろんなオマージュが入ってますね。アニメだったら大野雄二さんの「ルパン三世のテーマ」だったり、そのオマージュでもある菅野よう子さんの「Tank!」(アニメ「カウボーイビバップ」オープニングテーマ)だったり。後者は主にリズムを参考にさせてもらったんですけど、僕は菅野さんが大好きで、なんなら「Tank!」は自分のライブのSEに使ってるぐらいなんです。もちろん大野さんにしても偉大な音楽家ですから、最大限の敬意を払って自分なりに作り込みました。めっちゃ時間をかけて、あの8小節のアレンジだけで丸1日かかったかな。

オーイシマサヨシ

──銃声のSEも「ルパン三世のテーマ」のオマージュ?

あ、実はですね、「ルパン三世のテーマ」って銃声は入ってないんですよ。いかにも「バキューン!」って音が鳴ってそうなイメージなんですけど。それで言うと「ルパン三世のテーマ」にしても「Tank!」にしても、「楽園都市」と並べて聴くと全然違うんですね。だから「そのへん、オマージュとしてどうかな?」「笑ってもらえるかな?」って不安だったりして(笑)。

──ははは(笑)。

やっぱりオマージュがスベると、ちょっと怖いことになるじゃないですか。一方で、「楽園都市」から連想される曲っていろいろあると思うんですけど、今言ったように並べて聴くと実は違っていて、なのに「なんか似てる」と思ってしまう脳の回路って、音楽心理学みたいなところがあって僕も作ってて面白かったんですよね。あとラテン感ということで言えば、例えば「残酷な天使のテーゼ」のサビはラテンのリズムなんですよ。自分としては、そういうキャッチーさの裏に隠れている匠の技みたいなものをサンプリングした感じがあったので、そのへんも面白がってもらえたらいいなあって。

──「楽園都市」もイントロはスパイ映画のサントラのような雰囲気ですが、サビから一気にラテン色が濃くなりますよね。

そうやってどんどん変わっていく、ジャンルが雑多に混じってる感じというのもサンテレサ市っぽさがあるかなって。でも、それでいて物語性は失わず、全体的にハードボイルドな空気を漂わせるのはかなり意識しましたね。まあ、いまだに「何が正解だったのかなあ」とか思ったりもするんですけど、ただ1つ言えることは、トラックダウンが終わったあとの音源を、今まで作ってきたどの曲よりも多く聴いてます。車の中でもずっと「楽園都市」を流してて、けっこう気持ちいいんですよ。ボリュームを大きめにして、首都高を走っていると。

──歌詞にある「100万ドルを望む シティライツ」を横目に。

そうそう(笑)。

オーイシマサヨシ

バディモノだからこそ“俺”も“君”もいない

──その歌詞もやはり洒落ているというか、ある種、シティポップ的でもありますよね。

我ながら今回は歌詞もけっこうよくできてるんじゃないかと思っていて。例えば、一人称と二人称がまったく出てこないんです。1カ所だけ「どこまでいこう 兄弟」と呼びかけるところはあるんですけど、ハードボイルドな世界で“俺”を語るのは野暮ったいし、“君”と言い始めると恋愛っぽくなっちゃう。要は、あくまでバディモノとして、主人公と相棒という2人の距離感をちゃんと表現するという点に気をつけて歌詞を書きましたね。よくできてると思うんですけど……。

──いや、2回おっしゃらなくても大丈夫です(笑)。素敵な歌詞です。

あと、自分の家の灯りがいわゆる「100万ドルの夜景」の1つになっていることに対するネガティブさとポジティブさのせめぎ合いみたいなことも言いたくて。つまり「俺はこの100万分の1のちっぽけな光でしかないんだ」という思いと、「それでも俺はまだこの街にしがみついていられるんだ」という思いが共存している。僕は愛媛の田舎から都会に出てきた人間なので、そういう自分のドキュメントも重ねつつ、同時に「コップクラフト」の作品性ともリンクするかもしれないと思って。

──と言いますと?

例えばこのあとの展開で悲しい出来事が起こったりもするんですけど、それでもこの街にいる2人、みたいな。実はそのリンクするポイントを探すのが大変で、どこに焦点を当てようか悩んだんですよ。バディモノだからといって2人の関係性にフォーカスすると、どうしても男女なのでさっきも言ったように恋愛要素が滲んでしまう。そこで、あえてその2人から視点を逸らして街に目を向けたっていう。

オーイシマサヨシ

──心理描写より情景描写に比重を置いていると。

そうですね。でも、悩みはしたんですけど、2行目の「遠巻きじゃここは楽園」というフレーズが出てきた瞬間、「できた!」って思いました。

──視点のズームインとズームアウトも巧みですよね。「遠巻きじゃここは楽園」ということは近くで見たらそうではないことを暗に示していますし、実際、歌詞の3行目でそれが「骨組みだらけのハイウェイ」であることが明かされています。

実はその手法って、僕が2000年代前半にSound Scheduleというバンドで歌詞を書いていたときの手法と同じなんですよ。当時のバンドシーンって、例えばBUMP OF CHICKENさんだったりとか、小説や映画を思わせるような情景描写の応酬みたいな歌詞が1つのトレンドになっていて。僕もそれに倣って作詞におけるカメラの扱い方みたいなことを学んだんですけど、ひさしぶりにその引き出しを開けた感じはありましたね。

──その視点の移動ないしは切り替わりも、楽曲のスリリングな展開にマッチしていると思います。

そこも意図的にやっていて。それこそズームアウトした“楽園”から、急に“骨組み”までズームインして、「どこまでいこう 兄弟」で視点が相棒に切り替わって、サビでは「街は作って壊して 忙しいや」とまた全体像を映すみたいな。しかも「コップクラフト」のオープニングの映像が僕の視点とまったく同じ視点で描かれていたので、テレビの前で「それそれ!」って言いながら観てました(笑)。